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シルヴィ・ギエムがゲストコーチに。オーストラリア・バレエ団来日公演『ドン・キホーテ』間もなく開幕!

ワールドレポート/東京

小野寺 悦子

来日公演を直前に控えたオーストラリア・バレエ団が、開幕記者会見&公開リハーサルを開催。芸術監督のデヴィッド・ホールバーグとゲストコーチのシルヴィ・ギエム、プリンシパル・ダンサーの近藤亜香とチェンウ・グオが登壇し、日本公演への想いを語った。

オーストラリア・バレエ団の来日は2010年以来15年ぶりで、今回は『ドン・キホーテ』プロローグ付き全3幕を上演。1970年にルドルフ・ヌレエフがオーストラリア・バレエ団に振付け、1973年にヌレエフ主演で映画化された同団の名レパートリーだ。ホールバーグは2021年1月に第8代芸術監督に就任し、2023年のバレエ団60周年記念シーズン幕開けにヌレエフ版『ドン・キホーテ』を再演。オーストラリア本国で計32公演、43000人動員の記録を打ち立てている。
「『ドン・キホーテ』はヌレエフが我々オーストラリア・バレエ団のために作ってくれたとても重要な作品です。2023年に再演した際、オマージュとして、映画のクレジットから作品を始めています。シルヴィはヌレエフを個人的にも知っていて、数多くの作品でヌレエフと一緒に作品を作ってきた伝説の方。彼女が目となり、我々の『ドン・キホーテ』を監修する役割を担っていただきました」とホールバーグ。

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photo Shoko Matsuhashi

2015年に惜しまれつつ引退し、50歳でダンサー人生の幕を閉じたギエム。ゲストコーチ就任のきっかけは、ホールバーグ直々のオファーだったと明かす。
「私がイタリアで犬とたわむれていたとき、このクレイジーな方が電話をくれまして(笑)、オーストラリア・バレエ団とコラボレーションすることになりました。彼は「私たちと一緒に仕事がしたいですか?」と単刀直入に聞いてきて、それがとても気に入りました。私は回りくどい言い方より、シンプルな方が好きなんです。そして彼の聞き方に優しさを感じ、ぜひ受けたいと思いました」

ギエムの指導を間近で見てきたホールバーグが、リハーサルの手応えを口にする。
「シルヴィはダンサーがそれぞれの個性を生かし、1人1人が自分らしくあることを許してくれた。決して型にはめようとせず、それぞれの存在を認めた上で指導してくれました。『ドン・キホーテ』は高度なテクニックが求められるので、ともすればサーカスのようになってしまいがち。もちろんテクニックは重要ですが、それをまとめるのがダンサーの人間性だと思っています。コーチングをする上でシルヴィとヌレエフの関係性は非常に重要で、それがあったからこそダンサーの人間らしさがより引き出されていると感じています」

ギエムはパリ・オペラ座のダンサー時代、ヌレエフの任命により19歳の若さでプリンシパルに就任し、ヌレエフの薫陶を受けてきた。生前のヌレエフを「とても聡明な方でした。そして、舞台に対する愛を持っている方でした」と振り返り、ヌレエフ作品の魅力をこう語る。
「ヌレエフ版『ドン・キホーテ』は、ダンサーのポテンシャルを引き出す多大な可能性を持っている作品だと思います。例えば、ダンサー自身がキャラクターを作り、演技をし、キャラクター同士対話が自由にできる余白を与えてくれる。ヌレエフ自身、ウィットに富んだ方で、それが作品に出ているのを感じます。ダンサーはダンスをすればいいとする人もいるけれど、それだけではフラットになってしまう。キャラクターを探り、その人間らしさやちょっとした面白さが出るのがヌレエフ版だと思っています」

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photo Shoko Matsuhashi

近藤亜香は2010年入団で、2015年に日本人で初めて同団のプリンシパル・ダンサーに昇格。15年前の前回来日公演は入団1年目で参加し、今回は2度目の来日で主演のキトリを踊る。ギエムの指導を受けるのは2023年に続き2度目で、その体験をこう話す。
「初めてギエムのリハーサルを受けたときはもうドキドキで、緊張して汗だくになったのを覚えています(笑)。テクニックについてギエムに何か言われたことは1度もなく、キャラクターの1人としてどう生きるか、バジルとの関係性をどうお客様に伝えるかに重きを置いて指導していただいてきました。上手くいかず私がストレスを抱えていると、じゃあこれをやってみたらどう、こういうのはどうと、1つの型にはめずにいろいろ試させてくれて、それもダンサーとして自信に繋がりました。今自分の中で成長を感じていて、このタイミングで日本に帰り、主役を踊ることができるのをすごく楽しみにしています」

