ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2017.05.10]
♪バレエ昔も今も♪ BALLET OLD AND NEW♪
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』の公開にあたって、ポルーニンが来日し、記者会見を行い、パフォーマンスを披露するなどのイベントが行われた。
ポルーニンは周知のように、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルに最年少で昇格し、将来を嘱望されていた。しかし、突然、カンパニーから退団を表明し、話題を集めた。その後、故国のロシアで踊っていたが、アイルランドのミュージシャン、ホージアの「Take Me to Church」とともに踊った動画が、You Tubeで1000万回を超えて再生され大いに注目を集めることになった。
英国ロイヤル・バレエ時代には来日公演に参加していたこともあったが、今回、改めて映像の中で踊る姿やパフォーマンスを観た。私見によれば、「ヌレエフの再来」といううたい文句とやや異なって感じられた。映画の中でも映されていたが、彼がゴールデンマスク賞を受賞した『マイヤリンク』のルドルフ皇太子役が最も適役のようだ。やり場のない絶望を見事に演じていたと思う。どこかロストジェネレーションのダンサーのようにも見えた。ヌレエフにはエロティックな生への希求があったと思う。
来日イベントでは、完全にヒーロー扱いで特に芸大の奏楽堂で映画を上演した後にパフォーマンスを披露し、満員の観客の割れんばかりの盛大な喝采を受けた。最後は、担当の教授が登場しトークショーを行い、副学長まで登壇して「感動した」とコメントしていた。 ポルーニンは、英国のバレエ界のことを「ひどい業界だった」といい、今はダンサーを支援する組織を立ち上げているという。それはあるいは彼の言う通りなのかもしれない。しかし、英国ロイヤル・バレエ団を突如退団したために、当時在籍し踊っていたダンサーたちは、急遽、演目や上演日の変更を余儀なくされ、多大な迷惑を被ったはずだ。諸々の話題性を興行に活用することは、もちろん、良いだろう。しかし、教育者がそうした事実を忘れているかのように見えたのはどうだろうか。私にはいささか疑問に思えた。

20世紀から21世紀へのバレエの変貌を鳥瞰する優れた舞台、スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ」

スターダンサーズ・バレエ団「バランシンからフォーサイスへ 〜近代・現代バレエ傑作集〜」
『セレナーデ』『ウエスタン・シンフォニー』ジョージ・バランシン:振付、『N.N.N.N.』ウィリアム・フォーサイス:振付

スターダンサーズ・バレエ団が「近代・現代バレエ傑作集」とサブタイトルを付け、「バランシンからフォーサイスへ 」という公演を行った。演目は、バランシンの『セレナーデ』と『ウエスタン・シンフォニー』(ベン・ヒューズの振付指導)フォーサイスの『N.N.N.N.』(安藤洋子、島地保武の振付指導)だった。20世紀から21世紀へのバレエの鳥瞰を感じさせるプログラムである。

tokyo1705a_01.jpg 「セレナーデ」Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

開幕は『セレナーデ』。バランシンが、チャイコフスキーの曲を使ってバレエ・スクールの生徒たちのために振付けた、といわれている。しかしもちろん、あだやおろそかに創られてはいない。音楽の構成としっかりと寄り添いながら、美しいヴィジュアルのフォーメーションを拵えている。『セレナーデ』という音楽の原義も踏まえて、アンサンブルとともに愛の形が、プリンシパルダンサーにより表され、ラストは愛への力強い賛美で終わる。古典的な美しさとヒューマンな姿が調和し、見事に調えられた作品である。

フォーサイスの『N.N.N.N.』は、脱力と緊張にもとづく動きを構成したもの。冒頭から腕を脱力して、重力に任せて現れる動きを見せる。時にだらりと垂れ、時にもう一方の手で受けたり、そのまま持ち上げて頭の上に固定しようとしたり、さまざまな動きが組み合わされ、二組の男性ダンサーのペアがいくつものヴァリエーションを見せて踊る。その間に意味のない掛け声を合わせて発したりするが、音楽はなく、時折、ほとんど聞き取れないくらいの重低音がブーッと流れる。それはおそらくは、現実の一段面を表していると思われる。『ステップ・テクスト』などでも見られた断裂する音の使用法が、さらに象徴化されている。個々の動きすべてが振付けられたものというが、バレエの動きとの類縁あるいは対照的な関係を見ることはできなかった。様式化が完全に破砕され、ムーヴメントは、今そこにある21世紀の現実と照応しているかのようにも感じられた。

tokyo1705a_02.jpg 「N.N.N.N.」
Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉
tokyo1705a_03.jpg 「ウェスタン・シンフォニー」
Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉

最後はバランシンが彼の『スターズ・アンド・ストライプス』や『タランテラ』などにも音楽を提供しているハーシー・ケイに依頼して、アメリカのフォークソングなどを編曲・オーケストレーションした音楽に振付けた『ウエスタン・シンフォニー』。アメリカ西部の大草原に、人々が集って心ゆくまで踊る、そんな新大陸アメリカらしい、自由で闊達な気分があふれるようなダンスだ。4楽章に分かれていて、林ゆりえと吉瀬智弘、渡辺恭子と加藤大和、鈴木就子と関口啓、喜入依里と安西健塁とそれぞれのアンサンブルが見事に踊りきった。
これまでは(スターダンサーズの公演以外では)、バランシンとフォーサイス作品を同じ公演で見る機会は、案外、少なかったかもしれない。この「バランシンからフォーサイスへ」により、19世紀のグランド・バレエがバランシンの出現によって、舞台の主題が変わり、フォーサイスによってそのムーヴメントそのものが解体された、という道筋が感じられた。そこまで21世紀も深まってきたということだろうか。

tokyo1705a_04.jpg 「ウェスタン・シンフォニー」Takashi Hiyama ©〈A.I Co.,Ltd.〉