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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.11.10]

ロルカが描いたの生と死を見事に舞台に映し出した、石井智子スペイン舞踊団『Lorca ロルカ III----タマリット----』

石井智子スペイン舞踊団
『Lorca ロルカ III----タマリット----』石井智子:振付、構成、演出、振付

石井智子スペイン舞踊団のロルカ三部作『Lorca ロルカ III ----タマリット----』が上演された。石井智子は2012年に『Lorca ロルカ ロマンセロヒターノ イ ジャント』、14年に『Lorca II カンテ・ホンドの詩』を上演してきたが、『Lorca ロルカ III----タマリット----』により、無事、3部作が完結した。中学生の時以来、ロルカに惹かれ、『ロマンセロ ヒターノ』『カンテ・ホンドの詩』『タマリット詩集』をフラメンコの3部作として上演したいと温めてきた企画が時を経て実現した。この3部作を見せてもらい、たいへん真剣に真面目にロルカの詩と取り組んでいて、こちらも多いに勉強になった。無事、完結したことは喜ばしいことであり、客席からささやかに祝った。

tokyo1611c_01.jpg 「僕と君」撮影:川島浩之

毎回、演出にも工夫を凝らしているが、今回はアラブ音楽家やヴァイオリニスト、アコーディオンのアーティスト、コンテンポラリー・ダンサー、朗読(日本語)の声優などを招いて舞台をこしらえていた。
ロルカは幼い頃をアラブの文化の影響が残るグラナダで過ごしているが、「タマリット」とは、ロルカの叔父さんの牧場の名前だそうだ。また、「『タマリット詩集』は、ロルカの最晩年の詩集です。やがてくるであろうロルカ自身の死を予感させるような詩や、残酷な現実を見せつけられ胸が締め付けられるような詩、小さきものや弱きものへの深い愛にあふれた詩も多くあります」そして「これらの詩は全て、アラブ音楽の古い詩の形式で成り立っている」という。構成は2部に分かれ、第1部が「ガセーラ」、第2部が「ガシーダ」という詩の形式で分けている。「ガシーダ」はアラブの歌謡の原型で、そこから洗練された詩の形式が「ガセーラ」というのだそうだ。
詩をスペイン語に加え日本語でも流し、あるいは映像に映し、ロルカに扮した演者も登場する。日本からはかけ離れたスペイン内戦時代に書かれた詩を、なんとか分かりやすくしようと工夫をしている。演出もシルエットを多用して、死と生のコントラストをうきあがらせた。タマリット詩集には、死を意識したものが多い、というがロルカは38歳でファシストに殺されているので、スペインの状況の中で死と直面していたのだ。

tokyo1611c_03.jpg 「千のバイオリン」撮影:川島浩之
tokyo1611c_04.jpg 「銀の果て」撮影:川島浩之

ロルカ3部作すべてに参加し踊っているエル・フンコが、第1部の最後に、血で染め上げたようなシャツとジャケットで熱く床を踏み抜かんばかりに踊った「林檎の眠り」<暗い死のガセーラ>。永遠の命を表す林檎のように無垢な男の子(岩崎蒼生・石井の子息)を登場させて、ひと時の眠りを切に願う残酷な現実を訴える踊りだった。
第2部の冒頭は、ヴァイオリニストをシルエットで見せ、石井智子とアンサンブルのダンサーがカスタネットをかき鳴らしながら踊った「千のバイオリン」<泣き声のカシーダ>。「泣き声は 巨大なヴァイオリン、涙は 風を黙らせてしまい、ただ泣き声だけが聞こえてくる」と謳う声が聞こえてくるかのような、胸に響く踊りだった。
ロルカの一際美しい、「宿命」による生まれ変わりの詩を内城紗良が踊った「転生」<金色の娘のカシーダ>。そして凄絶なスペインの女性の悲劇を謳った「銀の果て」<横たわった女のカシーダ>を踊った石井智子は、この上なく素晴らしかった。
「ジャスミンと雄牛」<外で見る夢のカシーダ>は、群舞で構成した雄牛とジャスミン。日常の平和の象徴のようなジャスミンと首を刺し抜かれた雄牛が、舞台で交錯する、ロルカの詩ならではのイメージが一段と鮮やかだった。
ロルカ3部作ラストの演目は「太陽と月」<黒い鳩のカシーダ>。「僕のお墓はどこにあるにの?」と死んでしまった「僕」。そして黒い鳩と鷺に姿を変えた月と太陽が呟く。悲しく哀切な寓話を石井智子とエル・フンコが踊った。息もピタリと合って、締めくくりにふさわしい舞台だった。
(2016年10月23日 シアター1010)

tokyo1611c_02.jpg 「いつの時も」撮影:川島浩之 tokyo1611c_05.jpg 「銀の果て」撮影:川島浩之 tokyo1611c_06.jpg 「太陽と月」撮影:川島浩之
tokyo1611c_07.jpg 「エピローグ」撮影:川島浩之