『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』ボリショイ・バレエにアメリカ人女性として初入団したジョイ・ウーマックは語る「私のバレエ愛を世界中の皆さんと共有したい」
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香月 圭 text by Kei Kazuki
2012年にアメリカ人女性で初めてボリショイ・バレエ団とソリスト契約を結んだジョイ・ウーマックの実話がベースとなった『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』が4月25日より公開される。アメリカから意気揚々とボリショイ・バレエ・アカデミーに留学した15歳の少女ジョイは、厳格な教師ヴォルコワのクラスに入学。過酷なレッスン、クラスメート同士の蹴落とし合い、寝食を忘れての猛練習、故郷の家族からの電話にも出ることなく、バレエ一色の日々に埋没するうち、ジョイの精神は徐々にバランスを失っていく......。
主演は『17歳の瞳に映る世界』『ウエスト・サイド・ストーリー』など話題作への出演が続くハリウッドの超新星タリア・ライダー。教師ヴォルコワ役には『女は二度決断する』や『イングロリアス・バスターズ』など多彩な作品に出演し、自身も英国ロイヤル・バレエスクールで学びダンサーを目指していたダイアン・クルーガーが扮し、『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』でルドルフ・ヌレエフを演じた現役ダンサーのオレグ・イヴェンコがジョイのパートナー、ニコライを演じている。世界中で高い人気を誇るナタリア・オシポワが本人役で登場し、『瀕死の白鳥』を披露している姿も見どころのひとつ。
ジョイ(タリア・ライダー)
ジョイ・ウーマックは15歳でボリショイ・アカデミーに留学し、2012年に5+という最優秀の成績で卒業し、アメリカ人女性として初めてボリショイ・バレエ団に入団した。その後クレムリン・バレエ団に移籍して2018年までプリンシパルを務めた。2016年にはヴァルナ国際バレエコンクールで銀賞に輝く。このコンクールの様子は映画のシーンにも登場する。その後、韓国のユニバーサル・バレエ団、アメリカのボストン・バレエ団でも活躍し、現在はパリ・オペラ座で契約団員としても舞台に立ちながら、若いダンサーを支援するためにProject Primaを始動、後進の育成に励む。2025年2月開催のローザンヌ国際バレエコンクールでは審査員を務めた。今年3月には『Behind the Red Velvet Curtain: An American Ballerina in Russia』と題した回顧録を上梓したばかりだ。
『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』でウーマックは脚本開発からダンスシーンの振付・演出まで幅広く携わっている。公開を前に、本人がオンライン取材に応じてくれた。「チャコットのことは知っています」と、さりげない挨拶のなかにも気配りが光る賢い人だった。
――ジョイ役のタリア・ライダー、教師ヴォルコワのダイアン・クルーガー、ニコライ役のオレグ・イヴェンコなどキャスティングも見事だったと思います。ジョイさんはキャスティングや配役オーディションに参加しましたか。
ジョイ・ウーマック
ウーマック 最初のキャスティングには少し関わったのですが、制作が実際に動き出すまで何年もかかったため、ヒロイン役についても仕切り直しとなってしまいました。結局、別の女優さんがキャスティングされたので、最初はタリアについて、私はよく知りませんでした。オレグとはロシアで何度も一緒に踊ったことがあったので、ニコライ役が彼に決まったときはとても嬉しかったですね。
――主演のタリア・ライダーさんは上半身や顔のアップが多く、バレエに取り憑かれた狂気がうまく表現されていたと思います。彼女はモダンダンスの経験があり、NYCBのプリンシパル、ダニエル・ウルブリヒトのもとで1年間トレーニングを受け、ロシアのクラシックなスタイルの踊り方については、あなたが振付を指導したそうですね。出来上がった映画を見てどう思いましたか。
ウーマック タリアとは、今回、自分自身でも素敵なコラボレーションができたなと思っています。彼女はとてもオープンな気持ちで臨んでくれました。アメリカのスタイルでずっと踊ってきて、急にロシアのワガノワ式に変えるというのは大変なことで、彼女にとっては大きな挑戦でしたが、私が学んだロシアのスタイルに近づけるために大変な努力をしてくれて、とても誇らしい気持ちです。
