NYCBの創立75周年記念公演ではオール・バランシン・プログラムが組まれ、貴重な作品が上演された

ワールドレポート/ニューヨーク

ブルーシャ 西村 Text by BRUIXA NISHIMURA

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

All Balanchine I
"Western Symphony" "The Unanswered Question" "Tarantella" "Stars and Stripes" by George Balanchine
「オール・バランシン I 」
『ウエスタン・シンフォニー』『アンアンサード・クエスチョン』『タランテラ』『スターズ・アンド・ストライプス』ジョージ・バランシン:振付

9月19日から10月15日まで、ニューヨーク・シティ・バレエの創立75周年記念の秋シーズンの公演が開催されました。今回の公演はNYCB創立者であるジョージ・バランシンの振付作品の特集プログラムが組まれていて、「オール・バランシン(All Balanchine)」プログラムが I からⅤまでありました。75周年記念ガラ公演の日もありました。
今回のプログラムはすべて「オール・バランシン」で構成されていて、めったに上演されていないバランシン振付作品がありました。そのため、まだ私が観たことがない作品がある日を中心に劇場に行きました。
まず9月28日に「オール・バランシン I 」を観ました。アメリカ音楽を使った4作品が上演され、休憩は2回ありました。

『ウエスタン・シンフォニー(Western Symphony)』(1954年ニューヨーク初演)は、アメリカの伝統的なフォークソングをハーシー・ケイ(Hershy Kay)が編曲した音楽に、バランシンが振付けた作品。
速いテンポのアレグロで明るい音楽、静かでゆったりしたテンポのアダージョ、まとめのフィナーレを含むロンド、という3場面の構成でした。
出演したプリンシパル・ダンサーは、インディアナ・ウッドワード(Indiana Woodward)、ジョヴァーニ・ファーラン(Jovani Furlan)、アンドリュー・ヴェイエット(Andrew Veyette)でした。
テンガロン・ハットにウエスタン・シャツとウエスタン・ブーツというカウボーイ姿の男性ダンサー達と、短いチュチュと黒タイツのカラフルな衣裳の女性ダンサー達が、明るくコミカルな振付をとても楽しそうに踊りました。バレエの基本的な動作が中心の比較的シンプルな振付ですが、リズムがとても速いので、活気あふれる躍動感が現れました。
途中、カウボーイの男性ダンサー達に対して、女性ダンサー達が馬の物真似のようなお茶目な動き方をするところもありました。アカデミックな古典バレエではこのようなユーモラスな表現をする振付は珍しいので、初演当時はかなり大胆な試みだったかもしれません。バランシンは、バレエの歴史が浅かったアメリカの観客にも喜ばれて受けるように、バレエにアメリカらしい新しい振付のアイデアを採り入れていったことが理解できました。新しいアイデアといっても、振付自体はクラシック・バレエの基本の動きに忠実で、基礎は巧みに網羅されています。
アダージョのところでは、男女ペアのパ・ド・ドゥがありました。
最後のロンドでは一番盛り上がり、回転や男性の大ジャンプが多く入れられていて、曲芸のような表現になっていました。フィナーレは、全員がシンプルなピルエットで回り続けているところで幕が閉じました。

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「ウエスタン・シンフォニー」エミリー・キクタ(他日公演です)Photo/Erin Baiano

『アンアンサード・クエスチョン(The Unanswered Question)』(1954年ニューヨーク初演)は、バランシンが初演した『アイヴジアーナ(Ivesiana)』よりの抜粋で、音楽はチャールズ・アイヴズ(Charles Ives) によるものです。この作品ではプリンシパルはおらず、次世代の若手ダンサー達が出演していました。主にレオタードとタイツのシンプルな衣裳でした。
上半身が裸で下はタイツだけを着けている男性ダンサーが1人後方へ後ずさっていき、続いて1人の女性ダンサーが宙に浮いた状態で舞台の上手から登場しました。全身黒ずくめのレオタードとタイツの衣裳の男性達が3人で黒子をしていて、この女性ダンサーをリフトして動かしていました。客席から観ていると、舞台上で踊っている1人の男性ダンサーを、宙に浮いてゆったり動いている女性ダンサーが追いかけているようでした。
女性はリフトされた状態で宙に浮いたまま、アラベスクしたりゆっくりと回転して動いていました。これは下で支えている男性達にとっても持ち上げられている女性にとっても大変に難しい振付です。
踊っている男性は床ででんぐり返ししたり、のたうちまわっていて、ゆっくり動いて床に横たわりました。どうしていいか分からず、苦悩している様子が伝わってきました。
そして女性は宙に浮いたままで、舞台の下手へとゆっくり去っていき、床の男性はその女性の姿を見つめていて、やがて女性の後ろをゆっくりと追っていったところで終わりました。
振付のベースはバレエの基礎に忠実なのですが、黒子3人がリフトしてずっと女性を宙に浮かせたままで表現したり、床をのたうちまわったり、独特の振付で当時はとても新鮮な表現だったと思います。

