湖月わたる&柚希礼音が宝塚退団後初共演! 語りと踊りが交差するダンス×演劇『マイ フレンド ジキル』を語る
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ワールドレポート/東京
インタビュー=小野寺悦子
元宝塚歌劇団星組トップスターの湖月わたると柚希礼音が、舞台『マイフレンド ジキル』で退団後初共演を果たす。
怪奇小説『ジキル博士とハイド氏』をもとに、瀬戸山美咲の上演台本・演出、s**t kingzのshoji(持田将史)とOguri(小栗基裕)により2019年に誕生した『マイフレンド ジキル』。今回、新しいヴァージョンとして生まれ変わり、ジキルとハイドの二面性を善と悪のダンスで表現する"パフォーマー"と、ジキルの親友アタスンを"語り手"に、ふたりの演者で物語を展開していく。
湖月と柚希はジキルとハイド、そしてアタスンの二役に扮し、上演回によって役を入れ替えて演じるのも見所のひとつ。語りと踊りが交差するこの異色のダンス演劇にどう向き合うのか。湖月と柚希に本作への意気込みを聞いた。
――宝塚退団後初めての共演となります。心境はいかがですか。

湖月わたる
湖月 やっと共演が実現しました。いつか一緒にやりたいって、ずっと言っていたんです。でもいざお話が決まっても、実感が沸かなくて。こうして一緒にいると、本当にやるんだな、スタートするんだなってようやく実感が沸いてきました(笑)。
柚希 『REON JACK4』に、ゲストに出てくださったとき、またご一緒できるよう頑張らなければと思いましたので、今回は本当にうれしいです。共演が決まったら、まずファンの方が最高に喜んでくださって。あと元星組の方々はもちろん、上級生、下級生からもたくさん連絡をもらいました。喉から手が出るほど羨ましいってみんなから言われて(笑)、本当にその通りだなって思っています。
湖月 『ジキルとハイド』という題材がまず魅力的で、その世界を私たち2人だけでお見せする。しかも語りとダンスにわかれていて、入れ替えて演じる。こんな作品に出会わせてくださったことに、まず感謝で胸がいっぱいで。こういうの待ってた! って気持ちです(笑)。
柚希 とてつもなく大変そうだけど、魂を込めて2人でぶつかり合い、いいものが生まれそう。そんな作品に出会えたなって思います。
――宝塚時代、共に星組のトップスターとして活躍されました。当時はどんな先輩・後輩でしたか。
柚希 わたるさんに下級生時代から育てていただいてきました。宝塚の新人公演でわたるさんが演じられている役を何度も演じさせてもらいましたし、袖でずっとついていて、早変わりの様子から何から全て教えていただきました。芸事もそうですけど、何よりトップとして組の1番上にいるときの在り方だとか、心意気を教わりました。わたるさんから教わったことがずっと自分の中にあって、いまだに舞台の真ん中でいるときの周りへの気配りなどもその教えが反映されている感じ。もう何って言えないくらい全てのDNA細胞がわたるさんから作られている状態です。
湖月 『ベルサイユのばら』でアンドレを演じたときに、ちえ(柚希)が新人公演でアンドレをやって、そのとき初めて声をかけてくれて。その時点ですでに柚希礼音というすごい逸材が星組にいるというのは聞こえていたし、実際に公演を観に行っても、ダンスでピックアップされていて、光り輝いていましたね。実力という意味では何の申し分もないものを持っていたけど、そこで「よしよし」とするのではダメだと、この宝塚の逸材とご縁をいただいたからには、先輩から受け継いできたものを責任を持って伝えなければいけないと使命感に燃えていました。ちえにすれば重箱の隅をつつくようなことだったと思うけど、私が感じたことは素直に伝えなければと考えて。今思えば、まだそんなに経歴があるわけでもない人間がどこまでできていたかはわからないけれど、そのとき思ったことをきちんと伝えようというのは自分の心に決めて向き合っていました。
柚希 私も自分自身後輩を持つようになって、愛情を持っているからこそ言うべきことがあるんだということを改めて知りました。「いいよ、いいよ」って言う方が空気も悪くならないし、いい人って思われる。けれど言うってもっと深い愛情だということがわかった。できているだけとは違う、宝塚のトップ男役を担う人間に言うべきことがあるんだということを学ばせてもらいました。
