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ミュージカル『メリー・ポピンズ』再々演。大貫勇輔が3度目のバートで見せる俳優としての変化

ワールドレポート/東京

インタビュー=小野寺 悦子

2018年の日本版キャスト初演、2022年の再演に続き、ミュージカル『メリー・ポピンズ』が2026年3月に3度目の上演を迎える。アカデミー賞5部門受賞の名作映画『メリー・ポピンズ』を原作に、『オペラ座の怪人』『CATS』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』で知られる名プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュにより2004年に誕生し、世界各国で上演されてきた大型ミュージカルだ。今回の再々演では、メリー・ポピンズ役の濱田めぐみ、笹本玲奈、バート役の大貫勇輔、小野田龍之介ら前回公演から続投するキャストに、朝夏まなと、上川一哉など新メンバーも加わり、早くも話題を集めている。
開幕を前に、煙突掃除屋・バートを演じる大貫勇輔にインタビュー。日本初演オリジナルキャストで、3度目のバート役に挑む現在の心境を聞いた。

――2018年の日本キャストで、今回3度目のバート役となる大貫さん。本作は大貫さんにとってどんな作品ですか。初演、再演の想い出をお聞かせください。

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大貫 間違いなく僕にとって転機になった作品です。本当に良い作品に巡り会えたなって、心から思います。でも初演の時はもういっぱいいっぱいで、ただやることに必死でした。だから、あまり細かいことは覚えてなくて。歌が心配で、歌でヒーヒーしていたのが記憶にあるくらい。初演は柿澤勇人さんとのWキャストで、柿澤さんの真似をしようとしてみたり、参考にしたりしていましたね。でも柿澤さんの真似をしたくても、とうてい真似できるものではなかったし、柿澤さんはそうやるんだって思っていた感じでしょうか。
4年後の再演のときは、小野田龍之介さんとのWキャスト。小野田さんに会えたのは大きかったですね。それまで僕が知っているバートは柿澤さんだけだったけど、小野田さんの新たなバートを見た時に、自分の中で大きな変化がありました。歌う言葉の中で大切にする場所が違ったり、グルーブ感が違ったり、身体の所作の細かな違いがあったりして、なるほどなってすごく感じたんです。それはダブルキャスト、トリプルキャストのメリットです。そういう意味で、今回上川一哉さんがどんな風にバートを演じるのか。あとジョージ・バンクスが2人とも変わるので、そこでお芝居がどう変わるのか、個人的にすごく楽しみにしているところです。

――初演、再演で何か記憶に残っているハプニングはありますか。

大貫 アクシデントで思い出すのが、初演のプレビュー公演のこと。メリーが飛んでいく時に、装置の不具合で止まってしまったことがありました。メリーは濱田めぐみさん。そこへ僕が出ていって、宙づりになっている濱田さんに向かって、「おーい、メリー、早く帰らないのかい?」なんて小芝居をして時間を稼いで。ちょうどマッキントッシュさんが観に来ていて、彼が大喜びしていたと聞きました。

――バートを演じる上での課題といえばどんなことですか。

大貫 初演のときは歌が一番の課題でした。課題はまだクリアしてはいないけど、あれからいろいろな舞台を経験して、自分の中で歌が特別なものではなくなってきた感じがします。
歌の練習はずっと続けてきました。バートの一番高い音はソのシャープ。その後ミュージカル『王家の紋章』でラのシャープを出さなければいけなくて、すごく苦労させられましたね。新しい歌の先生と出会って、今はドまで出せるようになりました。高音が出るようになって、声のバリエーションが増えて、歌のない演劇の時も使う声が選べるようになりました。そこで声の持つ力や可能性を知ることができましたし、そういうことを経て今があります。またこのタイミングで歌でしかできない表現に向き合えるのはありがたいし、やっぱり歌が演劇の一部であることを大切にしていきたいですね。

――タップなどダンスシーンもバートの大きな見せ場になっています。大貫さんのダンスをまた観ることができ、ファンは楽しみにしていると思います。

大貫 ここまで動くミュージカルに出るのは久しぶり。やっぱりダンサーだったんだな、って思い出してもらえたら(笑)。歌って踊るバートのナンバーは本当に素晴らしいし、もう1回バートとして生きられるのは本当にうれしいです。
最近は踊る機会が少なくなって、もっと踊りたいなっていう気持ちがあります。先日、久しぶりにバレエのクラスを最後まで続けて受けたら意外と動けて、自分でもびっくりしました(笑)。体幹トレーニングや筋トレ、バーレッスンは日々やっていたけれど、フルでクラスを受けたのは5カ月ぶりくらい。体幹トレーニングってここまで功を成すのだなと改めて感じて、それは新たな発見でした。
体幹トレーニングは自己流で、暇を見つけてはやっています。舞台『チ。―地球の運動について―』の期間中は時間があったので、もうひたすらずっと筋トレをしてました。ただダンベルなどを使った加重トレーニングは局所的に突然大きくなるので、やりすぎると首や腰にきたりします。ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』の時にそれを実感したので、再演の時は自重に切り替えました。自重だけだとそこまで大きな変化はないように感じるので、今は自重を主にトレーニングに取り入れています。

