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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2018.05.10]

新国立劇場バレエ、スターダンサーズ・バレエ、東京バレエ、吉田都、平山素子らが競演した「NHKバレエの饗宴」

NHKバレエの饗宴2018
新国立劇場バレエ団『くるみ割り人形』第2幕から ウェイン・イーグリング:振付、平山素子・小尻健太・鈴木竜・堀田千晶『Chimaira/キマイラ』平山素子:振付・演出、吉田都&マティアス・ディングマン&スターダンサーズ・バレエ団『Flowers of the Forest』デヴィッド・ビントレー:振付・演出、東京バレエ団『ラ・バヤデール』から”影の王国” ナタリア・マカロワ:演出・振付(マリウス・プティパ版による)

毎年、この季節に開催されているNHKバレエの饗宴。国内の有力バレエ団と時により海外で活躍する日本人ダンサーを迎えて開催されている。

tokyo1805b_0217.jpg 新国立劇場バレエ団
「くるみ割り人形」第2幕から 木村優里、井澤駿
撮影/瀬戸秀美(すべて)

今年の開幕は新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』第2幕から。昨年、ウェイン・イーグリングが新国立劇場バレエ団のために振付けたヴァージョンである。ドロッセルマイヤーの甥とくるみ割り人形、王子が一人3役で踊られ、クララはシュタルバウム家では子どもが踊る。夢の中でクララは成長した姿となり、グラン・パ・ド・ドゥではこんぺい糖の精として王子と踊るという構成の配役になっている。こんぺい糖の精は木村優里、王子は井澤駿、ドロッセルマイヤーは貝川鐵夫、ネズミの王様は奥村康祐が踊った。イーグリング版はお菓子の国への入り口で、くるみ割り人形とクララが協力して、ネズミの王様をやっつける。するとくるみ割り人形は美しい王子に変身。夢の中でクララはこんぺい糖の精として王子とパ・ド・ドゥを踊る、というもの。木村のこんぺい糖の精は素晴らしかった。余裕を持って踊れるようになったからだろうか。たおやかさが自然と現れる。周囲が見えているのだろう、舞台全体の雰囲気を豊かにしようとする。
観客が楽しみに心待ちにするデヴェルティスマンの振付はどうだろうか。アラビアの踊りは4人の男性にサポートされて踊る。少し技巧を凝らしすぎた感があり、もっとシンプルにベリーダンスの雰囲気を楽しませてほしい、とも感じられた。ロシアの踊りには、王様と王妃を民族舞踊の橇の踊りのスタイルで登場させたのは、なかなか良い趣向だった。葦笛の踊りは蝶々の踊りとなり、池田理沙子が踊った。池田はきれいだったが、この曲は蝶々をイメージし難いのに少し強引に花のワルツに繋げた。無理に繋げるよりもメロディの美しさを楽しませる工夫がほしいとも思った。全体にこの素晴らしい音楽をうまく生かして、子どもの心に響くような振付・演出を目指すほうが良いのではないだろうか。

tokyo1805b_1141.jpg 木村優里、井澤駿 tokyo1805b_0994.jpg 木村優里
tokyo1805b_0156.jpg 木村優里、井澤駿 tokyo1805b_1162.jpg 木村優里

続いて新国立劇場などで新作をしばしば発表している平山素子の振付・演出『キマイラ』の初演。平山自身と小尻健太、鈴木竜、堀田千晶の四人が踊った。音楽は2013年に亡くなったフランスのアンリ・デュティユーの変奏曲「メタボール」。タイトルを知り、出自の異なるダンサーたちを平山が振付けている、ということで動きに注目が集まる。
ギリシャ神話に登場する合体怪物(ライオンの頭・山羊の胴、蛇の頭の尾を持つ)のキマイラのイメージをダンサーたちが作る。登場シーンは一点光源の逆光の中にシルエットで怪物キマイラが誕生するようなシーン。まず、四人がひとつの怪物の動きを共有しながら踊る。単純に言えば、四人で獅子舞するようなものだが、もちろん、もっと複雑で精妙な動きが変幻し、ダイナミックな生命感が舞台に浮き上がる。しかし、常に合体しているとは限らない。ふたつあるいは三つに分離したり、磁力に引かれるように一点の個体に戻ったりするが、どこにあっても本体とどこかで連繋しているところがおもしろい。合体しているよりも個々に分れた時に、生命の実体が劇空間を彷徨っているのかもしれない。
ダンサーそれぞれが柔軟でスピード感のある見事な動きだった。ラストシーンでは立ち昇る煙りの中にキマイラは消えた。かつて平山が創った『Life Castingー型取られる生命ー』を思い出し、生命の実体とは気体なのかもしれないなどと思った。

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平山素子、小尻健太、鈴木竜、堀田千晶「Chimaira/キマイラ」 撮影/瀬戸秀美
tokyo1805b_0687.jpg 「Flowers of the Forest」

『Flowers of the Forest』はビントレーの傑作というべき作品で昨年8月にスターダンサーズ・バレエ団が日本初演している。
前半はマルコム・アーノルド作曲の「Four Scottish Dances」によってスコットランドの民族文化を描く。ビントレー21歳の時の振付である。無論、スコットランドの民族舞踊の動きを採り入れているのだが、その動きの背後にある文化の精髄がオーロラのように変化し、極北を表す空の下で踊られた。叙情的な色彩が人間の存在に影響を与えているのではないか、と感じられたいへん印象深かかった。
後半はイギリスの作曲家ベンジャミン・ブリテンの「Scottish Ballad」に振付られている。その文化を美しく尊いと信じるが故に、強固に守る強い意思をダンスで謳った。ここでは吉田都とワシントンのキーロフ・アカデミー出身で、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のプリンシパル、マティアス・ディングマンが踊った。お座なりの形容詞で飾りたくない、そういう感動を与える舞台だった。

tokyo1805b_1445.jpg 吉田都、マティアス・ディグマン tokyo1805b_1466.jpg 吉田都、マティアス・ディグマン
tokyo1805b_1392.jpg 吉田都&マティアス・ディグマン&スターダンサーズ・バレエ団「Flowers of the Forest」 撮影/瀬戸秀美

トリを飾ったのは、東京バレエ団の『ラ・バヤデール』から”影の王国”だった。演出・振付は寺院崩壊のシーンまで組み立てているヴァージョンとして知られるナタリア・マカロワ。背後のヒマラヤの山から純白のチュチュを着けた精霊たちが次々と降りてくるシーンは、バレエの代表的な美しさを表すシーンとして、つとに有名である。
神秘的な美しさを漂わせる上野水香のニキヤと、失われた愛への幻覚と戦う柄本弾のソロルが、スケールの大きなドラマを描いた。そして斎藤友佳理芸術監督の下に磨き上げられた東京バレエ団の群舞が、自然の雄大さと神の啓示を表し、幕が下りた。
舞台を彩ったダンサーたちが再度登場し、フィナーレが始まるとNHKホールを揺るがすような喝采が起こった。
演奏は東京フィルハーモニー交響楽団、指揮は井田勝大。

tokyo1805b_0824.jpg 上野水香、柄本弾 tokyo1805b_0845.jpg 東京バレエ団「ラ・バヤデール」から”影の王国”
tokyo1805b_0976.jpg 東京バレエ団「ラ・バヤデール」から”影の王国”上野水香、柄本弾 撮影/瀬戸秀美