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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.09.11]

スコットランドを舞台としたビントレーの秀作、『Flowers of the Forest』が日本初演された

スターダンサーズ・バレエ団「サマーミックスプログラム」
『N.N.N.N.』ウィリアム・フォーサイス:振付、『ワルプルギスの夜』ジョージ・バランシン:振付、『眠れる森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥ マリウス・プティパ:振付、『Flowers of the Forest』デヴィッド・ビントレー:振付

スターダンサーズ・バレエ団がサマーミックスプログラムを組んで上演した。プログラムは、現役の振付家ビントレーとフォーサイス、20世紀の巨匠バランシン、古典バレエの名作、となかなかヴァラエティに富んだ作品で構成された。
注目すべきは日本初演となる『Flowers of the Forest』。2014年まで新国立劇場の芸術監督を務めたデヴィッド・ビントレーの振付だが、マルコム・アーノルド作曲「Four Scottish Dancers」を使った最初期作品に、ベンジャミン・ブリテンの死後に発見された「Scottish Ballad」に振付たパートを加えて、『Flowers of the Forest』という一つの作品にしたもの。1985年にサドラーズウエルズ・ロイヤル・バレエ(現バーミンガム・ロイヤル・バレエ)で初演された。

tokyo1709c_2Y8A6990.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

前半は叙情的なスコットランドを描いたスケッチブックを見ているよう。背景は通して暗い北海のうねりと曇った空。『嵐が丘』はハワースで『ライアンの娘』はアイルランドが舞台だからもっと南に当たる。映画でいえばアカデミー賞受賞作『ブレイヴ・ハート』の背景がスコットランドである。スコットランドの民族舞踊の動きを採り入れたダンスは、軽快でピュアな素朴な印象を与える。ビントレーが21歳の若さで振付けたとは思えない、きちんと整えられた振付である。公演パフレットに掲載された彼の文章によると、それは『眠れる森の美女』の全幕が初演された1年後のことだという。当時のイギリスのバレエ界の様子がおぼろげに感じられる。
後半のパートは、スコットランドがイギリスに大敗した戦争を背景に、祖国のために死んだ兵士たちを野に咲く花々に暗喩して描く。男性群舞が力強くしかし悲哀を込めて、上手から下手に陸続と進んで行く。一方通行の動きは戦場に馳せ参じる兵士の想いを彷彿させ、そこに不屈の決心が籠っていることをくっきりと浮かび上がらせる。吉田都とフェデリコ・ボネッリが中心となってリードして、力のこもった見事なアンサンブルを作った。
2つの作品が合体することでスコットランドのすべてを表し、それが世界全体を象徴するものであることを示そうと試みている。民族舞踊には文化的背景が色濃く投影され、戦い葬送する姿には民族の揺るぎないアイデンティティが表された。

tokyo1709c_2Y8A7068.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

オニール 八菜がユーゴ・マルシャンと踊った『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥ。オニールはしっかりと形は整っていて見事だったが、もう少し柔らかい身体のラインが欲しい気がしないでもない。しかしもちろん、マルシャンとの息も合っていて、一体として動いていたし、落ち着いてパリ・オペラ座バレエらしい表現を作っていた。
『ワルプルギスの夜』は、音楽の構成に合わせたクラシカルなダンスで、アンサンブルも美しかった。バランシン・バレエを踊り続けてきたカンパニーらしい舞台だった。
(2017年8月5日 新国立劇場オペラパレス)