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<アリス>を踊って喝采を浴びた高田茜が「バレエ・アステラス 2025」で二つのパ・ド・ドゥを踊る、高田茜(英国ロイヤルバレエ プリンシパル)インタビュー

ワールドレポート/東京

インタビュー=関口紘一

----今回、高田さんが日本で初めて主演された『不思議の国のアリス』(新国立劇場6月14日公演)を観せていただきました。とても素晴らしい舞台でした。観客の人たちも興奮していて、カーテンコールが大いに盛り上がっていました。

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高田 ありがとうございます。

----とにかく、地下鉄の駅を降りた時から、雰囲気がいつもと違っていまして、「これから高田茜さんのアリスを観るんだ!」と思っている観客の方たちの<気>が駅全体に満ちておりました。

高田 私もMrs. Green Appleのコンサートに行った時などには、そういう気持ちになりました。ファンの方たちが、みんな同じ通りをTシャツとかタオルを身につけて歩いていく、高揚感がありますね。

----『不思議の国のアリス』では、アリスは3幕通してほとんど出ずっぱりです。まず、身体的に大変ですね。他の全幕ものと比べても、舞台に出ている時間が長いんじゃないですか。

高田 そうですね、なかなかここまで長く舞台上で踊ったり演技したりするバレエは、ないかもしれないですね。

----1幕から、一人で、穴に落ちて大きくなったり小さくなったりして、多くの動きで観客を惹きつける演技が長く続きます。

高田 そうですね。舞台上で一人です。

----2幕でミュージカル風のシーンがあって、少し時間ができて休めるのかな、と思っていたら、すぐにかなり長いパ・ド・ドゥになってしまって・・・

高田 そう、髪飾りを付けてハートのジャックと再会を喜ぶパ・ド・ドゥを踊ります。

----それから<HOME SWEET HOME>のシーンでは、赤ちゃんを次々と受け渡していく際どい掛け合いもありました。

高田 ええ、あのシーンではキッチンの大きな台があって、それを動かないようにロックしています。そのロックを観客から見えないように外す係がアリスなんです。隠れながらロックを外して、台が移動できるようにしなければなりません。ロイヤルで上演する時はなかった役割で、私にとっては初めての課題でした。しっかりと忘れないように気をつけなければ、とドキドキしてました。

----あのシーンでは、赤ちゃんを公爵夫人やコワーイ料理女などとつぎつぎに受け渡しているうちに、なんと豚に変身してしまう、という強烈なイメージがありました。結局、この家では赤ちゃんは食欲の対象だったのではないか・・・と。

高田 『千と千尋の神隠し』みたいですね、食べられちゃうみたいな・・・。そういうブラックジョーク的表現は、ほんとにイギリス的だな、と思います。

----怪奇映画的なシーンやミュージカル風、ミュージックホール的なシーンもあって、英国の舞台芸術の伝統ともクロスして、とても面白く構成されていました。興味深く、なんだかゾクゾクしてくるようなバレエでした。
高田さんは『赤い薔薇ソースの伝説』を始め、ウィールドン作品をよく踊られていますが、彼の作品を踊る際に、特別に気をつけていることはありますか。

高田 ウィールドン自身、すごく厳しい方なので踊りのニュアンスだったり、振付自体が難解なことも多いので、それに挑戦できるような身体作りであったり、スタミナみたいなこともすごく気をつけています。

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Alice's Adventures in Wonderland© by Christopher WHEELDON
Set and Costume Designer: Bob CROWLEY
Lighting Designer: Natasha KATZ
Projection Designers: Jon DRISCOLL and Gemma CARRINGTON
撮影:鹿摩隆司
アリス:高田茜(英国ロイヤルバレエ)

----本当に過酷なくらいスタミナが必要ですね。動きとかは踊られていていかがですか。

高田 動きは難しいです。アリスの場合も、元々、ローレン・カスバートソンに振付けた役ですが、彼女がすごく自由に踊るので、それが振付にも反映されているところもあって、こっちに行ったと思ったらあっちに行くみたいな動きがすごく多くて、実際、簡単そうに見えてすごく難しいことをしています。とても難しいです。

----高田さんは、今度、ロイヤル・バレエで再演されるウィールドマン振付の『赤い薔薇ソースの伝説』全幕も踊られています。このバレエはすごく時間の展開が速いですよね。時代がどんどん変わっていきます。ゆったりした時間が流れているバレエを踊る場合とダンサーとして違いはありますか。

