「自分のお気に入りのプリンセスとプリンスを見つけてください!」"B.P.P. / Be Princess & Prince ! " を振付けた伊藤範子にインタビュー
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インタビュー=関口紘一、香月圭
3月15日、神奈川県立相模湖交流センターラックスマンホールにて、神奈川県主催の〈B.P.P. / Be Princess & Prince ! お姫さま&王子さまになる! ~バレエの世界のお姫さま&王子さまたち~〉と題したバレエ公演が開催される。バレエの練習に励む少年と少女の案内によって、6つのバレエ作品に登場するプリンセスとプリンスのハイライト・シーンが繰り広げられる。『眠れる森の美女』では沖香菜子(東京バレエ団プリンシパル)と秋元康臣(元東京バレエ団プリンシパル)がペアを組む。『シンデレラ』に出演するのは、スターダンサーズ・バレエ団の塩谷綾菜と林田翔平のコンビ。『白雪姫』を踊るのは谷桃子バレエ団の山口緋奈子。『白鳥の湖』ではオデット姫を阿部碧(井上バレエ団)、ジークフリート王子を浅井敬行(志村バレエ)が演じる。『美女と野獣』のベルは斎藤ジュン(東京シティ・バレエ団)が務め、野獣(王子)役には再び浅井敬行が登場。『アラジン』では、酒井友美と山本達史の二人が踊る。バレエに詳しくなくても、自分のお気に入りのお姫さまと王子さまが見つかるのではないだろうか。谷桃子バレエ団で振付家としても活躍し、附属アカデミーでは芸術監督を務める伊藤範子に、監修・振付を担当した本公演について話を伺った。
――〈B.P.P. / Be Princess & Prince ! お姫さま&王子さまになる! ~バレエの世界のお姫さま&王子さまたち~〉はおもしろい企画ですね。

伊藤:神奈川県主催で、バレエを観るのが初めてというお子さまにも楽しんで観ていただけるような公演を目指しております。全幕物では、1つの作品のバレエの世界に深く没入することになりますが、飽きてしまうお子さまもいらっしゃると思います。その代わり、様々なバレエ作品に登場するお姫さまと王子さまによるハイライト・シーンをご覧いただいて「こんなお姫さまがいるんだ! こんな素敵な王子さまがいるんだ!」という体験をしていただければと思っております。
――どんな作品が見られますか。
伊藤:有名な作品では『眠れる森の美女』のオーロラ姫や『白鳥の湖』のオデット姫、そしてシンデレラが登場します。映画などでもおなじみの『アラジン』ではプリンセスが登場し、『美女と野獣』では王子さまが魔女によって野獣に変えられた姿となっています。それらのおとぎ話の重要な場面を切り取り、ひとつの作品として再構成してお見せしたいと思いました。
――なるほど。チケットも一般は1000円、子どもは500円ですから、お求めやすいですね。バレエを観たいと思っても、お値段が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれないですから、そういう意味では、入口としてすごく入りやすいですね。
伊藤:今回の公演では、古典バレエの王道である『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥが見せ場となり、バレエファンのご期待に沿う内容にもなっております。最後に全員でのフィナーレとなります。(沖)香菜子ちゃんと秋元(康臣)くんによる『眠れる森の美女』の華やかなグラン・パ・ド・ドゥをこの公演でご覧になったお客さまに「今度は全幕で観たい!」と思っていただけたら最高です。それから、男の子と女の子の子役も出演します。多数のご来場が見込まれるお子さまたちが、自分に近い年齢の舞台の子どもたちと一緒にいろんなお姫さまと王子さまをご覧いただくことで、作品世界に没入できるのではないかと思います。
――出演されるダンサーの方々をどのように選ばれましたか。
伊藤:かつて一緒にお仕事をした方々にお声がけをさせていただき、今回も出演を快諾していただきました。『アラジン』のお姫さまに関しては、オーディションから酒井友美さんを選びました。彼女は2024年10月のダンスユニット・シャリマーによる『オズの魔法使い』でヒロイン、ドロシーのキュートな愛犬トトを演じました。酒井さんのパートナー、アラジン役を務めるのは、この作品でかかし役を演じた山本達史さんです。
