ミーガン・フェアチャイルドがスワニルダを踊って、割れんばかりの喝采の中、NYCBのプリンシパルを引退した

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

"Coppelia" George Balanchine & Alexandra Danilova
『コッペリア』ジョージ・バランシン&アレクサンドラ ダニロワ:振付

5月24日。この日はニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)にとって特別な一日だった。
SNSでは「Megan Fairchild Day(ミーガン・フェアチャイルドの日)」という投稿が数多く見られ、長年NYCBを支えてきたプリンシパル、ミーガン・フェアチャイルドの引退公演を惜しむ声で溢れていた。
午後3時、リンカーン・センター内のデヴィッド・H・コーク劇場では、ミーガン・フェアチャイルドの引退公演『コッペリア』が上演され、多くのNYCBファンや支援者たちが劇場に集まった。客席は満員。開演前から劇場全体が特別な高揚感に包まれていた。

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Megan Fairchild bowing at her Farewell performance at New York City Ballet. Photo credit: Erin Baiano

ミーガン・フェアチャイルドは1984年、アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティ生まれ。4歳からバレエを始め、2000年にNYCB付属のスクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)へ入学した。翌2001年にNYCBのアプレンティスとなり、2002年に正式入団。当時の芸術監督ピーター・マーティンスに早くから才能を見出され、2005年には20歳という若さでプリンシパルへ昇格した。20歳でのプリンシパル昇格は異例とも言えるスピード出世であり、彼女はその後も長年にわたりNYCBを代表する存在として活躍を続けてきた。
2014年にはブロードウェイ・ミュージカル『オン・ザ・タウン』にも出演。また、弟のロバート・フェアチャイルドも元NYCBプリンシパルとして知られ、姉弟そろって活躍したバレエ一家としても有名である。
実は私は、ミーガンとは近所で子育てをする "ママ友" のような存在でもある。以前から家の近所を歩く彼女を度々見かけていたが、その姿勢や歩き方から、「ぜったいにバレエダンサーだろう」と感じていた。後になって、その人物がNYCBのミーガン・フェアチャイルドだと知り驚いたことを覚えている。
私自身も子どもを育てているが、ミーガンは双子を含む3人の娘の母親である。彼女は子どもたちの学校や習い事のスケジュール管理、食事、自身のコンディション管理までを日々こなしながら、NYCBのプリンシパルとして舞台に立ち続けてきた。
特に印象的なのは、どれほど公演が続く時期でも、子どもたちとの時間をとても大切にしていることだ。学校の送迎や寝かしつけにも積極的に関わり、その時間を心から楽しんでいるように見えた。アメリカでも特に公演数の多いNYCBでトップダンサーとして踊り続けながら、家庭も大切にする姿に、私は深い尊敬を抱いている。

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Megan Fairchild in George Balanchine and Alexandra Danilova's Coppélia. Photo credit: Erin Baiano

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Megan Fairchild and Joseph Gordon in George Balanchine and Alexandra Danilova's Coppélia. Photo credit: Erin Baiano

今回、ミーガンが引退公演に『コッペリア』を選んだことにも特別な意味があるように感じる。2003年、まだ19歳だった彼女は、怪我人の代役として突然スワニルダ役を踊ることになり、さらに1日に2公演を踊り切った。この経験が彼女に大きな自信を与えたと語られている。
また、『コッペリア』は明るく幸福感に満ちた作品でもあり、3人の娘たちに、NYCB最後の舞台で輝く母親の姿を見せたかったのではないかとも感じた。
この日の劇場には、長年NYCBを支えてきたパトロンやファンはもちろん、ソルトレイクシティから駆けつけた家族や関係者、そして多くのメディアの姿も見られた。
冒頭でミーガンが登場した瞬間、さまざまな思いが込み上げ、私は何度も涙が溢れそうになるのを堪えた。