近藤とペアを組むのは、公私共のパートナーでもあるチェンウ・グオ。2008年に入団、2013年よりプリンシパルを務め、長く活躍してきたカンパニーのトップダンサーだ。彼にとってギエムは「神様のような存在」だという。
「中国にいた11歳のとき、国営放送でシルヴィを見ています。中国の国営放送は国が認めた人しかテレビに映ってはいけません。私が唯一国営放送でバレエを見たのがシルヴィで、すごい人なんだなと思ったのを覚えています。シルヴィの指導は、技術的にも精神的にも高めてくれるものでした。我々はプリンシパル・ダンサーというバレエ団のトップに立つ者として、この先どう進むべきか悩むこともあります。そんなとき、ダンサーが安心できる環境で、自分らしさを重んじて踊ることができると教えてくれた。今までは誰かに認められなければいけない、誰かを喜ばせたいという想いが強かったけれど、シルヴィの指導を受けることによって、自分というアーティストがやっと完成された感覚を持てました。ダンサーとしても人間としても、レベルが上がったように感じています」

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photo Shoko Matsuhashi

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photo Shoko Matsuhashi

ダンサーから絶大な信頼を寄せられるギエム。今の彼女にとって教えとは?若い世代に何を伝えたいか?という質問に、「それはとてもシンプルなこと」と答える。
「ダンサー1人1人にハッピーになってもらいたい、楽しんでもらいたい、と思っています。毎晩劇場に来るお客様に、ダンサーは素敵なギフトを渡す責務がある。そのためにはテクニックだけではなく、ダンサーが心地良さを覚えながら踊ること、ダンサー自身が楽しみながら踊ることが大切です。ただ、稽古や役作りの過程はとても大変で、私が1番それをわかっています。そのダンサーがどういう人間で、どこまで行けるのか、どういったものを引き出すことができるのか。ダンサー1人1人が全力を出し切り、型にはまらず、お客様とコミュニケーションを図れるステージを作ること、それが私の役目だと考えています。ダンサーが進化していく様子を目撃するのは、私自身にとって何ものにも代え難い喜びだと感じています」

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photo Shoko Matsuhashi

会見に続き、スタジオでリハーサルの模様が公開された。主役キャストでプリンシパル・ダンサーのジル・オオガイとマーカス・モレリが登場し、ギエムがパ・ド・ドゥの指導を行っている。
上半身のつけ方、アームスの運び、リフトのタイミング、ポワントの足さばきと、2人に助言を与えるギエム。そのふとした動きやつま先一つに伝説のバレリーナの片鱗がみえ、指導の説得力を高めていく。日本人の血をひくオオガイは芯が強く鮮やかな華を感じさせ、パートナーのモレリは繊細ななかに情熱を潜ませ好相性。リハーサルは終始和やかな雰囲気で、笑顔が絶えず、ギエムとホールバーグ、ダンサーたちの絆と風通しの良い関係性が窺えた。

来日公演の主演キャストは、近藤亜香×チェンウ・グオ、ジル・オオガイ×マーカス・モレリ、山田悠未×ブレット・シノウェスの3ペアで、5月30日〜6月1日の3日間、計4公演。5月31日の夜公演は、開演前にギエム×ホールバーグのスペシャルプレトークが予定されている。

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photo Shoko Matsuhashi

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photo Shoko Matsuhashi

オーストラリア・バレエ団
『ドン・キホーテ』プロローグ付き全3幕

5月30日(金) 18:30
キトリ:近藤亜香
バジル:チェンウ・グオ

5月31日(土) 12:30
キトリ:山田悠未
バジル:ブレット・シノウェス

5月31日(土) 18:30
キトリ:ジル・オオガイ
バジル:マーカス・モレリ

6月1日(日) 12:00
キトリ:近藤亜香
バジル:チェンウ・グオ

会場:東京文化会館(上野)
指揮:ジョナサン・ロー
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

https://www.nbs.or.jp/stages/2025/australia/index.html

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