高田 そうですね、『赤い薔薇ソースの伝説』は舞台展開がすごく速いですね。幼い時から歳を重ねていく様を3幕に分けて描いているバレエなので、時間の流れは速く感じます。でも、衣裳が変わったりセットが変わったりするので、そこまで難しいな、というふうには思わなかったです。

----メキシコの料理や食材をテーマとした伝記的小説を原作にしていて、作品のイメージもの濃厚で多彩な色彩で描かれていて凄絶というか、魔術的で凄い。通常の想像力とは違うような気もしました。メキシコの革命運動が幻想的現れたり、薔薇の精のイメージが渾然と表れるシーンとか、思わずハッとするように鮮烈でした。
ウィールドン作品は創作バレエで世界的に大ヒットしています。英国ロイヤル・バレエのケビン芸術監督もとても期待しているのではないでしょうか。

高田 そうですね、クリスはエンターテインメントをすごく重要視していると思います。どうしたらお客様が楽しめるか、ということを大切にしています。そして制作にあたっては、いつも彼のチームが組まれています。非常に優れた音楽やデザイン、照明などのスタッフがいて、しっかりした信頼関係があるので、次々と大作を作っていけるのだと思います。そうした創作の創る力量がやっぱりすごいのかな、と思います。

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Alice's Adventures in Wonderland© by Christopher WHEELDON
Set and Costume Designer: Bob CROWLEY
Lighting Designer: Natasha KATZ
Projection Designers: Jon DRISCOLL and Gemma CARRINGTON
撮影:鹿摩隆司
アリス:高田茜(英国ロイヤルバレエ)
ハートのジャック:井澤駿

----結局、エンターテインメント性を高めると芸術的に優れた舞台になる。究極のエンターテインメントは優れた芸術である、という考え方なのではないしょうか。
それから英国ロイヤル・バレエ&オペラ in シネマ2024/25で、今年9月に上映される「バレエ・トゥ・ブロードウェイ」の3作品には、高田さんが出演された作品も上映されますね。

高田 はい、『フールス・パラダイス Fool's Paradise』(音楽/ジョビー・タルボット、出演/高田茜、ウィリアム・ブレイスウェル、マリアネラ・ヌニェス)です。サンフランシスコ・バレエで初演されたのですが、2012年以来踊られていませんでした。13年ぶりにロイヤル・バレエで上演されることになりました。クリストファー・ウィールドンのカンパニー「Morphoses」に振付けた作品ですが、2012年にロイヤルでも上演されました。彼自身は再演するのを躊躇していたみたいですが、今回、ロイヤル・バレエのダンサーたちがいろいろと意味を込めて踊ってくれていることに感謝していました。

----そして「バレエ・アステラス 2025」では、ウィールドン振付『Within the Golden Hour』よりパ・ド・ドゥ とリアム・スカーレット振付の『アスフォデルの花畑』よりパ・ド・ドゥ を平野亮一さんと踊られますね。

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高田 『Within the Golden Hour』は元々、絵画から着想を得て振付けられたものなので、私が個人的に感じるのは、夜明けの陽を讃え、喜びあって懐かしみながら抱き合うというような、詩的で色彩豊かな作品です。私のお気に入りの作品です。

----20世紀初めに活躍したウィーンの画家クリムトの絵からインスピレーションを得た、と言われていますよね。

高田 色彩が素晴らしい画家ですね。キラキラした衣裳で踊ります。

----キラキラ輝いた衣裳だと踊っていて気になったりすることはありませんか。

高田 私たちは舞台上でスポット・ライトなどを当てられることも多いので、光は大丈夫でしたが、パートナーの手がちょっと心配でした。衣裳にかなりシャ-プな光り輝く破片を付けていますから。パートナリングも多かったので心配しました。初演当時の衣裳とまた違ったものになっています。

----我々が観ていますと、ウィールドンは作品ごとにいろいろと異なったイメージで創作しますので、想像力が豊かな振付家だと感じています。

高田 そうですね、でもダンサーとしては、「あ、このステップはクリスらしいな」と思うことは時々あります。パ・ド・ドゥを踊っていても感じることがあります。

----やはりアステラスで踊られるリアム・スカーレット振付の『アスフォデルの花畑』よりパ・ド・ドゥ はいかがですか。以前から踊られていますね。

高田 そうですね、初演は2010年でリアムの振付家としてのデビュー作です。鮮烈なデビューでした。難解なパ・ド・ドゥであるし、音楽(プーランク)と緻密に振付けられていて強くインパクトの残るものです。

