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菅井円加とアレクサンドル・トルーシュの堂々とした客演、バレエ団のソリストたちが脇を固め、新春の幸福感にあふれたウクライナ国立バレエ『ドン・キホーテ』

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

ウクライナ国立バレエ

『ドン・キホーテ』M.プティパ、A.ゴルスキー、K.ゴレイゾフスキー:原振付、V.リトヴィノフ:振付・演出

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菅井円加
Hidemi Seto ©KORANSHA

毎冬、恒例となっているウクライナ国立バレエの日本公演。今回は『ジゼル』『雪の女王』『ドン・キホーテ』の3つの作品が上演された。そのうち、菅井円加とアレクサンドル・トルーシュが客演した年明けの『ドン・キホーテ』を観ることができた。菅井は昨年1月のウクライナ国立バレエ『ジゼル』第1幕で、ポワントでの鮮やかなアラベスク・パンシェを披露し、観客をあっといわせた。ハンブルク・バレエ団で日本人初のプリンシパルとして11年に渡って活躍してきた彼女だが、芸術監督ジョン・ノイマイヤーの退任後、2025/26シーズンよりアメリカ東部のボストン・バレエにプリンシパルとして電撃移籍を果たした。ボストンでは、11月に『ジュエルズ』ルビー、『くるみ割り人形』金平糖の精で主演デビューを果たしている。目下、バレエ界の注目の的である彼女が、ウクライナ国立バレエのゲストとして、今度は『ドン・キホーテ』全幕を初披露するとあって、観る側の期待は高まる一方だった。
指揮はミコラ・ジャジューラ、演奏はウクライナ国立歌劇場管弦楽団。管井とトルーシュの主演二人のほか、エスパーダにニキータ・スハルコフ、街の踊り子にアナスタシア・シェフチェンコ、森の女王にイローナ・クラフチェンコ、キューピッドにカテリーナ・チュピナ、キトリの友達にアレクサンドラ・パンチェンコとカテリーナ・ミクルーハという、バレエ団の人気ソリストたちが総出演する配役だった。

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菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ
Hidemi Seto ©KORANSHA

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ニキータ・スハルコフ
Hidemi Seto ©KORANSHA

本の物語に夢中になるあまり、自分が物語の中の騎士だと思い込んだドン・キホーテ(ドミトロ・オレクサンドロフ)とお供のサンチョ・パンサ(オレクシィ・シュヴィドキー)が旅に出るプロローグに続いて、バルセロナの街で人々が集う賑やかな場に、キトリ役の管井が颯爽と現れた。
友人たち(アレクサンドラ・パンチェンコ、カテリーナ・ミクルーハ)と挨拶を交わし、街の人々のタンバリンや手拍子に乗って、軽やかに踊る。管井のテクニックは揺るぎなく、高度な技を繰り出しても余裕があり、観客は彼女の踊りに釘付けになった。菅井はスペインの太陽のようなカラっとした明るさを振りまきながら、町娘の気さくさを存分に表現する。飾らない性格がにじみ出ているようでもあり、キトリは彼女にぴったりの役だと思う。バジル役のトルーシュは、キトリの父ロレンツォ(ルスラン・アッヴラメンコ)に娘との恋路を邪魔されながらも彼女との愛を順調に育んでいる、陽気な床屋の若者を好演。軽快なステップとチャーミングな笑顔が光った。ハンブルク・バレエで共に踊っていた管井とトルーシュのペアは、芝居の息もぴったりで、ラテンの国スペインの恋模様を生き生きと浮かび上がらせた。第1幕終盤のスピーディーなヴァリエーションで、菅井は大きく背中を反らせたジャンプと連続ピルエットでエネルギッシュに舞った。
普段、バジルを演じることが多いプリンシパルのスハルコフが、今回、エスパーダを演じたことは何とも贅沢な配役だったと思う。彼は従者たちを従えて胸を大きく反らして赤いマントを翻し、端正でキレのある闘牛士を演じた。シェフチェンコ扮する妖艶な街の踊り子は、ドラマチックなスペイン舞踊で彩りを添えた。

