ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.12.11]
今年はモーリス・ベジャール没後10年で、20世紀バレエ団が初来日してから50年を迎えた。それを記念してモーリス・ベジャール・バレエ団が来日し、東京バレエ団と合同公演を行うなどしたので、多くの貴重なベジャール作品を見ることができたことは幸せだった。
その中でも特に印象的だったのはモーツァルトのオペラをバレエにした『魔笛』だった。(詳細は佐々木三重子さんの記事を→「原作のメルヘン的美しさと哲学的な深遠を絶妙に融合させた傑作バレエ『魔笛』」) 
王子と王女の物語を描いた19世紀のバレエを、象徴主義的表現によって20世紀のバレエに再構築したかのような作品だった。夜の女王はカラボス、ザラストラはさしずめリラの精にあたる。王子タミーノは幾多の試練を経て、パミーナと結ばれる。パパゲーノとパパゲーナは道化の世界、ファルスだ。三人の童子、侍女、僧侶、奴隷、二人の武士にはそれぞれ象徴する世界があるのだろう。
動きも舞台を上下二段にわけ、立体的にして象徴性をたかめている。床には五角形を描き、陰陽五行思想のように宇宙を象徴的に表しているのだろうか。19世紀のバレエに対して、20世紀の表現に基づいたバレエを構築しているのである。
21世紀も間も無く5分の1を過ぎようとしているが、未だベジャールほどの先進的な舞踊家は生まれていないし、その兆しも感じられないようだ。

イーグリング版『くるみ割り人形』の小野絢子と福岡雄大の素晴らしい踊り、新国立劇場バレエ団

新国立劇場バレエ団
『くるみ割り人形』ウエイン・イーグリング:振付

新国立劇場バレエ団は、2017-18の新シーズンの幕開けにウエイン・イーグリング版『くるみ割り人形』の世界初演を行った。イーグリングは周知のように、ダンサーとしては英国ロイヤル・バレエのマクミラン版『ロミオとジュリエット』をアレッサンドラ・フェリと踊って世界的に知られるようになった。芸術監督としては東南アジアの各国で仕事をしたのち、オランダ・ナショナル・バレエやイングリッシュ・ナショナル・バレエでその職責を務めた。新国立劇場バレエ団では、2014年に新たに就任した大原永子芸術監督の求めに応じて、『眠れる森の美女』を新たに振付けている。新国立劇場バレエ団は、牧阿佐美前芸術監督が振付けたサンタクロースが登場する『くるみ割り人形』をレパートリーとしていたが、今回、イーグリング版を新製作し、美術の川口直次、衣装の前田文子、照明の沢田祐二の日本人スタッフが参加している。

tokyo1712a_0493.jpg 撮影/鹿摩隆司(すべて)

イーグリングの振付は、ドロッセルマイヤーの甥・くるみ割り人形・王子を一人三役で演じること、クララはシュタルバウム家のクリスマス・パーティでは子どもの踊り手が踊り、夢の中のクララ自身を主役のダンサーが踊るので、終盤のグラン・パ・ド・ドゥではこんぺい糖の精として王子と踊ること、などがその特徴である。ドロッセルマイヤーの甥とくるみ割り人形、あるいはくるみ割り人形と王子の2役、という設定は時折見るが、三役を踊るヴァージョンは観たことがない。多くの場合、ドロッセルマイヤーの甥はクララの幼い仄かな恋心を表す場合に登場する、そうするとこうした設定もありうるわけだ。
イーグリング版では観客にも甥とくるみ割り人形と王子が一人三役であることがわかるので、甥の存在はあまりミステリアスには感じられないが、ねずみとの関わりの中でくるみ割り人形から、時に甥に戻ったりするのには便利な設定だと思う。その他にもドロッセルマイヤーの役回りやねずみの王様の活躍の場をひろげて、いろいろと楽しい観客サービスに務めている。
しかしデヴェルティスマンは、スペイン、アラビア、中国、ロシアの踊りに続いて、葦笛の踊りは蝶々だった。良く調べていないので、どこにその由来があるのか知らないが、振付家はこのイメージが適切だと感じたのかもしれない。また、第2幕もお菓子の国、となっているがそれほどおいしそうな雰囲気が強調されてはいなかった。
全体の印象で言えば、ストーリー展開はスムーズであり、花のワルツなどの踊りもしっかりと作られていた。ただ、チャイコフスキーの子どもの世界を描いた素晴らしいメロディを活かした演出、子どもの心が活き活きと羽ばたき音楽の美しさが一際輝く舞台、とまでは見えなかった。

tokyo1712a_0337.jpg tokyo1712a_0544.jpg

しかしもちろん、ダンサーたちは輝いていた。夢の中のクララ・こんぺい糖の精を演じた小野絢子は余裕のある自在な踊りで、身体が自然ときれいに動いてしまうかのようだった。踊りの豪華さや華やかさも充分に楽しめた。ドロッセルマイヤーの甥・くるみ割り人形、王子の3役を踊った福岡雄大も演技・動きともにワンステージアップしたかのようだった。動きに余裕と同時に風格すら感じさせた。アラビアの踊りを踊った木村優里は、見事な身体を充分に活かした踊りで、観客は彼女が幕内に消えてしまうのを惜しんでいた。スペイン、中国、ロシアのい踊りも良かった。
改めて『くるみ割り人形』の音楽の美しさゆえに、それを活かして輝かす振付・演出の難しさを思い知らされた気がした。
(2017年11月3日 新国立劇場 オペラパレス)

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tokyo1712a_0777.jpg こんぺい糖の精/小野絢子、王子/福岡雄大
撮影/鹿摩隆司(すべて)