湖月 ちえは育ててもらったと言うけれど、私もいつも押し上げてもらって、ちえのおかげで今の自分を作ってもらったと思います。やっぱり先輩として何か言うからには、自分もちゃんとしないといけない。そういう意味では、自分ももっとストイックに向かわなきゃと思う。ちえがそう言ってくれるにふさわしく、恥ずかしくない舞台人でいたい、という想いがあります。
宝塚を退団して、みんないろいろな道を歩んでいると思うけど、そのなかでちえは真摯に真正面からダンスと向き合っていて、私もやっぱり踊れる自分でありたいって思っていた。たぶんお互いそう思って取り組んできたからこそ、このダンスと語りという作品に出会えたと思うので、やっぱりすごくうれしいですね。
――作中はジキルとハイド、そしてアタスンに扮し、回替わりの入れ替えで演じます。
湖月 ハードルはめちゃくちゃ高いです(笑)。だからこそやりがいがあるし、またちえとならっていう気持ちもあります。演出の瀬戸山美咲さん、振付の益井悠紀子さん、音楽や美術の方などスタッフの方々に、しっかり身を委ねて挑むしかないという感じですね。

柚希礼音
柚希 高いハードルのときほど、素晴らしい景色が後で見えたりする。今はまだ先が見えないけれど、みなさんの力を借りつつ、私たち自身が思ってもない力が出たとき、すごいことになるかもしれない。それを自分にも期待して挑みたいと思います。
湖月 まずは台本と向き合って、どれだけアタスンであり語りを自分のものに落とし込めるか、というのが大きな課題。しかも語りには全部で5人の登場人物が出てくるので、5人の気持ちを落とし込んで演じていかないといけない。もう本当に大変です(笑)。
柚希 第一のハードルはやっぱり語りですよね。5人それぞれの人がきちんと物語の中で生きていないといけない。一回きちんと整理しないと、わけがわからなくなりそう(笑)。
湖月 以前声優の方と一緒にお仕事をしたとき、声の持つエネルギーを感じたことがあって。相手をキャッチする力、瞬発力というのでしょうか。声ってこんなに深いんだ、物語を語れるんだということを学ばせてもらいました。声だけで表現していくわけだから、そういう意味でも感度よく演じていかなければいけない。どの気持ちで言っているのか、心の切り替えをきちんとしていかないと、声には反映しないだろうなと思う。
柚希 わかります。私も以前とある俳優さんが、「心が変われば男にも女にもおばあちゃんにも子供にもなれる」と言うのを聞いて、本当にそうだなって思った覚えがありました。つい声質とかテクニックに走りそうになるけれど、テンションだけで演じてはダメで、心を大切にしながら演じなければと思っています。
――作中はダンスシーンも多く登場します。宝塚時代に名ダンサーとして知られたお二人だけに、ダンスシーンはとりわけ注目されるところです。
湖月 初演はs**t kingzさんがご自身で振付けをしていたので、今回は振付がガラッと変わります。前回ご覧になっている方がもし今回も見てくださるとしたら、1番変わるのは振付だと思います。ただ振付の益井さんとは初めましてで、どんな振付になるかはまだよくわかっていなくて。
柚希 まずレッスンをしてほしい! 1回ワークショップを挟むと違うんですよね。
湖月 そうそう、私たちのことも知ってもらえるしね。同期からは、「柚希さんと一緒でダンス大丈夫? ついていけるの?」って心配されていて(笑)。でも「何とかなる、全身全霊で頑張る!」と言ってます(笑)。
柚希 いえいえ、私もいきなり踊り始めたら身体痛めるかも。そろそろレッスンに行かなきゃって焦り出しています。
湖月 それはある。ドキドキするよね。
柚希 ちょっと前までは公演中もレッスンに行っていたんですけど、最近は本番前にレッスンに行っちゃうと、夜の公演で疲れるようになってきて。これじゃダメだと思って、公演の日は何もしないことに決めました。最近は、あまり無理しすぎないようにしています。
湖月 わかる。無理ができない(笑)。
柚希 張り切って無理したら後々きちゃうから(笑)。
湖月 私は最近はひたすら下半身強化しています。
柚希 筋トレですか?