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左より、アレクサンドラ・パンチェンコ、カテリーナ・ミクルーハ
Hidemi Seto ©KORANSHA

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Hidemi Seto ©KORANSHA

第2幕第2場のドン・キホーテが意識を失ったなかで見た夢のシーンは、第1幕のオレンジや黄色で彩られた暖色の色使いとは対照的に、深い森を表現した青い舞台となり、森の精たちが登場して、幻想的な雰囲気を醸し出す。イローナ・クラフチェンコは上半身を大きく使い、誇り高く森の女王を演じた。カテリーナ・チュピナは、愛らしい仕草でキューピッドのヴァリエーションを快活に踊った。菅井はドン・キホーテの憧れの君、ドルシネア姫として白いチュチュ姿で登場。1幕の元気な町娘キトリとは打ってかわり、静謐で優美なアダージオを披露した。

第3幕のキトリとバジルの結婚式のグラン・パ・ド・ドゥでは、トルーシュが菅井を的確にサポートしながら、息の合ったところを見せた。トルーシュは軽やかなトゥール・アン・レールを見せ、スペイン男の洒落っ気を醸し出すように、粋なポーズで決めた。菅井のキトリのヴァリエーションでは、菅井の扇さばきが何とも優雅だった。グランフェッテでも、正確なリズムを刻みながら扇を自由に操った。最後は、舞台を大きく円を描きながら竜巻のようにダイナミックな回転を見せて、大団円となった。

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菅井円加
Hidemi Seto ©KORANSHA

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イローナ・クラフチェンコ
Hidemi Seto ©KORANSHA

主演二人を盛り立てるウクライナ国立バレエのダンサーたちの好演も光った。キトリの友達を演じたパンチェンコとミクルーハは、各シーンで清楚な魅力を振りまいていた。また、随所で披露されたキャラクターダンスも、スペイン女性のグラマラスさを存分に伝えるものだった。第2幕第1場のジプシーの踊り(ダリア・コスミナ)は流浪の民ならではのエネルギーに満ちたものであり、第2幕第3場に登場したメルセデスの踊り(ウラディスラヴァ・アクシューチナ)は、キトリやその友人たちよりも成熟した女性による、情念を感じさせる美しいものだった。第3幕の結婚式のお祝いとして踊られた男女ペアによるボレロ(エリーナ・ビドゥナ、エフゲニー・ログヴィニェンコ)にも、スペイン舞踊の美麗さを存分に感じることができた。ミコラ・ジャジューラのタクトによるウクライナ国立歌劇場の生演奏も、ダンサーたちの動きを熟知し、それらに寄り添ったもので素晴らしかった。新春の気分にぴったりな、幸福感にあふれた公演だった。

第2幕第1場、ジプシーの野営地でドン・キホーテが見た人形劇のシーンでは、寺田バレエ・アートスクールの生徒が出演した。昨年11月に逝去した同校の校長、ウクライナ国立バレエ芸術監督寺田宜弘の母でもあった高尾美智子は、同校とキーウ国立バレエ学校との姉妹校盟約締結を実現し、長年に渡る交流を行い、両国の架け橋となる存在だった。ウクライナ国立歌劇場日本公演のうち、京都で開催されたウクライナ国立バレエ『雪の女王』(12/23公演)と、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団『第九&運命』(1/15公演)は、ウクライナとの交流に半生を捧げてきた高尾美智子の追悼公演となった。この夏もウクライナ国立バレエの日本公演は予定されており、ウクライナと日本の絆はこれからも続いていく。
(2026年1月3日 東京国際フォーラム ホールA)

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菅井円加、アレクサンドル・トルーシュ
Hidemi Seto ©KORANSHA

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菅井円加
Hidemi Seto ©KORANSHA

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