第1幕。スワニルダとして舞台に現れたミーガンに、客席からは割れんばかりの拍手と歓声が送られた。オーケストラの演奏が聞こえなくなるほどの歓声がしばらく続き、観客がどれほど彼女を愛してきたのかが伝わってきた。
彼女の踊りは圧倒的に安定していた。特に驚かされたのは、ポワントの音が全く聞こえなかったことだ。フリードのカスタマイズされたポワントシューズを履いていたが、着地は羽のように柔らかく、滑らかで、軽やかだった。
細かいフットワークは音楽と完璧に一致し、マイムも自然でわざとらしさがない。ミーガンが "演じている" というより、本当に舞台上にスワニルダという女性が存在しているように感じられた。

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Megan Fairchild and Robert La Fosse in George Balanchine and Alexandra Danilova's Coppélia. Photo credit: Erin Baiano

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Megan Fairchild in George Balanchine and Alexandra Danilova's Coppélia. Photo credit: Erin Baiano

『コッペリア』はコミカルな演技が魅力の作品であり、スワニルダ、フランツ、コッペリウスの3人の演技力によって作品の面白さが大きく変わる。この日の公演には、フランツにジョセフ・ゴードンとコッペリウスに大ベテランのロバート・ラ・フォスが演じ、3人ともそれぞれ非常に素晴らしく、客席からは何度も笑い声が起こっていた。観客が素直に反応し、その空気をダンサーたちと共有するアメリカの劇場文化の魅力も改めて感じた。
ミーガンの凄さは、単なる技術力だけではない。若いダンサーたちと並んだ時、その経験値の差は歴然としていた。身体の見せ方、間の取り方、舞台の支配力、そのすべてに長年積み重ねてきたものが感じられる。
彼女は非常に知的なダンサーでもある。日々の鍛錬や努力だけでなく、自分自身の身体を深く理解し、無理をせず、怪我を避けながら、コンディションを長期的に維持してきた。その冷静な自己管理能力こそが、25年間トップに立ち続けられた理由なのだろう。
第2幕では、スワニルダはほぼ舞台に出ずっぱりとなる。踊り続けながらコミカルな芝居も求められる非常に大変な役どころだが、ミーガンは最後まで軽やかだった。
コッペリア人形になりすます場面では、細かな動きやテンポ感が絶妙で、この日もっとも大きな笑いが起こっていた。

相手役フランツを務めたのは、NYCBプリンシパルのジョセフ・ゴードン。彼もまたアリゾナ州出身で、2011年にアプレンティス、2012年入団、2018年にプリンシパルへ昇格したダンサーである。
ジョセフは、やんちゃで少し悪戯っぽい青年フランツを明るく魅力的に演じていた。ソロではダイナミックなジャンプや回転で観客を沸かせ、一方で第3幕のパ・ド・ドゥでは、ミーガンを丁寧に支え、美しく見せることに徹していた。自分を前面に出しすぎず、それでいて存在感を失わない、非常に優れたパートナーだったと思う。
踊りが終わるたびに客席からは大きな拍手が送られ、劇場全体が温かな空気に包まれていた。

公演後のカーテンコールでは、これまで彼女と踊ってきた歴代パートナーたちやNYCBのプリンシパルたち、そして弟のロバート・フェアチャイルドも舞台へ駆けつけ、ミーガンを抱きしめた。
最後には夫と3人の娘たちも登場し、ミーガンは娘たちを抱き寄せながら、娘たちと手を繋いで観客へ向かってお辞儀をした。
劇場では15分以上にわたり拍手と歓声が鳴り止まず、多くの観客がスタンディングオベーションを送り続けていた。
ミーガン一家は、この夏フランスへ拠点を移す予定だという。
長年NYCBの中心として踊り続けてきた彼女が、これからどのような新しい人生を歩んでいくのか、とても楽しみである。
(2026年5月24日 David H. Koch Theater)

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Megan Fairchild bowing at her Farewell performance at New York City Ballet. Photo credit: Erin Baiano

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Megan Fairchild bowing at her Farewell performance at New York City Ballet. Photo credit: Paul Kolnik

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