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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2018.05.10]

東京バレエ団が『セレナーデ』『真夏の夜の夢』、Noismは『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』を上演、〈上野の森バレエホリデイ〉

〈上野の森バレエホリデイ〉
東京バレエ団『セレナーデ』『真夏の夜の夢』
Noism1『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』

〈上野の森バレエホリデイ〉
〈上野の森バレエホリデイ〉が、昨年に続き、ゴールデンウィーク前半に東京・上野の東京文化会館で賑やかに開かれた。バレエをもっと身近に感じてもらおうと、東京バレエ団による公演やレッスンをはじめ、バレエのレクチャーやバックステージ・ツアー、さらに大人向けバレエBarまで設けるという盛りだくさんのイベントは、子どもも含め幅広い層の関心を集めたようで、連日活況を呈していた。この企画、日本舞台芸術振興会が中心になり組まれたそうだが、今年はこれに賛同した東京シティ・フィルのメンバーによるミニ・コンサートや東京文化会館の屋外でパブリック・ビューイングを行ったほか、隣接する国立西洋美術館では、チャイコフスキーの三大バレエによるプロジェクション・マッピングを美術館の壁面に投影し、これに合わせて東京バレエ団のダンサーが踊るという初の試みも行われた。また、新潟を拠点に活躍する金森穣率いるNoism1が参加し、特別公演を行ったことも合わせて、昨年より規模は拡大、内容も充実したものになった。ここでは、東京バレエ団とNoism1の公演を取り上げたい。

東京バレエ団
『セレナーデ』ジョージ・バランシン:振付、『真夏の夜の夢』フレデリック・アシュトン:振付

演目は、ジョージ・バランシン振付の抽象バレエ『セレナーデ』と、フレデリック・アシュトン振付の物語バレエ『真夏の夜の夢』という対照的な作品。『セレナーデ』はバレエ団としての初演で、『真夏の夜の夢』はシュツットガルト・バレエ団のプリンシパル、フリーデマン・フォーゲルを招いての10年振り再演だった。

tokyo1805c_2Y8A0370.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

チャイコフスキーの「弦楽セレナード」による『セレナーデ』は、バランシンがアメリカに渡って初めて創作した作品。自身が創設したスクール・オブ・アメリカン・バレエの生徒たちにテクニックを学ばせるため振付けたもので、床に倒れ込むなどレッスン中に起こった出来事が取り込まれているのも特色。特に高度な見せ場があるわけではないが、抒情性が溢れた流麗な展開が魅力になっている。全体は「ソナチネ」「ワルツ」「ロシアン・ダンス」「エレジー」で構成。脚が透けてみえる長いスカートをつけた女性群舞が片手を上げてたたずむ冒頭のシーンが幻想的で、それが様々にフォメーションを変えていくのが美しかった。川島麻実子と秋元康臣のペアは軽やかにステップを踏み、上野水香とブラウリオ・アルバレスのペアはしっとりと情感を紡いだ。川島と上野が笑みをかわしながらアルバレスと三人で踊る様は会話を交わしているようにもみえた。彼女たちが束ねていた髪をほどき、髪を振り乱して踊る姿からは異様なエネルギーが感じられた。群舞も含めて、ダンサーたちはシーン毎に異なる雰囲気を醸しだし、抽象的ながらもドラマを秘めた作品であることを思わせた。

tokyo1805c_HP7_1963.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa
tokyo1805c_HP7_2108.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

『真夏の夜の夢』は、シェイクスピアの原作を、妖精の王オベロンと女王タイターニアの夫婦喧嘩と人間界の2組みの男女の恋の騒動を主軸に、メンデルスゾーンの音楽を用いて1幕に収めたアシュトンの傑作。
物語や登場人物の性格付けが明確なだけに、演技力も求められる作品である。オベロン役のフォーゲルはブルーの衣装で颯爽と登場。しなやかなジャンプが美しかったが、感情表現も細やかで、心の動きを手に取るように伝えた。タイターニアの沖香菜子は小柄だが、足先を鋭く操り、キュートな女王を演じた。冒頭、二人はインドの少年を取り合う諍いをコミカルに演じてみせた。仲直りした後のデュエットでは、フォーゲルの滑らかなリフトや沖のたおやかな身のこなしが生き、幸福感を漂わせていた。
悪戯好きの妖精パックを踊った宮川新大は、腕や脚を曲げた特有のジャンプを鮮やかにこなし、演技も達者だった。駆け落ちしたハーミアの吉川留衣とライサンダーの和田康佑、ハーミアに横恋慕する直情型のデミトリアスの森川茉央、デミトリアスに片想いの男勝りのヘレナの奈良春夏の4人は、パックの惚れ薬のせいで起こった喧嘩騒動を絶妙な間合いで演じて笑いを誘った。また、パックにロバにされ、惚れ薬のせいで束の間タイターニアに愛される職人の岡崎隼也は、ロバの頭を被ったまま、トゥシューズで見事にポアントで踊りこなした。妖精たちの群舞は飛び交うように軽やかだった。なお、『真夏の夜の夢』は、親子向け解説付き公演として、単独で異なるキャストでも行われた。楽しい作品だけに、10年も間を置かずに上演されるよう望みたい。
(2018年4月28日 東京文化会館大ホール)