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製作発表より(左から)上川一哉 、小野田龍之介、濱田めぐみ、朝夏まなと、大貫勇輔

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――なかでもバートの一番の見せ場といえば「ステップ・イン・タイム」。タップを踏みながら壁に沿ってぐるりと宙づりになる名シーンです。

大貫 あれは7、8メートルくらいあるでしょうか。上から見下ろすとメリーやアンサンブルのみんなが僕を見上げていて、会場を見るとお客さんが逆さまに見える。形容しがたい景色です。本当に素晴らしいシーンで、よく考えついたなと思います。
稽古場に上から吊られる装置があって、それでまず練習します。まっすぐ立った状態から、舞台と平行になって、逆さまになって、平行になって、真っすぐに戻って......。だけど稽古場はそこまで高さがないので、あとはもう劇場に行ってから。バート役のみなさん、あのシーンは苦労しているみたいです。でも僕は高いところは平気だし、むしろ大好き(笑)。だからあのシーンはもう最高の時間です。僕が初めからあっさりできてしまったので、現地スタッフのみなさんもすごく驚いていましたね。「世界で1番早く逆さまタップができた」と言われました。初演の時は演出のマッキントッシュさんが来ていて、ゲネプロが終わった後に「「ステップ・イン・タイム」のバートのソロ、彼はもっと踊れるから振りを変えろ」と言われ、本番初日に振付が変わりました。ちょっと難しくなって、僕だけジャンプを入れています。

――前回公演からこの4年間で、さまざまな舞台に立ち、キャリアを重ねてきました。

大貫 この4年間で大きかったのが、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を10カ月間やったこと。俳優としてものすごく大きな経験でした。今の僕がもう1度この『メリー・ポピンズ』のバートという役と向き合った時に、どういうことができるのか......。
『メリー・ポピンズ』にしてもそうだけど、基本的に毎回どんな作品も必死で、もうやることでいっぱいいっぱいになってしまう。だけど『ハリー・ポッター』は全部で180公演以上あり、それだけずっとやっていると、オートマティックにセリフが言えるようになってくる。180公演って、いっぱいいっぱいのその先なんです。もうそれが日常になるというか、歯磨きするのと変わらなくなる。特別なことではなくなるんです。でもその中で奇跡を起こさなければいけなくて、だからそこは不思議な感覚になるけれど。
あれだけの回数をやっていると、いろいろなことを見たり考えたり同時にできるようになります。そこでまたさらにもう1つ別の領域があって、聞くということがいかに大事か、伝えるということがいかに大事かわかってくるんです。言葉、身体の動き、タイミング。それは相手とのキャッチボールであるということが身をもってわかってくる。いろいろな可能性があるということが見えてきて、いろいろなトライができる。一つひとつは小さなトライだけど、でもその小さなトライを3時間40分という時間ずっと続けていくと、最後はしっかり終着点が変わるんです。それがすごく面白い。そこからまた映像の仕事で試して、いろいろなことを知ることができました。また他の現場でもやりたいって思うようになったとき、そのレベルに行くにはいろいろなことを準備しなければいけないということがわかり、早い段階でいろいろなことをオートマティックにしておくと、遊ぶことができるというのを知ったので、準備の時間がすごく重要になってきました。それは俳優としていい経験でした。

――舞台で緊張することはありますか。それだけ場数を踏むと、舞台度胸もつきそうです。

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大貫 きちんと準備ができている時は緊張しないですね。緊張しないようにちゃんと準備するというか。準備ができていない時は、やっぱりめちゃくちゃ緊張します。例えば、日本初演のオリジナル作品で参考にする資料がないときだとか、役をまだ掴めてない段階での歌唱披露とか。バートは今回で3度目なので、安心感はありますね。ただ稽古がまだ始まっていないので、この先どうなるか。余裕があるのは今のうちだけかもしれません(笑)。

――舞台が続くと体調管理も大切です。心身のケアはどうされていますか。

大貫 自分の身体に正直に、をモットーにしています。大事なのは、ストレスを溜めないこと。あとは子供が年中風邪をひいているので、いかにもらわないようにするか。乾燥や急な冷え込みがあると喉にきがちなので、そういうときどうすれば倒れずに済むか。多めに睡眠をとったり、早めに治療に行ったり、栄養ドリンクを飲んだり、無理をしすぎないようにしたり......。その程度ではあるけれど、身体の声をちゃんと聞くということをすごく大事にしています。
食事にこだわっていたときもあったけれど、今はちょっと気をつける程度。あまり節制しすぎて、ストレスになるのも嫌だなと思って。
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』の公演中は、朝はおにぎり1個とプロテインで、合間にもう1回プロテインを飲んで、お昼はお腹が空いていたらおにぎりを食べて、空いていなかったらプロテインだけにして、公演前におにぎりを1個食べる。それで夜は好きなものを食べる、という生活でした。ただ映像になると、食べられる時に食べておかないといけないので、そうも言っていられません。2025年の下半期はとんでもなく忙しくて、舞台をやりながら映像も3本撮ったので、生活がランダムすぎて食事も決めていられない状態でした。
今はバート役に向け少し痩せようと思っているので、あまり食べすぎないように気をつけています。しゅっと痩せてる方がやっぱり身体は軽いし、その方が絶対に楽なので。自重のトレーニングをしながら、有酸素運動を増やして、かつ食事に気をつける。それで無理なく少し軽くして、役に挑みたいと思っています。