湖月 パーソナルトレーニングで、2年くらい前から取り組んでいます。トレーニングをするようになってから、実際に舞台に立っていても安定感が自分で感じられるようになりました。やっぱり身体が大きいので、どうしてもふらつきがちになってしまって、浮いた感じになるのが嫌で。
柚希 わかります! 前に、前にって気持ちになるんです。でもトレーニングで実感があるっていいですよね。私もそろそろ真剣に取り組まなきゃ。

柚希礼音、湖月わたる
――宝塚で男役として踊っていたときと、退団されて女優として踊るのと、踊り方に違いはありますか。
湖月 男役でがつんと踊るのと、女優として踊るのとでは、心やポジションが変わるというか。宝塚を退団して間もないころは、宝塚の踊りしかしたことがなかったので、苦労した覚えがありますね。ピンヒールで身体をしなやかに動かすってどうすればいいんだろう、と思ったり。
柚希 そうですね、宝塚の男役は型みたいなのもありますから。でも結局のところ、そんなに違いはないかもしれない。だから男役というよりも、作品ごと、役によって違う感じがします。
湖月 確かにそう。今はスイッチがあって、その時々の役によって切り替えられるようになりました。
柚希 今回は「善」と「悪」の二面性を持つジキルとハイドをダンスで表現しなければいけない。ハイドは背も小さくて、背中も丸い。その状態でどうやって踊るのか、すごく難しそう。
湖月 私たちは背があるので、なかなか大変だよね。
柚希 あと主にパフォーマーとして踊るのはジキルとハイドの方だけど、語り手のアタスンも案外踊るんですよね。ジキルと一緒に踊ったり。
湖月 ただ、さっきの声の話と一緒で、心を本当に入れ替えていけば、きっと動きにも何か出てくると思う。だからまずはしっかり役作りすることが大切かな。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
柚希 ジキルとハイドも、アタスンも、お互いを思っているから行動しているところがあって。それをわたるさんと演じられる。感謝の思いをたくさん込めながら役に挑める、ありがたい機会をいただいたなと思います。役としての心模様、人間模様、人間が何で踊るかを表現できたらと思っています。ぜひたくさんの方に観ていただけたらうれしいです。
湖月 今までの自分の集大成であり、これまでの舞台人生をかけられる作品になると思っています。ちえと共に、刺激を受けながら、いっぱいいろいろ教えてもらいながら、引っ張り上げてもらいながら、演じていきたいと思います。
ジキルとハイド、アタスンという2人の登場人物は、お互い大切に思っている。宝塚時代からの2人の長年の関係があるからこそ、うまくリンクして、私たちにしかできない世界観がお届けできたらいいなと思っています。
『マイ フレンド ジキル』<公演情報>
●東京:2025 年12月16日(火)~22日(月)よみうり大手町ホール
●大阪:2025 年12月27日(土)~29日(月)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ

CAST:湖月わたる 柚希礼音
ギター:jin tanaka(back drop bomb) 飛田雅弘
STAFF
上演台本・演出:瀬戸山美咲
音楽:jin tanaka(back drop bomb) 飛田雅弘 GOTH-TRAD
音楽プロデュース:坂井田裕紀 振付:益井悠紀子
美術:土岐研一 照明:吉田一統 音響:武田安記 衣裳:十川ヒロコ ヘアメイク:国府田圭
演出助手:村田千尋 舞台監督:髙橋大輔
企画・制作:AMUSE CREATIVE STUDIO 梅田芸術劇場
主催:AMUSE CREATIVE STUDIO 梅田芸術劇場 読売新聞社(東京)
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