『タランテラ(Tarantella)』(1964年ニューヨーク初演)は、音楽はルイス・モロー・ゴットシャルク(Louis Moreau Gottschalk)によるもので、アメリカの作曲家・ピアニストです。ルイジアナ州ニューオリンズ出身、神童と言われ13歳でヨーロッパに渡って成功を収めました。
南イタリアのナポリの民族舞踊に「タランテラ」があり、明るい速いリズムの舞曲です。
かまれると<タランティズム>という病になるといわれているタランチュラ(ヨーロッパの伝説に登場する毒蜘蛛)に、かまれた人がこの『タランテラ』を踊り続けると、毒が流れ出て治ると古くから言い伝わっていたそうです。多くの作曲家が「タランテラ」を作曲しました。その民族舞踊を基づきバランシンがバレエで『タランテラ』を振付しました。
出演したのは、プリンシパル・ダンサーのダニエル・ウルブリヒト(Daniel Ulbricht)とソリストのエリカ・ペレイラ(Erica Pereira)で、ナポリの民族衣裳を着けて踊りました。とても速いリズムの音楽で、コミカルで楽しそうな踊りです。
お互いに通りすがりにそれぞれの手と手を鳴らして、速い速度で走り回って、軽快で楽しい雰囲気の踊りが続きます。途中からタンバリンを持って鳴らしながら踊りました。タンバリンを手でゆすったりたたいて鳴らしたり、太ももでもたたいてリズミカルに鳴らしていました。
振付はバレエ・ベースで、バレエの基本的な動作を使っていますが、リズムがとても速く息つく暇もなく走り回り続けるため、スタミナ的にはマラソンよりもきつそうで、とても体力を使う振付でした。
さすがNYCBのダンサーなので、ピルエットは2人とも5回転をしていて、ピルエットを15回連続するところではすごい拍手が起こり、客席は盛り上がりました。
最後は男性が女性に抱きつき、女性は男性を押しのけて去っていって終わりました。

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「タランテラ」エリカ・ペレイラ Photo/Paul Kolnik

『スターズ・アンド・ストライプス(Stars and Stripes)』(1964年ニューヨーク初演)は、ワシントン生まれのアメリカ人作曲家・指揮者のジョン・フィリップ・スーザ(John Philip Sousa) 作曲の有名な「星条旗よ永遠なれ」("The Stars and Stripes Forever")というマーチを基にした作品です。スーザはアメリカ海兵隊軍楽隊の楽団長として活躍し、100曲以上のマーチを作曲したので「マーチ王」と呼ばれています。
この日出演したプリンシパル・ダンサーは、ミーガン・フェアチャイルド(Megan Fairchild)、ローマン・メヒア(Roman Mejia)、アシュリー・ボーダー(Ashley Boulder)でした。
マーチングをイメージした衣装と振付で、主役の女性ダンサーはバトンを持って回しながら踊っていました。手で片足を上げて持ち、Y字バランスのままで前に進んでいくところもありました。
おもちゃのトランペットを持ちながら踊り、吹く真似をしているダンサーたちもいました。兵隊の黒い衣装で両手は白手袋を着けていて、敬礼しながら踊ったりと鼓笛隊を表現していました。速いリズムで、アメリカらしい明るい音楽です。
ジャンプして空中で回転したり、大きなジャンプも多く入れられていて、グランフェッテ、ピルエットなどの回転も多く、軽快な踊りが速く展開していきました。ゆったりとしたリズムの曲調になり、男女のパ・ド・ドゥのロマンティックなシーンもあって、リフトで抱えたまま退場しました。
最後のほうは大きなジャンプと回転がたくさん続いて、ピルエットも5回転や連続15回を入れていて、明るく元気な踊りで、拍手が続いて盛り上がりました。
(2023年9月28日夜 David H. Koch Theater)

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「スターズ・アンド・ストライプス」メーガン・フェアチャイルド、ローマン・メヒア Photo/Erin Baiano

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