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ベジャールの言葉をそのまま伝えたい。東京バレエ団『春の祭典』再演でジル・ロマンが巨匠のエッセンスを伝授

ワールドレポート/東京

小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera

モーリス・ベジャール『春の祭典』、ジョン・ノイマイヤー『月に寄せる七つの俳句』、イリ・キリアン『小さな死』と、20世紀を代表する3名の巨匠振付家の傑作を一挙上演する東京バレエ団の「レジェンズ・ガラ」。2月に迫った開幕を前に、『春の祭典』の振付指導にあたるジル・ロマンが来日し、公開リハーサルが開催された。

『春の祭典』の初演は1959年で、ベジャールが32歳の時に振付をした代表作の一つ。東京バレエ団では1993年に初演、2024年にイタリア・ツアーで上演したのが直近で、日本では実に7年ぶりの再演となる。

ストラヴィンスキーの楽曲にのせ、生と死の根源がダイナミックに描かれる本作。ダンサーにはスキルに加えスタミナが要され、とりわけ主演の「生贄」役が担う役割は大きい。今回の再演で「生贄」を踊るのは、伝田陽美&樋口祐輝、長谷川琴音&南江祐生ペアのダブルキャスト。公開リハーサルでは、ジルと佐野志織芸術監督の立ち会いのもと、長谷川&南江ペアが「生贄」を踊っている。

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Photo Shoko Matsuhashi

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Photo Shoko Matsuhashi

南江はセカンドソリストで、昨年は新制作『はじめてのバレエ「白鳥の湖」 ~母のなみだ~』に王子役で主演。そのほか『ザ・カブキ』『M』と、ベジャール作品の出演経験を持つ。2024年のイタリア・ツアーでは、長谷川と共に「生贄」を踊り、今回日本で満を持し本作ロールデビューを迎える。
重心を落としたプリエに曲線に張ったアームスと、ベジャールの動きは独特で、クラシック・バレエで求められる要素とはまた違う。バレエダンサーには負担も大きいが、ジルの指導は細部にわたり、自ら動いて手本をみせる。とりわけアームスのラインにこだわりをみせ、長い棒を両腕に通してフォルムを指導する一幕も。南江はジルの言葉一つ一つを真摯に受け止め、繰り返し動きを重ね、自身の身体に入れ込んでいく。

長谷川は2017年入団のソリストで、一昨年子どものためのバレエ『ドン・キホーテの夢』でキトリデビュー。さらに『春の祭典』イタリア・ツアーで「生贄」を、昨年は新制作『はじめてのバレエ「白鳥の湖」 ~母のなみだ~』でオディールを踊っている。「生贄」を踊る彼女の姿は繊細でありながら、どこか芯を持ち、凜とした気配を纏う。
「四人の若い娘」に扮するのは、ファーストソリストの金子仁美と足立真里亜、ソリストの政本絵美と工桃子。実力勢4名が集結し、「生贄」の存在を際立たせる。
ジルの指導は所作にタイミング、視線にまで及び、「アクセントをつけて」「お腹を使って」「照明に目がくらむように」と具体的だ。それらジルの言葉を、ソリストの岡崎隼也と、元東京バレエ団団員で現在バレエスタッフを務める奈良春夏がノーテーションとして余すとこなく書き留めていく。

迫力の群舞も本作の見所で、ジルはアンサンブル一人一人に目を行き渡らせる。刻々と変化する複雑なフォーメーションを、ダンサーたちがぴたりと息を合わせ、確かな団結力を伝えくる。そのクオリティの高さに驚かされるが、ジルの指導は入念で、「もう一度」「もう一度」と繰り返す。何ともハードで密度の濃いリハーサルだが、それに必死で食らいつかんとするダンサーの眼差しが印象に残った。

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Photo Shoko Matsuhashi

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ジル・ロマン Photo Shoko Matsuhashi

リハーサル終了後は、ジルと佐野芸術監督を迎え、囲み取材が実施された。
リハーサルの手応えを、「生贄役に求めるのは、まず振付を覚え、音楽を理解し、そして動きの意図をきちんと理解すること。あとは作品、役をしっかりと生きてほしいと思っています。そうした点においても、今日の2人は課題を乗り越えてやっていましたし、とても純粋な何かを感じました。素晴らしい生贄になると思いました。2人とも本当に役にぴったりで、見ていてすごく心を打たれるものがありました」と口にするジル。ベジャールの傑作を指導する立場として、何も変えることなく伝えたい、と話す。
「ベジャールのスタイル、作品のスタイルをそのまま伝えるべく努めています。先ほどのリハーサルもそう。実際にベジャールは棒を使ってアームスの形を指導したり、車の照明が目に入って目がくらんだようにするんだ、と言っていました。女性が男性をリードし導いていく方向に作っていきたいんだ、とベジャールは言っていました。女性は、女性らしさと力強さ、その両方を持ち合わせなければいけない。けれど踊っている人間がだんだんきつく演じる傾向がある。男性は少し自分を見失っているようなイメージであるべきだけど、力強く踊られすぎる傾向がある。それぞれのキャストが上手くバランスを見つけながら演じてなければいけなくて、それがこの作品の難しさでもあります」

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佐野志織芸術監督 Photo Shoko Matsuhashi

佐野芸術監督は、東京バレエ団初演時からダンサーとして『春の祭典』に携わってきた経験を持ち、現在は指導者としてベジャールの意図とエッセンスを団員に伝えている。
「『春の祭典』を日本で上演するのは本当に久しぶりで、2024年の秋にイタリアで作ったものをまたさらにブラッシュアップするために、ジルさんに指導していただき、深めてきました。東京バレエ団の良さはいろいろありますが、何より美しすぎないところ。作品的な美しさをわかりつつ、役柄としての理解の上に立つ力強さ、エネルギーがみなさんにお届けできたらと思います」と佐野監督。

最後に、ジルが本作への想いを語った。
「とても素晴らしい作品で、バレエ団もとてもいい状態ですし、私としてはもう間違いなくいい舞台になると信じています。佐野監督が言う通り、ベジャール作品を踊るには、美しすぎてはいけない。生身の少し崩した美しさ、それはロダンの彫刻のようとも言えるでしょう。ダンサーたちにはそういうことを感じながら作品を生き、舞台で一生懸命生き生きと踊ってほしい。ぜひみなさんに観に来ていただけたらと思っています」

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東京バレエ団「レジェンズ・ガラ」

ベジャール『春の祭典』×ノイマイヤー『月に寄せる七つの俳句』×キリアン『小さな死』
日程:2026年2月27日、28日、3月1日
会場:東京文化会館
https://thetokyoballet.com/

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