――それぞれの作品の振付はどのようになされましたか。
伊藤:『白雪姫』は、2016年の「バレエ・プリンセス ~バレエの世界のお姫様たち~」で初めて手がけました。その折には、魔女も登場しましたが、今回は7人の小人と白雪姫のみのシーンだけに絞っています。谷桃子バレエ団の山口緋奈子さんを白雪姫に抜擢いたしました。
――『白鳥の湖』で披露されるのは第二幕のアダージオのシーンですか。
伊藤:ええ。オデットや4羽の白鳥のヴァリエーションなどはカットして、オデット姫とジークフリート王子によるグラン・アダージオのみになります。プティパの原振付をもとにしております。主演の2人を彩るのは、8人のコール・ドです。
――オデット姫を演じるのは阿部碧さん、ジークフリート王子は浅井敬行さんですね。
伊藤:碧さんの気品ある踊りに期待しております。浅井くんには、近年、目覚ましい活躍を見せる斎藤ジュンさんと『美女と野獣』も踊っていただくことになりました。昨年9月の藤原歌劇団公演『ラ・トラヴィアータ ~椿姫~』で振付を担当させていただいたのですが、第2幕第2場〈フローラの夜会〉での、ジンガレーレ(ジプシーの娘たち)の合唱と闘牛士たち(マタドール)の合唱のシーンで、浅井くんに踊っていただきました。また、2023年10月の新国立劇場オペラの『子どもと魔法』で振付けた時にも、彼は雄猫役として出てくれました。振り覚えも早く、リフトもうまい彼に、2作品の出演をお願いしたところ「ぜひ、やらせてください」とOKしてくれました。アメリカやポーランドのバレエ団でも踊っていらした方です。
――この公演では、ひとつひとつのバレエ作品の山場が次々と登場しますが、見せ方をどのように工夫していますか。
伊藤:ひとつのパ・ド・ドゥが終わったら、そのお姫さまと王子さまについて子役の二人がそれぞれの感想を交換して「次の作品のお姫さまと王子さまを見てみよう」という流れになって二人がナビゲーター的に進行していく予定です。作品を踊っていただくダンサーの方々には、それぞれのパ・ド・ドゥに集中して作品の良さを最大限に見せていただきたいと思っております。
――第1部はレクチャーですね。
伊藤:はい。まず、バレエを詳しく知らないお客様に、バーレッスンの様子を見ていただいたうえで「私」「あなた」をはじめとしたマイムについて説明する時間を少しいただきます。子役の二人もバーレッスンに登場します。その後、女の子は『眠れる森の美女』のフロリナ王女のヴァリエーションを踊り、男の子は『くるみ割り人形』の王子のヴァリエーションを披露します。二人ともきちんと踊れますが、ヴァリエーションは元々、大人のソリスト以上のために振付けられたものなので、振付や役柄について子どもたちが完璧に把握するのは当然難しいわけです。そこで、お姫さまや王子さまがよく登場するバレエ作品とはどんな感じなのか、もっと知りたくなった二人は、第2部でナビゲーターとなって様々なバレエ作品を紹介していく、という流れになっています。いろいろなお姫さまと王子さまが登場するので「私はこんなお姫さまを踊ってみたい」「僕はあんな王子さまを演じてみたい」と感じていただけるお客様がいらっしゃったら、嬉しいですね。
――そうしたストーリー仕立ての導入部があるので、単なるパ・ド・ドゥ集にとどまらず、全体として一つの構成になっているのですね。
伊藤:『シンデレラ』は「バレエ・プリンセス」の時に振付けたグラン・パ・ド・ドゥを再演するのですが、『美女と野獣』と『アラジン』は今回初めてのお披露目になります。私自身大好きな曲に振付けできて、とても幸せでした。
――リハーサルはいかがですか。
伊藤:出演者の皆様は忙しい方ばかりなので、全員のスケジュールを合わせるのが大変です。子役たちも昼間は学校があるので、リハーサルができるのは土日や平日夜になります。アンサンブル・メンバーには高校生もいるので、8名全員揃ってできる機会が限られます。バレエ団公演でないプロダクションの時には、皆が苦労する点であり、永遠の課題ではありますが、お客様に楽しんでいただきたいという思いや、作品を良くしたいという気持ちを持っていらっしゃる方たちばかりで、リハーサルでは皆一生懸命やってくださいます。ダンサーの皆さまと共に、私も頑張りたいと思います。