彼女の上半身のクローズアップについては、撮影監督と「彼女自身が一番よく見えるアングルはどんな角度だろう」という話をよくしていました。また踊るシーンに関しては、タリア自身が満足できるようなパフォーマンスであってほしいし、それを見る観客にとっても説得力のあるものであってほしいと願っていました。
彼女の演技は、感情表現の面でも素晴らしかったと思います。特にロシアのクラシック・バレエのスタイルで大事なのは、やはり魂で踊ること、そして個性を見せることです。ラストシーンの『ドン・キホーテ』では成熟した踊りとなって、それらが表現されているのではないかと思います。
私の身の上を彼女が演じている状況というのは、考えてみればすごくシュールなことなので「私はタリアというダンサーの教師・コーチなのだ」という思いで向き合っていました。最後は、彼女らしい個性というものが見事に出ていたと思います。
左、教師ヴォルコワ(ダイアン・クルーガー)の指導を受けるジョイ(タリア・ライダー)とボリショイ・バレエ・アカデミーの生徒たち
――教師ヴォルコワというキャラクターは、あなたがクレムリン・バレエ在籍時のコーチとペルミ在住の別の女性教師の二人をモデルにしているそうですね。厳しい指導をする一方で、心の底には生徒に対して愛情ももっています。ヴォルコワを演じたダイアン・クルーガーはロイヤル・バレエスクールに在籍していたことがあり、バレエの厳しい現実を知っている俳優です。彼女が演じた教師の役にもリアリティが感じられましたが、彼女に何かアドバイスをしましたか。
ウーマック ダイアンと一緒にお仕事をさせていただきましたが、素敵な方です。彼女自身も現場で学んでいるのを間近で見て、私も謙虚でいることの大切さなど多くのことを彼女から学びました。自身のバレエの経験を、演技にそのまま応用されている、と感じました。プロの演者なので集中力があり、絶対に時間を守ります。彼女は本当に元バレリーナのように見えましたし、バレエ教師としてのリアリティもご本人からにじみ出るものがありましたが、更なる真実味を追求すべく、彼女は私自身の実際の経験についていろいろ聞いてきました。ヴォルコワ先生が生徒たちを指導するシーンでは、どんなふうに先生から動きを直されたか、それから、どんな歩き方をしていたかと私にたずねたりしていました。私のコーチだったクレムリン・バレエのジャンナ・ウラジミロヴナ・ボゴロツカヤ先生や他の先生方の写真をお見せしたこともあります。彼女は私が経験したロシア・バレエ界の人々の様子を、演技の専門知識をもって吸収し、実際の演技でリアルに反映させたのです。
ジョイ(タリア・ライダー)とニコライ(オレグ・イヴェンコ)
――あなたは、母国アメリカで幼少時にバレエを始めたとき、ニューヨーク・シティ・バレエ、アメリカン・バレエ・シアターなど、アメリカの最高峰のバレエ団を目指していたのではないかと思います。その後、才能を認められて、ワシントンD.Cのキーロフ・アカデミー・オブ・バレエでロシア式の訓練を受けてボリショイ・バレエ・アカデミーに留学されました。そしてボリショイ・バレエ、クレムリン・バレエなどを経て、パリ・オペラ座バレエでも契約団員として在籍されたことがあるそうですが、アメリカ、ロシアとフランスのバレエはどのように違うと思いますか。現在は、フランスを拠点に活動されていらっしゃいますね。
ウーマック 自分のキャリアにおいて、これまで巡り合えた先生方に心から感謝しています。様々な学校で学ぶことができて、自分は恵まれていると思います。アメリカではテクニック重視ですが、自由度が高く、攻めの姿勢や舞台度胸が評価されます。ロシアでは、やはり手足や頭、上半身の動きを全体でどのように適切に動かすのか、アカデミックなコーディネーションが求められ、音楽性や自分の経験から生まれる表現や個性が大事です。一方、フランス・スタイルは洗練されており、ロシア同様に音楽性も重要で、全体としてよく揃っていて、バレエ発祥の地ならではの伝統が感じられます。
アメリカとロシアで私は基礎を積み、フランスでダンサーとして今、成熟しつつあると感じています。こちらでは、パリ・オペラ座のソリストだったジャン=マリ・ディディエール先生と、エトワールとしてご活躍されたジャン=ギヨーム・バール先生にお世話になっているのですが、お二人はフランスのクラシック・バレエの純粋なスタイルを守ろうとしていらっしゃいます。フランスのバレエについて、かつてはロシア・スタイルのベースのようなものと捉えていましたが、今では対立する別のスタイルではなく、自分自身の個性として、美しいラインとクラシック・バレエの表現を追求することが推奨されていると感じます。
