The Ballet Showがチャイコフスキー三大バレエ『くるみ割り人形』に挑戦。オリジナルストーリーと親しみやすい演出でバレエの門戸を広く開く
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ワールドレポート/東京
小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
The Ballet Show
『くるみ割り人形 The Ballet Show』山本開斗、ネレア・バロンド、ハンク:演出・振付
The Ballet Showの新作公演『くるみ割り人形 The Ballet Show』が、この冬大阪と東京で開催された。
芸術監督を務めるのは、プロバレエYouTuberでダンサーのヤマカイこと山本開斗と、パートナーのネレア・バロンド。アメリカ在住時の2018年にYouTubeチャンネル「ヤマカイTV」を開設し、2020年には登録者数70万人超に。日本に拠点を移すと共に、2024年1月にバレエプロジェクト「The Ballet Show」を立ち上げ、『アラジン The Ballet Show』『美女と野獣 The Ballet Show』『白雪姫 The Ballet Show』と3作品を東京・大阪ほかで計30公演以上展開してきた。
彼らが次に挑んだのが、『くるみ割り人形』の全幕上演だ。The Ballet Showの野望は、「バレエを広める」こと。日本ではまだまだ敷居が高いバレエ公演を、「当たり前に楽しんで観る文化が根付いている日本を目指す」と意気込む。今やSNS総フォロワー数約100万⼈を誇るなどその勢いは目覚ましく、着実にバレエの裾野を開拓。今回の公演に向けクラウドファンディングを行い、約1,000名から集まった支援は総額850万円にのぼるという。
初心者のファンもバレエに親しめるよう、公演前にはトークイベントを実施し、公演当日は会場にスタンプラリーや撮影スポットを設置。開幕前から劇場は熱気に包まれ、ファンの期待値の高さが伝わってくる。

ヤマカイ(写真は全て大阪公演より)

中野伶美
幕開け、ドロッセルマイヤーに扮するヤマカイがステージに登場。背景にはプロジェクションマッピングが煌めき、何とも賑々しく華やかだ。プロローグではオリジナル曲を使用し、ヤマカイのダンスもオリジナル。ドロッセルマイヤーは無償の愛を広め、そのマインドを次世代に伝えるという重要な役どころを担う。ヤマカイはトリックスターの趣きで、軽快な語りをもって観客を物語世界へ誘っていく。
古典で知られるチャイコフスキー三大バレエの『くるみ割り人形』とはまた違い、ストーリーは独⾃の解釈を加えたオリジナル。古典のストーリーをいちど分解し、物語の流れや登場人物の心理をわかりやすく整理し、再構成するというアプローチに取り組んでいる。
ダンサー活動を一時休止しているネレアに代わり、本公演で主演のクララを務めたのは中野伶美。ネレアはこれまで全公演で主演してきたが、今回は芸術監督として振付など舞台制作を手がけている。
中野はジュニア時代から数々のコンクールで一位に輝き、ルーマニア・シビウ劇場バレエ団など海外でプロダンサーとして踊ってきた実力派。『美女と野獣 The Ballet Show』ではW主演としてネレアとベルを踊るなど、The Ballet Showのメンバーとしても活躍をみせる。クララを踊る中野は純真で、くるくると変わる表情が愛らしく、まさに少女そのもの。繊細なポワント使いと軽やかなパを重ね、クララの好奇心を全身で体現していく。1幕では、従来のフリッツとの喧嘩はなく、クララはくるみ割り人形を自分の不注意で壊してしまう。くるみ割り人形は巨大着ぐるみで、『エンタメバレエ』を標榜するThe Ballet Showならではのユーモアがちりばめられる。

ハンク
王子は台湾出身のダンサーで振付家のハンク。長身を生かしたダイナミックな踊りが特徴で、金平糖の精を踊る田中伶奈を頼もしくサポートし、堂に入った佇まいで存在感を発揮する。そのほか、キャストにはオーディションで選ばれたメンバーが参加。クラシック・バレエに限らず踊りのジャンルはさまざまで、時には新体操の演技が繰り広げられるなど自由度は高い。
ねずみの闘いでは編曲が加わり、2幕の「お菓子の国」は「夢の国」にアレンジ。フランス、スペイン、中国の人形ら、お馴染みのシーンにオリジナルの振付を加味している。またマザージンジャーにはヤマカイの実兄であるヤマダイこと山本大輔が出演するなど、YouTubeファンにはうれしい一幕も。
ラスト、クララは冒険を経て、愛を受けとる側から与える側へと成長を遂げる。舞台はどこまでもハートフルで、独自の美学で満たされる。
終演後はダンサーのトークやサプライズ企画も用意。どこまでもバレエを身近に楽しませんとする趣向で、プロデューサーとしてのヤマカイの手腕が光る。ファンの反響も大きく、来場者アンケートは満足度90パーセントを越えと聞く。先細りが懸念され続けてきた日本バレエ界における、一つの新しいバレエの可能性の形を感じさせた。
(2026年2月21日 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール)






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