オーストラリア・バレエ団芸術監督デヴィッド・ホールバーグが会見「ヌレエフ版『ドン・キホーテ』の魅力を感じてほしい」
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小野寺 悦子
オーストラリア・バレエ団が、今年5月~6月、15年ぶりの来日公演を行う。プログラムは、ルドルフ・ヌレエフ振付の古典の人気作『ドン・キホーテ』プロローグ付き全3幕。公演に先駆け、芸術監督のデヴィッド・ホールバーグが来日し、記者会見が開催された。
オーストラリア・バレエ団は、英国ロイヤル・バレエ団創設者ニネット・ド・ヴァロワの推薦を受けたペギー・ヴァン・プラーグにより1962年に設立された。初来日は1968年で、1993年、1996年、2007年、2010年と来日を重ね、今回で6度目の日本公演。2021年1月、カンパニーを20年にわたり率いてきたデヴィッド・マカリスター前芸術監督の跡を継ぎ、ホールバーグが第8代芸術監督に就任した。アメリカン・バレエ・シアター、ボリショイ・バレエでプリンシパルとして活躍し、日本でもダンサーとしてお馴染みのホールバーグだが、今回は芸術監督となって初めての日本公演だ。意気込みを語る。
photo/Yuji Namba
「私が愛するオーストラリア・バレエ団を日本の皆様に観ていただくことを心から嬉しく思います。今回はダンサーとしてではなく、芸術監督としての来日ということで、気持ちも大きく違います。来日は私たちバレエ団にとって非常に貴重な機会です。日本のお客様はバレエのことを大変よく知っていて、厳しい目を持っているのをわかっていますので、緊張を感じます。ただ、緊張の先には大きな喜びがあり、そこに到達できることを願っています」
オーストラリア・バレエ団の年間公演数は実に170以上。シドニーとメルボルンの2つの都市を拠点に持ち、さらに国際ツアーで世界中を飛び回る日々だという。
「オーストラリア・バレエ団は60年を超える歴史があり、その間、非常に熱心な観客を育ててきました。シドニーはシドニー・オペラハウス、メルボルンは州立劇場が拠点で、それぞれたくさんのお客様がついています。国内はもちろん、国際的なツアーも大切にしています。オーストラリアは地理的に世界から遠いこともあり、バレエ団を世界の皆さんに観ていただく必要があります。ダンサーたちは常にカバンに荷物を詰め、セットを船に乗せ、世界中で公演を行っています」
カンパニーの成り立ちに質問が及ぶと、政府のサポートとバレエ団の充実した制度について言及。自身のキャリアと照らし合わせ、世界のバレエ団の中でも優れた体制を持つ。
「政府の支援は大変厚く、12%のサポートがあります。ありがたいことに、オーストラリア政府は、芸術支援を非常に重要だと捉えています。そこは私の出身であるアメリカとは違う部分で、安心して活動ができている状況です。ダンサーは計75名。公演数に対し、ダンサーの数は多くはありません。例えばポリショイ・バレエは約210名のダンサーがいますが、私たちはこの人数で世界中移動しながら公演を続けているので、確かに楽ではないですね。ただ良い点もあって、ダンサーはいろいろな役を踊る機会に恵まれます。また世界のバレエ団の中には契約期間が9ヶ月というカンパニーもありますが、オーストラリア・バレエ団は一年契約なので、しっかりとキャリアを築くことができています。ダンサーのほかスタッフも200名近くいて、あらゆる分野の専門家たちに支えられています」
来日公演で上演されるのはルドルフ・ヌレエフ版『ドン・キホーテ』。ルドルフ・ヌレエフ演出振付により1970年にオーストラリア・バレエ団で初演され、73年にはヌレエフ主演で映画化されて多くの国で評判となった。
「私たちが大変自信を持っている作品であり、カンパニーを代表するレパートリーです。非常に生命力に溢れ、生き生きとし、オーストラリアらしい温かさ溢れるプロダクションになっています。『ドン・キホーテ』は世界中に様々なヴァージョンがありますが、ぜひ私たちの作品と見比べてほしいと思い、あえて今回演目に選びました」。
オーストラリア・バレエ団では、2023年のカンパニー60周年記念シーズン幕開けにヌレエフ版『ドン・キホーテ』を再演した。本国では計32公演、43,000人の動員を記録し、大成功を収めている。注目すべきは豪華なセットと衣裳で
「73年の映画のセットと衣裳を舞台用に作り直しました。バレエ団にはコスチューム用の広いアトリエがあり、30名の職人たちが働いていて、全て工房内で製作しました。映画版をもとに、新たなプロダクションになっています」と、ホールバーグは胸を張る。
豪華セットと衣裳は日本公演でも再現される。主催のNBSによると、過去最大の物量を誇り、これはミラノ・スカラ座、パリ・オペラ座の公演をしのぐ規模だという。
photo/Yuji Namba
今回は15年ぶりの来日となり、ダンサーも一新。キャスト選定の決め手は? の質問に、「キャスティングというのは本当に悩ましくて。いつも睡眠時間を削れられます(笑)」とホールバーグ。来日公演では、近藤亜香&チェンウ・グオ、ベネディクト・ベメ&ジョセフ・ケイリー、マーカス・モレリ&ジル・オーガイのプリンシパル3組6名が日替わりで主演を務める。
「近藤亜香&チェンウ・グオのような長年プリンシパルを務めてきたベテランのダンサーは、安定した踊りを見せることができるでしょう。一方でマーカス・モレリ&ジル・オーガイのように昇進して日の浅いダンサーもいて、フレッシュな魅力が感じられると思います。いずれにしても、それぞれのキャストがキャリアの中で培ったステージを見ていただけると思います。どの日に劇場に来ても楽しんでもらえる自信があります」
そして、主要キャストの指導にあたったのが、伝説のプリマ、シルヴィ・ギエム。ギエム自身かつてヌレエフの薫陶を受けており、そのエッセンスを直々にダンサーへ伝授している。指導者としてのギエムについて、ホールバーグが改めて称賛を口にする。
「彼女は世界で最も素晴らしいダンサーであり、そして素晴らしいコーチでもあることがわかりました。彼女はダンサーそれぞれの個性を引き出してくれた。<私はこうやった。こうすべきじゃないの>と言うのではなく、ダンサー1人1人と向き合い、1人1人に自ら考えさせ、どう表現していくか導いてくれた。それにより主役のダンサーたちだけでなく、カンパニー全体にそうした考えを行き渡らせてくれた。カンパニーの質を上げてくれました」
ホールバーグは芸術監督に就いて4年。確かな実績を手にしてきており、この来日公演でその成果を披露する。
「芸術監督になったとき、まず1番に考えたのはカンパニーのクオリティを上げることでした。同時に、カンパニーの個性も重要だと考えました。ダンサーたちには、技術だけでなく、演劇的な部分も含めて教え、各自に見つけてもらおうと務めてきました。お客様のひきつけ方や演技の仕方の指導に力を入れ、彼らに伝えてきたつもりです。バレエの厳格さに引きずられることなく、それぞれのダンサーが自分自身の個性を引き出し、自由に思いっきり踊ってほしい、というのが私の願い。今回の来日で、オーストラリア・バレエ団らしい笑顔と明るさ、温もり、そして幸福感を存分にお見せできればと思っています」
photo/Yuji Namba
公演公式サイト:https://www.nbs.or.jp/stages/2025/australia/
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