現在、パリを拠点としていますが、とても居心地がよく、こちらのコミュニティには感謝しています。3年前、パリへの転居を余儀なくされたときは大変でしたが、ここを拠点に世界中どこにでも旅に出られるところも気に入っています。今後は私のバレエ愛を世界中の皆さんと共有したいと思います。私自身、学ぶことも継続していきたいですし、皆様にいろいろなことをお伝えしていきたいです。今は世界中どこにいてもバレエを踊ることができる仕組みを作っていきたいと思っています。どこへでも出かけて、現地のバレエ学校でもう一人のダンサーをお迎えしてのレッスンを、世界中の皆様と共有することができて、とても嬉しいです。
パトロンに会うため、身支度するジョイ(タリア・ライダー)
――あなたは若いバレエダンサーを支援する活動をされています。今年はローザンヌ国際バレエコンクール2025の審査員を務めましたが、どんなことを感じましたか。
ウーマック コンクールにはたくさん出場してきましたが、それはプロになってからのことです。一方、ローザンヌ国際バレエコンクールは15~18歳のプロになる前のダンサーたちにフォーカスしています。このコンクールの価値はお金ではなく、むしろバレエ団や学校に身を置く経験ができるというところにあります。ダンサーの教育を促進し、彼らが可能な限り準備を整え、ダンサーたちが仕事を得たり認知されたりするのを助けるきっかけとなることが目的です。現在、必要とされているコンクールだと思います。特にコロナ禍以降、世界中のバレエカンパニーで以前よりもプロ契約の機会が減っているのを私たちは目撃しているからです。しかし、私立のバレエスクールで学ぶ生徒が増え、才能あるダンサーの人数は増加し、美しく踊れるように訓練されたダンサーが増えており、プロになるチャンスをめぐって非常に競争が激しくなっています。ローザンヌのようなコンクールは、経済的に厳しい状態にあるダンサーにとって本当に素晴らしいものであり、今回、審査員としてローザンヌ国際バレエコンクールに参加することができ、彼らが何をしているのかを知る素晴らしい機会に恵まれました。ディレクターのキャシー(キャサリン・ブラッドニー)とダミアン(・ヴァルガス)にも、このコンクールへ長期的にご協力したいと以前からお伝えしていました。このコンクールの使命に共感し、若いダンサーたちがプロとして最大限の能力を発揮できるようにするために、このようなコンクールをもっと開催する必要があると考えています。
ジョイ(タリア・ライダー)
『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』
4月25日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開
配給:ショウゲート
タリア・ライダー ダイアン・クルーガー オレグ・イヴェンコ ナタリア・オシポア
監督・脚本:ジェームス・ネイピア・ロバートソン
2023/イギリス・ニュージーランド/111分/原題:JOIKA
© Joika NZ Limited / Madants Sp. z o.o. 2023 ALL RIGHTS RESERVED.
公式HP:joika-movie.jp
公式X:@showgate_youga
公式IG:@joikamovie
チャコット代官山店では、映画『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』公開を記念して、パネル展とプレゼントキャンペーンを開催。
◆4月27日(日)までパネル展が1Fスタジオカウンター横階段~2Fにて開催中!
https://daikanyama.chacott-jp.com/information/detail/?id=b_veob58lb
◆<4/11(金)~27(日)>180名さまに映画のペアチケットやポスター、ポストカードが当たるプレゼントキャンペーン
https://daikanyama.chacott-jp.com/information/detail/?id=b_veob58lb
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