M.フェアチャイルド、A.ハクスリー、R.ラ・フォスによる『コッペリア』に観客が大いに沸いた、ニューヨーク・シティ・バレエ
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ワールドレポート/ニューヨーク
針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA
New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ
"Coppélia" George Balanchine & Alexandra Danilova
ジョージ・バランシン&アレクサンドラ ダニロワ:振付
1974年に初演されたニューヨーク・シティ・バレエの『コッペリア』は今年で上演50年目。振付はジョージ・バランシン、そしてバランシンと同じ年の1924年にロシアを去りバレエ・リュスに加わったアレクサンドラ・ダニロワの2人。ダニロワはロシアを去ってからヨーロッパで長く活動した後、1964年にバランシンの招待を受けニューヨークへ来ることになった。
『コッペリア』の1幕と2幕は元々のマリウス・プティパ版の振付が多く用いられていたが、ダニロワが主に振付を改訂し、3幕はジョージ・バランシンのオリジナルの振付となっている。
Megan Fairchild, Anthony Huxley
Photo:Erin Baiano
『コッペリア』初日のスワニルダ役には、バレエ団のプリンシパルとして19年目になる大ベテランのミーガン・フェアチャイルド。フランツ役はアンソニー・ハクスリー。コッペリウス役にはアメリカン・バレエ・シアターでプリンシパルとして活躍した後に、ニューヨーク・シティ・バレエでもプリンシパルとして9年間活躍するという稀な経歴を持つロバート・ラ・フォスだった。
1幕の冒頭でスワニルダのミーガンが登場し、フランツは自分の恋人であるが、そのフランツが窓際に座るコッペリアにも関心を示していて頭にきている、というマイムを見せるところで、その動きだけでミーガンの経験豊かさが感じられた。演技が大きくはっきりと分かりやすく、顔の表情や手の動き、そして音楽性もさすがだった。
フランツ役のアンソニーもミーガンに引け目を取らず、明るく軽快なフランツで演技も上手い。
ミーガンの踊りは多数いるカンパニーのダンサーの中でも、バレエ団が初日を彼女に任せたいと考えるのが良く分かる。彼女は技術も音楽性もとても素晴らしく、踊りにとても余裕があり、1幕でスワニルダの友人たちと踊るテンポの速い動きもミーガンには一切不安は感じない。
フランツ役のアンソニーはサンフランシスコ・バレエ学校で学んでから、ニューヨーク・シティ・バレエ付属のスクール・オブ・アメリカンバレエに移籍したそうで、彼のテクニックも素晴らしい。技術も素晴らしいが正確性もあり見ていて気持ちが良い。ジャンプは軽く、ターンも軽快、フランツ役にピッタリだった。
物語を盛り上げるのがコッペリウス。アメリカのバレエ界で大ベテランのラ・フォスがコミカルな演技を見せて場内から笑いを誘う。スワニルダ、フランツ、コッペリウス、この3人の演技に場内に笑いが起こりアメリカの観客の率直な反応が感じられた。
Megan Fairchild and Robert La Fosse
Photo:Erin Baiano
Megan Fairchild and Robert La Fosse
Photo:Erin Baiano
2幕、スワニルダと友人たちがコッペリウスの家に忍び込み、お人形たちを動かしたり悪戯をするシーンは演じている本人たち自身が楽しそう。コッペリウスが帰宅してコッペリア人形に命を吹き込む魔法をかけた後は、スワニルダ役のミーガンの見せ場。初めはカチカチと動くお人形振りから、肩が動くようになり、目をパチパチと動かせるようになって、足が動き出して踊り出す。これらのシーンはほぼミーガンの一人舞台で彼女は踊り続ける。人形から解け人間らしくなっていく変化も上手い。そしてミーガンの軽快なステップの足さばき、身体能力、持久力にも感心させられる。
特にニューヨーク・シティ・バレエは年間を通して公演数が多い。ミーガンのようにバレエ団で22年間、そのうち19年をプリンシパルとして活躍し続けていると、もちろん才能があってのことだと思うが、度胸、体力、技術、持久力、いろいろなものが鍛えられたのだろう。
Megan Fairchild and Anthony Huxley
Photo:Erin Baiano
3幕はスワニルダとフランツの結婚式。
まず「時のワルツ」にスクール・オブ・アメリカン・バレエの生徒24人がピンクの衣装で登場し、おそらく小学3、4年生くらいから6年生くらいまでの少女たちがかわいらしく踊った。子どもたちの登場はこれだけかと思ったら、そのあと続く「あけぼの」「祈り」「仕事」の踊りでも立派にコール・ド・バレエとして子どもたちが踊ったので驚いた。スクール・オブ・アメリカン・バレエに通ってプロダンサーたちと舞台に立てるチャンスがあるのは、子どもたちの夢になると思うし、これだけたくさん踊るにはしっかり練習をしたことでしょう、客席から子どもたちへ大きな拍手が贈られた。
「戦い」の踊りには最初に西洋の鎧風の衣装を着けた男性9人が勇ましく踊り迫力があった、そこへ女性9人が加わると更に迫力が増して、先ほどの子どもたちの踊りと一変した雰囲気となり、力強く見応えのある1曲だった。
パ・ド・ドゥを踊ったミーガンとアンソニーの2人。まずアダジオでは、お互いの片手だけを持ってミーガンが片足立ちでゆっくりと繰り返し回転する高度なプロムナードという、バランシン振付の他作品でも見たことがある動きで、高度な技術を求められる動きも美しく魅せられるのは、やはり2人の経験と技術があってこそ。
3幕は一つ一つの楽曲の流れがとても速く、次々と演奏が始まる。演奏のテンポもこれまで観たことのある『コッペリア』より随分スピードが速く演奏されていて、これもバランシンらしさかと思った。パ・ド・ドゥでも2人のアダジオが終わると、すぐに男性のヴァリエーションが始まり、間もなく女性のヴァリエーション、終わるとすぐさまコーダという具合で2人には休む間もなかったが、息が切れる様子もなく華やかで余裕ある踊りを観せていて感銘を受けた。
久しぶりにニューヨーク・シティ・バレエでクラシック・バレエ全幕を観て、とても楽しめた公演でした。
(2024年9月27日 David H. Koch Theater)
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