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----リアムの振付は音楽性が豊かですね。ギリシャ神話の黄泉の国という設定で、すごく独特の雰囲気もありました。当時は、リアム・スカーレットがロイヤル・バレエのトップランナーみたいでした。

高田 元々、すごく若かったですからね。当時は24歳くらいだったと思います。

----若くてみんなに期待されていましたね、惜しまれて亡くなってしまいましたが。ロイヤル・バレエの『白鳥の湖』の新制作まで任されました。

高田 そうですね、彼を知っている人もたくさんいますし、レパートリーに残されていて、踊ることができることは私も嬉しいです。

----ロイヤル・バレエのプリンシパルとしてご活躍されている高田さんに、お聞きしたかったのですが、かつては、コンテンポラリー・ダンスを踊った後は、何ヶ月か身体のメンテナンスをしないとクラシック・バレエは踊れない、と言われることもありました。ところが最近のダンサーは、とてもそんなこと言っていられませんですよね。

高田 はい、もう同時進行です。

----アコスタ、サドラーズウェルズ芸術監督などは、クラシックもコンテンポラリーも同時に踊れるようにしなければ、今日のダンサーは務まらない、とも言っていました。世界のトップバレリーナとして踊っていく上で、そういうことって身体的にはどうですか。

高田 きついです!! ただ、ありがたいことに私たちはヘルス・ケアのサポートスタッフがしっかりしと協力してくれるので、大変に助かっています。それがなければ、いくら素晴らしいダンサーでも身体を壊してしまうと思います。身体の使い方が違いますし、リハーサルの仕方も違いますから、怪我の要因になってしまいます。怪我をしてしまったら、全く踊れなくなってしまいます。そういうケアがあるからこそ、私たちは踊り続けていられる、ということがあると思います。

----コンテンポラリー踊った後は、やはり辛いですか。

高田 膝を使うので・・・腰の使い方も違いますし。クリスタル・パイトの作品などは、ほとんどスクワット状態で動くので、身体を丸めて、首とかも使いますし・・・クラシックとは全然違います。

----でも、クラシックの本番を踊りながら、パイト作品をリハーサルしなければならなかったりするのですよね。かつてはそういうことはあまりなかったと思うのですが・・・。カンパニーの方が配慮していたと思いますが。

高田 やっぱり、お客様を大切にして飽きさせたくないという気持ちからなのか、いろいろなプログラムを変えてシーズン・プログラムが作られていますから、どうしてもそうなってしまいますね。みんなギリギリのところで頑張っています。本当にダンサーはアスリートですね。

----高田さんは、最初はロシアに留学されていましたね。それでローザンヌを受賞してから、英国ロイヤル・バレエ学校に進まれましたね。それはなぜですか。

高田 そうですね、私は、元々、ロイヤル・バレエが好きだったので。吉田都さんもいらっしゃったし・・・やっぱり物語のあるバレエが好きでしたから、そういうバレエを踊ってみたいという気持ちが大きかったのです。ロイヤル・バレエには、ロシアではあまり踊られていない作品も多かったし。

----ロシアで学ばれたことは役に立っていますか。

高田 そうですね。ロシア人の方ってみんな自分を表現するのが大好きなので、そういうことを間近でみてとても刺激になりました。

----ロシア人って、バレエ好きですね。劇場でも舞台がハネテもうみんな客席にも人が少なくなっているのに、ずーっと拍手し続けている人とかいます。「あー、バレエが本当に好きなんだな」と思わせます。なんかロシア人とバレエの距離って、他の国とちょっと違うなかな、と思ったりします。

高田 でも日本のお客様も素晴らしいと私は思います。すごく情熱的です。バレエが好きで毎回いらっしゃる方とかもいて楽屋口で出待ちされていますし、私たちもツアーで来るときに、あんなに列を成して待っていてくださるなんて・・・日本しかないです。多分1時間以上も待ってくださるお客様がいらっしゃいます。そして最近では、ヨーロッパのオペラハウスでも日本人のお客様で待っていてくださることも多くなりました。

----本日は、お忙しいところ貴重な時間を割いてくださいましてありがとうございました。「バレエ・アステラス 2025」、とても楽しみにしております。

バレエ・アステラス2025
~海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて世界とつなぐ~

【公演日程】
2025年7月18日(金)14:00開演 7月19日(土)14:00開演

【会場】新国立劇場オペラパレス
【ウェブサイト】https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/asteras2025/

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