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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2017.12.11]

ベジャール芸術の豊穣をジル・ロマンが鮮やかに浮かび上がらせた〈ベジャール・セレブレーション〉

〈Bejart Celebration〉〈ベジャール・セレブレーション〉
Collaborative Gala by Bejart Ballet Lausanne and The Tokyo Ballet
モーリス・ベジャール・バレエ団&東京バレエ団 特別合同ガラ
『t‘M et variations…』choreographed by Gil Roman, 『Bejart Fete Maurice』choreographed by Maurice Bejart, staged by Gil Roman
『テム・エ・ヴァリアシオン』ジル・ロマン:振付、『ベジャール・セレブレーション』モーリス・ベジャール:振付、ジル・ロマン:振付指導

振付の鬼才モーリス・ベジャールの没後10年を記念して来日したモーリス・ベジャール・バレエ団(BBL)が、単独公演に加えて、BBLが共演を重ねてきた“兄弟カンパニー”東京バレエ団と特別合同ガラを、ベジャールの命日の11月22日と翌23日に行った。別項のモーリス・ベジャール・バレエ団の評でも書いたが、今年はベジャールが創設した20世紀バレエ団がモーリス・ベジャール・バレエ団として新たなスタートを切ってから30周年、さらに20世紀バレエ団として初来日してから50周年を迎えるという。特別合同ガラでは、まずBBLが芸術監督ジル・ロマンの振付による『テム・エ・ヴァリアシオン』(2016年)を踊り、後半でベジャール作品の抜粋によるアンソロジー『ベジャール・セレブレーション』(2016年)を東京バレエ団と共に上演した。

『テム・エ・ヴァリアシオン』は、ロマンがベジャールからもらった手紙への返事として創作した作品。不眠症だったベジャールは、新作の構想や様々な思いを毎日のように手紙に書いて送ったそうで、ロマンもたくさん受け取ったが返事は書かなかったという。この作品は、ロマンがベジャールへの返事として、言葉のかわりにBBLのダンサーの身体でしたためたものだそうだ。ベンチに座る男2人と女1人によるドラマを内包した踊りや、男2人によるユニゾン風のダンス、走り回る男たち、男女のペアによるデュエット、バスローブ風の衣裳の女性たちによる群舞、片足はトゥシューズでもう片方は裸足で踊る女性など、スタイルもテンポも雰囲気も異なるダンスが連綿と脈絡なく紡がれていった。舞台後方で演奏していたシティパーカッションの2人が中央に出てきて、ダンサーたちに囲まれて終わった。確かに、つれづれなるままに綴られた日記のような作品だが、1時間という上演時間は冗長に感じられた。

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〈ベジャール・セレブレーション〉 photo Kiyonori Hasegawa(すべて)

『ベジャール・セレブレーション』は、昨年末、『テム・エ・ヴァリアシオン』と一緒にローザンヌで初演された作品だが、今回は東京バレエ団のために4作品を追加しての特別版である。膨大な数のベジャール作品から14の作品を選んで構成したのは、もちろんロマン。男性が黙々とバー・レッスンをしていると、突然、音楽が鳴る。男性はバーを持って走り去り、パフォーマンスが始まった。最初の作品は、ベジャールがフランス革命200年を記念して創作した『1789…そして私たち』よりベートーヴェンの交響曲第1番の第4楽章を用いた部分。BBLのダンサーがひとしきり踊った後、東京バレエ団のダンサーが加わる形で、明るい曲調の音楽にのせて生き生きと踊られた。『ヘリオガバル』では、アランナ・アーキバルドとジェイム・オエッソが原始の男女のダイナミズムを脈打たせたパワフルなデュオを踊り、エリザベット・ロスとジュリアン・ファヴローは『わが夢の都ウィーン』より〈シャンブル・セパレへ行きましょう〉では思わせぶりな男女のやりとりを楽しませ、『ハムレット』よりでは葛藤を抱えたハムレットと悠然と構える母妃の、心の内で火花を散らすようなやりとりを演じてみせた。『わが夢の都ウィーン』より〈ウント・ゾー・ヴァイター〉ではヴィクトル・ユーゴー・ペドロソが軽快なリズムにのって快活に踊り回った。

パ・ド・ドゥではほかに、『ディブク』よりで、ジャスミン・カマロタとヴィト・パンシーニがユダヤの民族音楽にのせて宗教的な儀式のように厳かに舞い、『我々のファウスト』よりでは上野水香と柄本弾がしなやかに身体を操って内面的なデュエットを静謐に織り成し、『バクチⅢ』よりシヴァとシャクティーの踊りでは、カテリーナ・シャルキナとファブリス・ガララーグがインド舞踊を採り入れた独特の振りで異彩を放った。また、『ロッシーニアーナ』より2人の道化の踊りでは、ローレンス・リグとウィンテン・ギリアムズが軽妙洒脱な演技で楽しませた。東京バレエ団のダンサーは、『ライト』よりで男女5人ずつのダンサーがレジデンツの音楽にあわせて力強く踊り、『アレポ』よりでは、奈良春夏と木村和夫、伝田陽美とブラウリオ・アルバレスのペアが、身体のラインを際立たせて踊った。とても、すべての作品に触れられない。

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最後は『『1789…そして私たち』よりベートーヴェンの第9交響曲の第3楽章。レオタード姿の男女のペアが次々に登場して穏やかな雰囲気で踊るうち、他のダンサーも加わってシンフォニックなダンスに盛り上がっていく。さらに、パ・ド・ドゥを踊ったダンサーたちがその衣裳のまま登場してダンスに入り込んだ。終盤、ロマンが舞台中央に現われ、ダンサーたちに握手を求めると、ダンサーたちは右から左から次々とロマンの元に歩み寄った。それは、『バレエ・フォー・ライフ』の〈ショー・マスト・ゴー・オン〉でベジャールが見せたシーンとダブり、思わず胸が熱くなった。けれど、それで終わりではなかった。道化を踊った2人がバーを持ってきて中央に置き、静かにプリエをしたのである。そこに、BBLを続けるぞ、ベジャールの遺産を伝えていくぞという、ロマンからの強いメッセージがこめられているよう感じられた。
今回の公演では、1980年代の作品を中心に多彩な14作品が取り上げられたが、この公演だけでも、クラシック音楽からジャズや民族音楽まで多様な音楽を用い、クラシカルな技法や民族色濃厚な振付を自在に散りばめ、幅広いテーマで創作したベジャール芸術の豊穣さに触れることができた。公演のプログラミングをしたロマンの鑑識眼に感心した次第である。また、ロマンが若いダンサーにベジャールをきちんと伝えていることも分かった。当たり前だがロマンあってのBBL。これからも、ベジャールの遺産を守り、しっかりと継承して欲しいと思う。
(2017年11月22日 東京文化会館)

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tokyo1712b_6967.jpg 〈ベジャール・セレブレーション〉 photo Kiyonori Hasegawa(すべて)