――2016年に開催された「バレエ・プリンセス」の公演から10年後の今回は「バレエの世界のお姫さま&王子さまたち」というタイトルになりました。
伊藤: バレエを踊る男性の人口は、10年前と比べると増えていると思います。海外で活躍なさっている男性ダンサーも然りです。10年の時を経て世の中が変わり、ジェンダーの多様化を認めることが当たり前になりつつあります。お姫さまだけに特化するのではなく、男の子が王子さまに憧れる気持ちもごく自然なことです。「バレエ・プリンセス」の時代から、人々の意識がアップデートされたといってもいいかもしれないですね。
――今回選ばれたプリンセスも「バレエ・プリンセス」の白雪姫や『白鳥の湖』のオデット姫、『眠れる森の美女』のオーロラ姫、シンデレラといった古典的なプリンセスに加えて『アラジン』と『美女と野獣』の新世代のプリンセスが加わりました。
伊藤:『アラジン』と『美女と野獣』のプリンセスは、受け身ではなく積極的なタイプで、古典的な従来のお姫さまと次世代のプリンセスがバランスよく配置されているところも見どころのひとつです。
――劇場で生のバレエを観る醍醐味を教えてください。
伊藤:スマホの動画が今、主流の見方になっていますが、ぜひ生の舞台を観にいらしてください。ダンサーたちが優雅に踊るために、どれだけ汗をかいているかという部分も見られるのではないでしょうか。また、スタッフも皆様に喜んでいただこうと思って全力で取り組んでおります。ダンサーたちが踊るキラキラした舞台の裏には様々な人の力が集まっています。出演者やスタッフのそうした情熱がお客様にも伝わると嬉しいです。1日で6組のお姫さまと王子さまが見られる機会は貴重で、主役級の方々が出演してくださいます。本公演をきっかけに、バレエの世界へより深く入っていただければと思います。
――現在、担当されている振付のお仕事について教えてください。
伊藤:3月7、8日にびわ湖ホール プロデュースオペラ プッチーニの『トゥーランドット』の振付を担当させていただきました。おかげさまで、チケットは完売となりました。ミラノ・コルティナ冬季オリンピックでもフィギュアスケート男子の鍵山優真選手のフリー・プログラムでアリア「誰も寝てはならぬ」が使われましたね。
――チケット完売とは、すごいですね。オペラの仕事が多いのでしょうか。
伊藤:ええ。オペラの振付は、コンスタントに年に2本程度担当させていただいております。オペラは音楽的でドラマチックなストーリー性があるので、勉強になります。それから、6月28日に神奈川県立青少年センター紅葉坂ホールで開催される、日本バレエ協会 関東支部 神奈川ブロックの第19回サマーバレエコンサートでは『パキータ』第三幕のダンスクラシックとキャラクターダンスのパートの演出と再振付を担当させていただきます。リュシアン役は浅田良和さんで、オーディションが3月下旬に行われます。
――オペラの演出やバレエの振付において、どのようなところからインスピレーションを得ていらっしゃいますか。
伊藤:映画や絵画などから着想を得る場合もありますが、やはり音楽が物語っていることは、非常に多いのです。オペラやバレエの原作にはリブレット(台本)のほかにスコア(総譜)があり、ト書きなどが全て書かれています。音楽を聞き込むと、頭の中に振付が浮かんでくるのです。現在は、プティパの『パキータ』の演出・再振付を行うにあたって、バレエ史家の池田愛子さんに、どういった時代背景で、どんな人たちが初演を務め、どのように上演されたのか、といったことについてレクチャーを受けております。『ライモンダ』第3幕を上演したときもお世話になりました。「Balletクレアシオン2024」でバレエ・リュスの『アルミードの館』を再構築した際には、ディアギレフによる旗揚げ公演でこの作品がどのように初演まで漕ぎ着けたのかといった史実を勉強して、ニジンスキーの伝記を読み、彼の精神が破綻していく様子に戦慄を覚えました。
