オペラ&バレエの融合による『くるみ割り人形とイオランタ』ウィーンで評判を呼びこの夏日本へ。ウィーン・フォルクスオーパー芸術監督ロッテ・デ・ベア他が記者会見
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小野寺 悦子
東京二期会オペラ劇場が、この夏ウィーン・フォルクスオーパー&ウィーン国立バレエ団との共同制作作品『くるみ割り人形とイオランタ』の上演を行う。開幕を前に記者会見が開催され、演出のロッテ・デ・ベア、指揮のマキシム・パスカルと川瀬賢太郎、振付のアンドレイ・カイダノフスキーの4名が登壇。作品への想いを語った。
ウィーン・フォルクスオーパー芸術監督 ロッテ・デ・ベア(右)
ウィーン・フォルクスオーパー芸術監督ロッテ・デ・ベアの発案を皮切りに誕生した本作。チャイコフスキーのオペラ『イオランタ』とバレエ『くるみ割り人形』を一つにし、オペラとバレエの融合で描く話題作だ。2022年にウィーン・フォルクスオーパーでワールドプレミアを迎え、この夏、ついに日本上演を果たす。
「ずっとやりたいと夢見ていた作品でした。チャイコフスキーのオペラ『イオランタ』もバレエ『くるみ割り人形』も親近感のある作品で、特に『くるみ割り人形』はヨーロッパの人なら誰しも子供の頃に観たノスタルジーを感じる作品でもあります。実は両作品は同じ夜に初演されていて、この2つをつなげることは非常に有意義であると考えました。さまざまな年齢層、家族連れ、お年寄りから若い人まで、全ての世代に届くような作品になると思っています」と、ベア芸術監督。
物語の主人公は、盲目のプリンセス、イオランタ。父のルネ王はイオランタを守るために盲目であることを彼女に知らせず、イオランタは穏やかな日々を過ごしていた。ある日、眠りにつくイオランタを見かけたヴォデモン伯爵は、ひと目で恋に落ちる。ヴォデモン伯爵は光や色の美しさをイオランタに語り、彼女は「世界を見てみたい」と願うようになりーー。
本作はベア監督がウィーン・フォルクスオーパーの芸術監督になって初めて手がけた作品でもあり、そこに込めた想いをこう語る。
「チャコフスキーの『イオランタ』で描かれていないのが、目が見えない人が想像する、素晴らしいイマジネーションの世界。それをバレエ『くるみ割り人形』で描きたいと考えました。イオランタの子供時代の私的な描写を、『くるみ割り人形』のバレエで表現する。おとぎ話の要素だけではなく、心理的な描写も盛り込んでいます。『くるみ割り人形』は華やかで、花がたくさん咲いていて、お菓子が踊っていたりする。イオランタはそうした世界を想像し、夢見ていた。イオランタは父に守られ幸せだったけれど、大人になることを受け入れなければ、変わることができない。やがて思春期が訪れ、子供時代に別れを告げて、目が見えるようになる。この演出では最後に再び『くるみ割り人形』のワルツとアポテオーズの音楽を使っています。そこで現実を受け入れはするけれど、今のこの世界を受け入れるのではなく、世界をもっといいものにしようと描いています」
東京公演の指揮を務めるのはマキシム・パスカル。ヘルシンボリ交響楽団音楽監督で、東京二期会には4度目の登場となる。チャイコフスキー作品の音楽的魅力について言及する。
「チャイコフスキーが最初にバレエというものに着目し、ダンサーのために音楽を書き始めた。それは非常に大きな功績でした。チャイコスキーがいなければ、20世紀のストラヴィンスキーの『春の祭典』やドビュッシーのバレエ音楽は生まれなかっただろうと考えられます。我々はチャイコスキーに感謝しなければなりません。チャイコフスキーは1つの題材から作品をいくつか書き分けていたことがわかっています。『イオランタ』と『くるみ割り人形』は同時期に作曲していた曲でもあり、そういう意味で2つの曲には表裏が多く組み込まれていて、それもこの作品の魅力になっていると考えています」
ヘルシンボリ交響楽団音楽監督 マキシム・パスカル(左)
名古屋フィルハーモニー交響楽団音楽監督 川瀬賢太郎(左)
愛知公演・大分公演では、名古屋フィルハーモニー交響楽団音楽監督の川瀬賢太郎が指揮を担当。作品の魅力と意気込みを話す。
「どのジェネレーションにもわかりやすい物語で、バレエ・ファン、オペラ・ファン、いずれのファンの方が見ても楽しめる作品だと思います。コスチュームも素晴らしく、踊りも素晴らしい。そして何よりも歌手のみなさんがとても素晴らしい。オペラをよく知らない方、バレエにしか興味がないというお子さんにもぜひ見ていただきたい舞台になっています。私自身これまでオペラは何回か振ってきましたが、自分のオーケストラ、名古屋フィルとピットに入るのは今回が初めて。そうした部分も含めて、今回の愛知公演、そして大分公演を非常に楽しみにしているところです」
振付を手がけるのはアンドレイ・カイダノフスキー。元ウィーン国立バレエ団ダンサーで、振付家に転身後はブノワ賞など数々の賞にノミネートされ、今後が嘱望されている人物だ。バレエ『くるみ割り人形』といえば、マリウス・プティパ/レフ・イワノフ振付で知られるが、ここではまた違ったものになるという。
「ベア芸術監督からお話をいただいたとき、作品として非常に理にかなっていると感じました。子供時代に寝るときに聞くお話や、子供たちが想像する世界というものがある。それをバレエで表現します。チャイコフスキーの音楽はやはりダンサーのために感情から書かれているので、振付がしやすく、アイデアも生まれてきます。創作はとても充実したものになっています。
プティパの振付は全く考えずに作っています。あくまでも大枠に『イオランタ』のストーリーがあるので、『くるみ割り人形』の音楽も通常とは違う使い方をしています。チャイコスキーの音楽の感情を取り入れながら、それをイオランタの感情として使い、ダンスピースとして作っています。舞台には傾斜を設けていて、それもあってダンサーはポワントを履かずに踊ります。またポワントという様式の中で制限をしない作品を作りたかった、という背景もありました。ダンス言語でいうとコンテンポラリー・ダンスですが、19世紀の音楽でもあるので、ノスタルジーであること、クラシック音楽であるということは忘れず意識して作り上げています」
キャストには、イオランタ役の梶田真未、川越未晴、ルネ役の狩野賢一、北川辰彦、ヴォデモン伯爵役の伊藤達人、岸浪愛学をはじめ、東京二期会の実力派歌手たちが集結。バレエシーンには東京シティ・バレエ団と東京シティ・バレエ団付属バレエ学校のダンサーが出演し、東京公演は東京フィルハーモニー交響楽団、愛知公演・大分公演は名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏で贈る。
© Sinya Kako
ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団との共同制作
東京二期会オペラ劇場
『くるみ割り人形とイオランタ』〈新制作〉
日本語字幕付原語(ロシア語)上演
『イオランタ』
原作:ヘンリック・ヘルツ『ルネ王の娘』
台本:モデスト・チャイコフスキー
『くるみ割り人形』
原作:E.T.A.ホフマン『くるみ割り人形とねずみの王様』
作曲:ピョートル・チャイコフスキー
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<東京>2025年7月18日(金)・19日(土)・20日(日)・21日(月・祝) 東京文化会館 大ホール
<愛知>7月26日(土) 愛知県芸術劇場 大ホール
<大分>8月2日(土) iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ
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