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『真夏の夜の夢』Photo:Kiyonori Hasegawa

Noism1
『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』金森穰:演出振付

Noism1は、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館を拠点とするわが国唯一の公共劇場専属舞踊団で、芸術監督・金森穰の下、バレエでもモダンでもコンテンポラリーでも演劇でもない独自の身体表現による舞台作品を創造し、世界的評価を得ている。
『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』は、金森が恩師モーリス・ベジャールの死(2007年)をきっかけに創り始めた演劇性の強い物語舞踊の歩みをたどるもの。2008年からの10年間に創作した、死や運命を象徴する黒衣が登場する10の作品から、黒衣にまつわるシーンをオムニバス的に繋ぎ、最初と最後に自身が踊る新たな作品を加えて12のシーンで構成した。出演したのは、金森のほか10人のダンサー。舞台後方に半円形に置かれた大きな10枚のパネルが効果的で、照明により背後の人物を透かして見せもすれば、鏡面にもなり、作品に広がりと奥行きを与えた。冒頭、取り上げる10作品の紹介的な映像が上方のスクリーンに映された。そして、金森の新作「Distant Memory」が始まった。「老い、記憶、愛」をテーマにしたというソロ作品。ワーグナーの歌劇『リエンツィ』より〈全能の神よ、見守りたまえ〉にのせて伸びやかに踊る姿からは、この10年の軌跡を踏まえつつ、全能の神ならぬベジャールを心の拠り所に、自身の芸術をさらに究めようとする金森の強い意志、澄んだ心が感じられた。白いコステュームは無垢な精神性をしのばせた。

Noism1_MirroringMemories_0088.jpg Noism1『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』撮影:篠山紀信

続いて上演されたのは、物語舞踊の出発点となった『Nameless Hands―人形の家』より「彼と彼女」。人形役の男女(坂田尚也と鳥羽絢美)が、顔も隠した黒子の人形遣いに手足を縦横に操られる様は、今見ても衝撃的だった。そして、劇的舞踊『ホフマン物語』より「アントニアの病」や、『Psychic 3.11』より「Contrapunctus」、『ASU』より「生贄」、劇的舞踊『ラ・バヤデール-幻の国』より「ミランの幻影」などが次々に上演されたが、どのシーンも強烈な個性を放っていた。劇的舞踊『カルメン』より「ミカエラの孤独」は、ミカエラの井関佐和子がホセと再会する喜びを全身に滲ませて踊るうち、カルメンが野生的に踊る姿がスクリーンに映されるや、ミカエラの人格がカルメンに入れ替わり、けたたましく笑うという意表を突く演出だった。

昨年発表された『マッチ売りの話』より「拭えぬ原罪」では、マッチ売りの少女(浅海侑加)を取り巻く白い仮面を被った人々の挙動が何とも不気味だった。そして、そのまま少女を残して新作『Traume―それは尊き光のごとく』になった。音楽はワーグナーの『ヴェーゼンドンク歌曲集』より「夢」。最初と同じ白いコスチュームの金森と彼のベストパートナーである井関は、慈愛に満ちた眼差しで優しく少女を包み込み、パネルの後ろに暗示される至福の天上界へと導こうとするが、少女は拒む。少女は二人の夢や希望の象徴なのだろう、彼女を残して去る金森と井関の表情は穏やかで輝きに満ちていた。二人がパネルの後ろに消え、10枚のパネルの後ろに立つダンサーたちの姿が浮かび上がった途端、パネルは鏡面に変わり少女の姿が映し出されて終わる。少女は託された夢をどう花開かせるか、余韻を残す幕切れだった。
それにしても、過去の10作品を通して、扱われたテーマの幅広さ、それを表現するスタイルの多様さに改めて驚かされた。それは同時に、これからの金森の創作に期待を抱かせもした。
(2018年4月30日 東京文化会館小ホール)

Noism1『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』撮影:篠山紀信
Noism1_MirroringMemories_0305.jpg Noism1_MirroringMemories_2313.jpg
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Noism1_MirroringMemories_3595.jpg Noism1『Mirroring Memories―それは尊き光のごとく』撮影:篠山紀信