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製作発表より

――どのように再びバート役に臨むのでしょう。3度目のバート役で、キャラクター像に何か変化はありそうですか。

大貫 前回演じたバート像を意識することはないけれど、きっと自然と変わるのだろうなとは思います。自分の中での大きな変化は、子供を持ち、父性を持ったこと。それが、今度のバートにどう生かされるか。4年前の再演の時点ですでに息子は産まれてはいたけれど、真剣に子供と向き合って子育てをしていくうちに、父性がより深まり、この子のためだったら死ねるなって思うようになりました。初めて自分以外の人のために死ねるって思えたんです。
子供が産まれたのは、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』の大千秋楽の日でした。名古屋公演で、飛んで帰ってきたのを覚えています。メリーの再演は子供が産まれて4カ月くらいの頃で、本番中も公演が終わるとすぐ家に帰って子供の面倒を見ていましたね。あの時はとにかく子育てが大変で、慣れるまで仕事と子育ての両立に苦労させられました。子供が産まれたら、やっぱり子供が中心になっていくし、本当に生活が変わります。僕はお風呂が大好きだったけど、子供の面倒を見ていると、もう湯船に入る元気もなくなるくらい。
僕は母子家庭なので、父親像というものがなく、子育てはとにかく手探りでした。世の中でいいパパといわれることをとりあえず実践していた感じです。子供と関わる中で、そういえばあの時自分はこう思っていたとか、息子を通して思い出す機会があって、それもすごくいい経験でした。そういう時間を経て、人間として成長させてもらった4年間だったと思います。それは子供のおかげです。今は次男もいて、上は4歳、下は1歳です。子供のことが本当に可愛くて仕方がなくて。息子たちが産まれて、未来のためにしたいと思うことがすごく強くなりました。例えば、ダンスで子供たちにどんなことを伝えられるだろうか、とか。
僕自身の変化が、このバートという役にどんな影響を与えるのか。ジョージ・バンクスとのシーンで泣いちゃうかもしれない、なんて思ったりもして(笑)。父親になるってここまで人生が変わるものなのかと思いました。そういう体験をして、自分の中で心が動く瞬間というのがバートにどんな影響を及ぼすのか、そこは自分でも未知な部分です。

――最後に、メッセージをお願いします。

大貫 作品自体が持っているもともとのパワーがすごく、楽曲も素晴らしい。もう言うまでもなく、たくさんの人に楽しんでもらえるものになると確信しています。その中でいかに僕が楽しんで舞台に立ち、俳優としてどんな変化があるか。4年前との違いがどう出てくるのか。そこは自分でもわからない部分なので楽しみでもあり、みなさんにまた劇場で観てもらえたらと思っています。

ミュージカル『メリー・ポピンズ*

キャスト:
メリー・ポピンズ:濱田めぐみ/笹本玲奈/朝夏まなと(トリプルキャスト)
バート:大貫勇輔/小野田龍之介/上川一哉 (トリプルキャスト)
ジョージ・バンクス:小西遼生/福士誠治 (W キャスト)
ウィニフレッド・バンクス:木村花代/知念里奈 (W キャスト)
バードウーマン/ミス・アンドリュー:島田歌穂/樹里咲穂(W キャスト)
ブーム提督/頭取:コング桑田/安崎 求 (W キャスト)
ミセス・ブリル:浦嶋りんこ/久保田磨希 (W キャスト)
ロバートソン・アイ:石川新太/DION (W キャスト)
ほか

原作:P.L.トラバース
オリジナル音楽:リチャード・M・シャーマン、ロバート・B・シャーマン
脚本:ジュリアン・フェローズ
新規楽曲/追加歌詞&音楽:ジョージ・スタイルズ、アンソニー・ドリュー
共同製作:キャメロン・マッキントッシュ

公演日程
[東京]東急シアターオーブ 渋谷ヒカリエ11階
2026年3月28日(土)初日~5月9日(土)千穐楽
◎プレビュー公演 2026年3月21日(土)~3月27日(金)
[大阪]梅田芸術劇場メインホール
2026年5月21日(木)~6月6日(土)
https://marypoppins2026.jp/

企画・制作:ホリプロ/東宝
主催:ミュージカル『メリー・ポピンズ』製作委員会

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