――やはりバレエにおいては、音楽は要なので、構造的に把握して、体の動きとどのように融合させていくか振付家の腕の見せ所ですね。谷桃子バレエ団の望月則彦さんは『レ・ミゼラブル』などで、音楽を用いてストーリーを語ることに長けていらっしゃいました。谷桃子バレエ団は古典(伝統)の継承と創作(革新)の探求を両輪として活動してきた名門カンパニーで、その土壌があって、伊藤さんも創作を手がけるようになった経緯があり、谷桃子先生が提唱した伝統を受け継いでいますね。
伊藤:望月先生は私のことを買ってくださっていました。「1時間もの作品をやらないか」と声をかけていただき、芸術監督でいらした先生が推してくださったおかげで『道化師~パリアッチ~』が生まれたのです。作品を観てくださった谷桃子先生が「素晴らしい!」とおっしゃって、とても喜んでくださったことが嬉しかったです。
――芸術監督を務めていらっしゃる谷桃子バレエ団附属アカデミーでは、生徒さんたちは先生が創作された作品も踊る機会もありますか。_
伊藤:はい。私のクリエーションを踊ってくれたジュニア世代の生徒たちが、今は教える立場になっています。「範子先生の作品を踊るのが大好きでした」と言ってくれます。現在、私は一番上のクラスを教えているのですが「範子先生の作品を踊りたいから、上級クラスに行くまで頑張ります」と言ってくれる生徒さんもいらっしゃるので、教師冥利に尽きます。発表会のときは、生徒たちの様子を見て「こういうのが合うかな」とか「ちょっとおしゃれな方がいいかな」とか「もう少し可愛らしい方が似合いそう」などと、生徒たちの個性を活かしたアレンジをしてあげられるのが楽しいです。


◆伊藤範子 プロフィール
6歳より谷桃子バレエ団研究所でクラシックバレエを学び、18歳で英国Ballet Rambert Schoolへ留学。谷桃子バレエ団で、1992年に『白鳥の湖』全幕の主役デビュー。『ジゼル』『シンデレラ』『ドン・キホーテ』『リゼット』『くるみ割り人形』『ロミオ&ジュリエット』『令嬢ジュリー』等の全幕の主役を踊る。
振付家として『カルメン』『椿姫』『仮面舞踏会』『アイーダ』『子どもと魔法』『セビリアの理髪師』『ファウスト』など多数のオペラを手がける。2014年、第46回「舞踊批評家協会・新人賞」受賞。2018年、伊藤が『HOKUSAI』『道化師~パリアッチ~』の演出・振付を行った、〈谷桃子バレエ団創作15〉は、平成30年度第73回文化庁芸術祭優秀賞を受賞。『ホフマンの恋』(世田谷クラシックバレエ連盟/日本バレエ協会)、「バレエ・プリンセス」「バレエ・ローズ・イン・ラブストーリー」(チャコット主催)や『ドン・キホーテ』『シンデレラ』全幕(バレエ協会神奈川ブロック)などの演出・振付を行う。2016年11月より3カ月間、文化庁の海外研修員としてミラノ・スカラ座バレエ団とバレエアカデミーにて演出・振付と教授法を研修。現在、谷桃子バレエ団振付家、附属アカデミー芸術監督。
◆公演情報
相模湖 芸術・文化のまちづくり(バレエのまち相模湖)
バレエフェスティバルin相模湖 ~My First Ballet ! ようこそバレエの世界へ~
B.P.P. / Be Princess & Prince !
お姫さま&王子さまになる!~バレエの世界のお姫さま&王子さまたち~
監修・振付:伊藤範子(谷桃子バレエ団)
2026年3月15日(日)第1回12:30開演/第2回16:30開演
神奈川県立相模湖交流センターラックスマンホール
〈第1部〉レクチャー&デモンストレーション
〈第2部〉バレエ公演
『道化師~パリアッチ~』
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail004894.html
『HOKUSAI』
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail010467.html
「バレエ・プリンセス」
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail004086.html
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