二十歳の三宅啄未のプリンシパル役デビューに喝采を送りたい、ABT秋のシーズンが開幕した

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA

American Ballet Theatre Fall Season 
アメリカン・バレエ・シアター (ABT)秋のシーズン公演

『Etudes』Harald Lander、『La Boutique』Gemma Bond、『Mercurial Son』Kyle Abraham 
『エチュード』ハラルド・ランダー:振付、『La Boutique』ジェマ・ボンド:振付、『Mercurial Son』カイル・アブラハム:振付

10月16日、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)の秋シーズンが開幕。今シーズンは10月16日から11月3日まで行われ、秋シーズンは全幕バレエは上演されず短い作品集を組み合わせて公演が行われる。
10月18日にABTに入団してまだ1年目の二十歳の三宅啄未が『エチュード』の中心を踊るプリンシパル役に抜擢されたというので18日の公演を鑑賞。この日の上演演目は、秋シーズンに世界初演された新作2作品『La Boutique』『Mercurial Son』、そして『エチュード』というトリプルビルだった。

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Takumi Miyake in Études. Photo: Emma Zordan.

『エチュード』は1948年1月15日、デンマーク・ロイヤル・バレエ団で初演され、ABTでは1961年に初演された。ABTの解説によると、この作品は「ダンサーらが長年をかけバレエスクールで困難な訓練を経て、最終的に芸術と技術が完璧な融合に達する様子までを絵画的に表現したというもので、クラシック・バレエの基本の5つのポジションから高度な技術に至るまでの発展を示してる。」と書かれている。
振付はハラルド・ランダーで、音楽はこの作品を表現するのに最適だ、と「チェルニーの練習曲」が使われている。
作品冒頭は黒いチュチュを着た女性ダンサー達によるバーレッスンの風景で、顔にほとんど照明が当たっていなくても、舞台手前のバーで美しい動きを見せる木村楓音(きむらかのん)の姿がすぐに目に入った。タンデュの動きから徐々にスピードが速くなり、バーを持つ全員がフラッペを見せるところの迫力と美しさが印象に残った。続いて白いチュチュを着けた女性ダンサー達が登場し、ポワントワークとセンターワークを見せるところには山田ことみが登場。確実な基礎に安定性があるダンサーで山田の活躍も素晴らしい。男性ダンサーの中には隅谷健人も出演していて、この春のシーズンでは怪我のため出番が少なかった隅谷が活き活きと舞台上でジャンプする姿を見て嬉しく思った。
女性プリンシパルにはABTのベテランのバレエダンサー、ジリアン・マーフィー。ジリアンと中心で踊る2人の男性には、ソリストのジャロッド・カーリーと新人の三宅啄未の2人だった。
入団と同時に注目を集めている二十歳の三宅啄未が、早速プリンシパル役に大抜擢された。三宅がハツラツと登場し音楽とピッタリと合って、エネルギーと表現力に溢れた踊りを見せる。ロイヤル・バレエ学校で学んだ美しい基礎と正確なポジション、技術が素晴らしいだけではなく、どんなジャンプや回転からでも必ず美しいポジションに終わるので感心した。つま先もとてもきれいに伸びていて印象に残る。回転技のピルエットの軸は、どれだけ回っても真っすぐに保たれ、高速回転の連続に会場が湧き上がった。
ジリアンは1996年にバレエ団に入団した大ベテランなだけあって、落ち着きと貫禄があり、踊りが穏やかで優雅。上半身や特に腕の柔らかな使い方が美しく印象的。昔から回転のテクニックにも定評があるが今も健在でテクニックも強い。
ジャロッド・カーリーは今年バレエ団のソリストに昇格したばかりのダンサーで、三宅同様にこの日がプリンシパル役のデビューだった。彼もきっちりと基礎が美しく好印象で、ジリアンとのデュエットも良く似合っていた。今後の活躍が楽しみ。

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Scene from Études. Photo: Emma Zordan.

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Skylar Brandt and Carlos Gonzalez in La Boutique. Photo: Emma Zordan.

次に上演されたのは、イギリス出身で元ABTのバレエダンサーでもあったジェマ・ボンドが振付けた『La Boutique』。ジェマは13歳の時に初めて振付コンクールに参加して以来、振付に興味を持ったそうで、ABT在団中からも作品を手掛けていた。
今回の『La Boutique』は、『風変わりな店(La Boutique Fantasque)』として知られるレオニード・マシーンの作品で1919年にバレエ・リュスが初演した舞台に、敬意を表して振付けられている。音楽は『風変わりな店』のための音楽(イタリアの作曲家レスピーギが、ロッシーニの音楽に基づいてオーケストレーションしたもの)による。ABTでは、ジェマの新作として新しく振付けて世界初演した。
デュエットを踊るプリンシパルの男女のカップルが3組、ソリストとして男女のカップルが2組、そしてコール・ド・バレエの16人で、序曲、タランテラ、マズルカ、ワルツなどと8つのテーマ別に構成された音楽に合わせて踊った。その音楽のテーマごとに振付にも工夫が加えられていたものの、もう少しそれぞれの曲に合わせて、プリンシパルを踊るカップルの特徴が出たら良かったと思った。プリンシパルダンサーたちやコール・ド・バレエも多く豪華なキャスティングではあるけれど、振付には多くの動きが詰め込まれている印象で、目から入る情報量が多い分、あえて強く印象に残るところが少なかった気がした。

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Scene from La Boutique. Photo: Emma Zordan.

もう一つ上演された新作『Mercurial Son』は、ダンサーであり振付家のカイル・アブラハムによる世界新作。カイルは自身のダンスカンパニー「A.I.M」も設立し、2006年から振付を手掛けている。今回の作品は機械音のようなメロディのない効果音のみがしばらく続く音楽で、動きも機械的な動きが続く。リハーサルで一度途中で止まると、もうどこから再開したらよいのか分からなくなりそうだった。
21分の作品で、この機械音を聴き続けるのは少々長かったけれど、ダンサーで印象に残ったのはキャサリン・ハーリンとアンドリュー・ローベアの2人。2人ともバレエとは全く違うコンテンポラリーの身体の使い方、動きがとても素晴らしかった。アンドリューに注目したのは今回が初めてで、メリハリと動きの間に溜めを作るのが上手く、魅力的なコンテンポラリーダンスをみせた。キレのある回転や柔軟性のある身体の動きもとても印象に残った。ABTのプリンシパルダンサーのキャサリンは春シーズンから見る回数が何度もあり、素晴らしいバレエダンサーで注目している。クールな動きのコンテンポラリー・ダンスも抜群だ。クラシック・バレエとコンテンポラリー・ダンスの両方で観客を魅了させられることのできる、注目すべきダンサーだ。

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Ingrid Thoms and Sierra Armstrong in Mercurial Son. Photo: Emma Zordan.

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Catherine Hurlin and Joseph Markey in Mercurial Son. Photo: Emma Zordan.

今日の公演では、ABTの日本人ダンサー全員を見ることが出来て良かった。特に三宅啄未のプリンシパル役デビューは、堂々と素晴らしいものだった。拍手を送りたい。
(2024年10月18日 David H. Koch Theater)

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© Takumi Miyake

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© Takumi Miyake

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© Takumi Miyake

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