Chacott

Special Web Site

志賀三佐枝校長を迎えて、橘バレエ学校が伝統に新たな風を吹き込むレパートリーを上演した

ワールドレポート/東京

第73回橘バレエ学校 学校公演

志賀三佐枝:校長

橘バレエ学校は、毎年一度、バレエ団同様の大劇場で舞台経験を踏む「学校公演」を行なっている。今年は、2024年より志賀三佐枝を新たに校長に迎えて、一部をリニューアルした学校公演のお披露目となった。同校の伝統的な作品も変わらず上演され、同校の卒業生や牧阿佐美バレヱ団所属のダンサーを中心とした指導者陣により、日本のバレエのフロンティアである橘秋子や橘秋帆(牧阿佐美)が築いた教えと伝統が新体制発足後も受け継がれている。

カーテンコールより(左手前:志賀三佐枝) © 山廣 康夫

カーテンコールより(左手前:志賀三佐枝) © 山廣 康夫

橘バレエ学校の学校公演といえば、牧阿佐美や後進の指導者たちが振付けたオリジナルの作品で構成されていることが特徴。「クラス作品」と呼ばれるグループ作品に加え、数年に一度ソロ作品を踊る機会を与えられ、次のクラスへと進級していく。ソロ作品は、早ければ幼稚園生の年齢からチャンスがあり、プロ仕様の広い舞台を数分間たったひとりで満たすという経験が得られる。最年長のクラスでは一般的な古典バレエ作品を通じてグラン・パ・ド・ドゥに挑戦していくが、それまではオリジナル作品を踊って成長していくのが伝統。同校が輩出した日本国内外で活躍する卒業生たちも、同じ道を辿ってきた。
長年受け継がれている上演作品には、人形を模した動きで構成される『あやつり人形』、騎手が鞭を使う様子や馬の足づかいを模した『乗馬』、頭に大きな羽をつけて多くの回転を披露する『おしゃれな女の子』など、レパートリーとも呼べるような伝統の作品には、独特なスタイルや実は高度なテクニックが課題のように散りばめられている。
橘バレエ学校で重んじられているクラシカルなバレエのスタイルに対して、学校公演で取り組む作品には、どこかバレエ以外のエンターテインメント色を持ちあわせた振付が織り交ぜられている。古典バレエのテクニックをこなしながらも、エンターテインメントとして魅せるスパイスの効いた作品に在校生たちが挑んでいく伝統は、今も変わらない。古典的な様式から少し外れることで、角度や音楽の取り方、ステップのコーディネーションにセンスが問われる瞬間は、牧阿佐美振付作品にも多く見られるが、子供のうちからその一端に触れる機会が用意されているのかもしれない。

ソロ作品「おしゃれな女の子」 © 山廣 康夫

ソロ作品「おしゃれな女の子」 © 山廣 康夫

クラス作品「ミンクス」 © 山廣 康

クラス作品「ミンクス」 © 山廣 康夫

今年の新しい試みとして、「オープニング」と題した全校生徒が出演する演目が幕開きとして披露された。卒業生であり現在は指導にあたる織山万梨子が振付を手がけた。日頃のレッスンをモチーフとし、橘バレエ学校での指導内容が垣間見える構成となっていた。ステージ上のピアニスト(宮崎あかね)の生演奏に乗せて、バーレッスンからセンターレッスン、最後には卒業生によるデュエット(昼公演:織山万梨子、清瀧千晴/夜公演:三宅里奈、石田亮一)に至るまで、プロ育成までのカリキュラムが作品として構成されていた。同じエクササイズでも異なるアンシェヌマンを与えることで、複数学年にまたがる生徒たちが個々に合った難易度のステップを同じ曲の中で披露する演出も学校ならではの見せ方。日々のレッスンを生ピアノの演奏で行い、生演奏に合わせて踊る経験を幼い時から得られるのは、橘バレエ学校での教育で大切にされていることの一つだが、今でも小学校5・6年生のクラス以上は、毎日ピアニストによる選曲と生演奏によって踊ることができるという。その点においても、「オープニング」は長年校長を務めた牧阿佐美が大切にした教育スタイルの伝統を象徴する作品となっていた。

「オープニング」より織山万梨子・清瀧千晴/宮崎あかね(ピアノ) © 山廣 康夫

「オープニング」より織山万梨子・清瀧千晴/宮崎あかね(ピアノ) © 山廣 康夫

「オープニング」より © 山廣 康夫

「オープニング」より © 山廣 康夫

今年の公演の終盤には、歴代の卒業生の中からクラシックとコンテンポラリーの各方面で活動するダンサーによる作品が披露され、華を添えた(昼公演『サタネラ』よりグラン・パ・ド・ドゥ高橋晴花・中島哲也、『Enthade(あちらへ)』樋笠理子/夜公演『白鳥の湖』第3幕より黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ下川佳鈴・石田亮一、『From Now On』山井絵里奈)。今年は卒業となる在校生は選出されなかったが、例年はこうしたレパートリー作品の上演の最後に『白鳥の湖』第2幕や『ラ・シルフィード』第2幕などが上演され、在校生によるコール・ド・バレエに囲まれながらその年の卒業生が主役を務める。こうして橘バレエ学校は1950年の開校以来、牧阿佐美バレヱ団や新国立劇場バレエ団を中心に日本のバレエシーンを牽引する数多くのダンサーを輩出している。
(2025年4月13日 文京シビックホール大ホール)

記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。

ページの先頭へ戻る