ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.11.10]

アナニアシヴィリがすがる乙女を踊って、時空を超えて今日に華やかに蘇った『飛鳥 ASUKA』

牧阿佐美バレヱ団
『飛鳥 ASUKA』牧阿佐美:改訂選出・振付(『飛鳥物語』1957年初演 台本・原振付:橘秋子)

富山市オーバード・ホールの『飛鳥 ASUKA』再演を観た。近年の地方のホールは素晴らしく、施設の整ったものもが多いが、オーバード・ホールも堂々たるもの。内装はチャコールの濃淡を配し、モダンな和風のトーンを幾何学的に直線でデザインした落ち着いた雰囲気。なかなか格調も高くたいへん鑑賞しやすい会場だった。

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アナニアシヴィリ、スクヴォルツォフ
撮影/瀬戸秀美(すべて)

『飛鳥 ASUKA』再演では、ニーナ・アナニアシヴィリがヒロインのすがる乙女を踊った。周知のようにボリショイ・バレエのトップスターとして君臨し、現在は祖国ジョージアの国立バレエ団の芸術監督を託されている。少し年齢を重ねていることもあって、トウシューズを履いて全幕を踊ることについては、若干の危惧がないわけではなかった。しかし、ヒロインが登場すると、それはたちまち杞憂に過ぎなかったことが明らかになった。世界の舞台で活躍してきたヒロインとしての力強い表現力により舞台に華やぎと立体感が生まれた。
そしてこのバレエは、ソリストとコール・ド・バレエの踊りによって、クラシック・バレエとしてしっかりと舞踊構成が成されており、ストーリーのための説明の踊りなどはない。また、音楽が基本的に委嘱されて作曲されているため、踊りの表現と無理なく一体化しているし、ダンサーも踊り易そうだった。つまり、クラシック・バレエとしての基本的要件を満たしているのである。
そして絹谷幸二プラスZERO-TENによるプロジェクション・マッピングもまた、威力を発揮した。第1幕では、現実の宮殿とおぼしき建物の静止画を大きく写し、雲や鳥を飛ばし、霞みや風を流し入れ、光りを変化させて、極めて現実的な空間を舞台に現出させた。ダンスはここでは、古代の舞いとバレエが入り交じって踊られて、当時のインターナショナルな現実を模した。第2幕ではすべてバレエに統一されて表現されたが、空間は竜神の怒りを、超現実的現象に様々なオブジェをコラージュして表し、なかなか迫力があった。三次元空間をリアルに出現させたことが、観客から時間を解放し、「パスポートのいらない」インターナショナルな飛鳥時代が、まるで昨日幻想したことのように感じられたのである。

tokyo1711d_0443.jpg ニーナ・アナニアシヴィリ、菊地研

幼馴染のすがる乙女を切に愛する岩足は、初演に続いてボリショイ・バレエのプリンシパル、ルスラン・スクヴォルツォフが踊った。スクヴォルツォフは初演では、外国の日本を題材とした創作バレエを踊ることに、少し不安が現れていたところもあったが、今回はすっかり馴染んで、ニーナがパートナーだったこともあったかもしれないが、のびのびと踊った。ニーナのすがる乙女のソロヴァリエーション、そして彼女の幻想のなかのパ・ド・ドゥはしんみりと情感が溢れていてとても良かった。黒竜の佐藤かんなも堂々と踊り、悪としての存在感が出た。竜神の菊地研、竜剣の踊りの青山季可、銀竜の日髙有梨と清瀧千晴もそれぞれの表現が鮮やかだった。
カーテンコールではニーナが、こうした場面ではどうしても少し退いてしまう日本人ダンサーたちの中にあって、全身で動き大いに盛り上げた。ただ、惜しむらくは全体に踊りのシーケンスが少し短く、今日のバレエの傾向とはちょっと違った印象をあたえてしまう。また、演出もシンプルでオーソドックスなのは良いのだが、もう少し例えば迫りを使うなどの仕掛けを組んだほうが、絢爛たる美術に似合うのではないかとも思った。とは言え、橘秋子が作った日本を題材とした全幕バレエは、きちんとクラシック・バレエの構造によって創られていた。牧阿佐美の改訂によりしっかりと蘇り、その全貌が明らかになったのは、実に喜ばしいことである。さらに『角兵衛獅子』(1963年初演)『戦国時代』(1966年初演、92年に『北斗〜ジパング・日の御子』)の改訂再演していただきたい、と願う。日本に日本の題材によるクラシックの全幕バレエが実在したことを、正しく後世に残していかなければならないのである。
(2017年10月28日 富山市 オーバード・ホール)

tokyo1711d_0046.jpg 清瀧千晴 撮影/瀬戸秀美 tokyo1711d_0066.jpg 青山季可
tokyo1711d_0074.jpg 青山季可、ニーナ・アナニアシヴィリ、塩澤奈々 tokyo1711d_0080.jpg 高橋万由梨、日髙有梨、中川郁
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tokyo1711d_0356.jpg 日髙有梨、清瀧千晴 tokyo1711d_0557.jpg 佐藤かんな、ニーナ・アナニアシヴィリ
tokyo1711d_0468.jpg 『飛鳥 ASUKA』 撮影/瀬戸秀美(すべて)