世界が注目する演出家マルコス・モラウが放つ新感覚の人形浄瑠璃『金閣寺』――末永光・尾上眞秀が抱負を語る
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香月 圭 text by Kei Kazuki
パリ・オペラ座、アヴィニョン演劇祭、ヴェネチア・ビエンナーレ、サドラーズ・ウェルズ劇場など、ヨーロッパの舞台芸術界で熱狂的な支持を集める、スペイン出身の演出家マルコス・モラウ。ネザーランド・ダンス・シアター(NDT2)来日公演2025で上演されたモラウ演出振付『Folkå』はヨーロッパとおぼしき、とある共同体の民俗的な儀式をモチーフにした作品で、優れた若いダンサーたちが一体となった身体表現は、モラウらしいシュールレアリスム的な視覚美に貫かれていた。
バルセロナとニューヨークで写真・演劇・身体表現を学んだモラウは、2005年に自身のダンスカンパニー "La Veronal(ラ・ヴェロナル)"を創立。演劇とダンスとアートが融合した独創的なスタイルの作品は、世界各地の劇場やフェスティバルで高く評価され、2013年、スペイン国家舞踊賞を最年少で受賞している。2023年にはフランス芸術文化勲章シュヴァリエを受章した。

そうした先鋭的な演出家マルコス・モラウが今夏、日本で発表する最新作が、三島由紀夫の長編小説『金閣寺』を題材とし、踊り手と人形が共演する"新たな「人形浄瑠璃」"だ。
現代の文楽を代表する吉田玉助が人形を操り、上方歌舞伎や日本舞踊吾妻流七代目家元・吾妻徳陽として邦画『国宝』などで所作指導も行なった中村壱太郎が、伝統の「人形振り」をもって、人間と人形に変化する。
三島文学の「美」と「危うさ」を象徴するのが、ジュニア(STARTO ENTERTAINMENT)として活躍する末永光だ。そして、森山開次演出『踊る。遠野物語』で初舞踊作品に挑んだ、13歳の尾上眞秀が壱太郎に寄り添う子方となる。末永と眞秀、モラウの創作欲を限りなく掻き立てるフレッシュな二人を、ダンスレッスン終了後の稽古場に訪ねた。
眞秀が人形浄瑠璃『金閣寺』の企画への出演をオファーされたのは、今年1月の2026 K-BALLET Opto『踊る。遠野物語』のツアー中だった。「嬉しかったので出させていただきたいと即答しました。当時は、マルコスさんともお会いしていないし、内容についてもよくわからなかったで、不安な気持ちもありました」と眞秀。末永は「普段はアイドルとして活動しているので、年が近い事務所の仲間と一緒にファンの方々の前でパフォーマンスしたり、雑誌の撮影をしたり、バラエティー番組に出演したりしています。文楽や歌舞伎、コンテンポラリーダンスの方々と共演するというお話をいただいたときは、これまで自分が取り組んできたことと全く違うので、驚きました。単独で舞台に出るのが初めてなんですよ。でも、いつか異なる世界でも活躍したいと思っていたので、すごく嬉しかったです。初めてのことだらけで、ドキドキする気持ちとワクワクする気持ちが入り混じっています」と話した。
『金閣寺』という題材についての印象を末永は「このような純文学に触れる機会がこれまで限られていたのですが、『金閣寺』に出演することを知って、あらためて原作を読んでみました。内容が難しく、完璧に理解するまでには至らなかったのですが、主人公が頭の中で考えていることは狂気じみていて、すごく不思議だと思いました。そういった面は面白かったです」と語る。一方、眞秀は「母(寺島しのぶ)からは〈三島由紀夫の作品はすごく難しい。具体的というより、むしろ抽象的だ〉と言われました。内容を完全に把握するのは難しいので、創作の場での流れに身をまかせたいと思います」と答えた。
昨年末に開催されたワークショップに参加した末永は、マルコス・モラウに会った感想をこう語る。「コンテンポラリーダンスではあるのですが、初めての動きだらけで、とても苦戦したんですよ。マルコスさん独自のジャンルという感じで〈難しすぎる!〉と音を上げそうになりましたが、集中して、何とかついていけたかな、という感じでした。でも、マルコスさんから〈普段の自分というものから外れすぎなくていいよ〉と声をかけられて、すごく安心しました」。

マルコス・モラウ
現在、二人で受けているというダンスレッスンはどのようなものなのか。「普段は歌舞伎の踊りをお稽古していますが、今回はコンテンポラリーダンスの体の使い方を習っています。身体のある一部を支点にすると、その他の部分がここまで動くといったことを自分で考えながらトレーニングをしています。身体の部位をスムーズに動かせるようになることを目標に学んでいて、すごく勉強になります」と眞秀。「2月から週一回のペースで、このレッスンを始めたので、もう4カ月になりますね。コンテンポラリーダンス以外にも、人間としての初歩的な動きのような、これはダンスなのか、と思わせる動作など、初めて取り組む動きがたくさんあります。赤ちゃんや動物のような動きにも挑戦しています」と末永。
お互いの印象について、末永は「最初に会った時は、お互い緊張していて、あんまりしゃべれなかったんですよ。 眞秀くんはすごくおとなしい子なのかなと思って。年上として頑張って話しかけようかなと思っていたのですが、僕も人見知りなので。でも、レッスンを重ねるごとに、少しずつ話すようになって〈年相応の少しやんちゃな部分もあるんだな〉と思って、安心しました」と打ち明けた。眞秀も「僕も人見知りなので最初に会った時は全然話しかけられませんでした。レッスンで会うたびに少しずつ慣れてきて、今は普通に話せるようになりました。本格的にお稽古が始まったらもっと話すようになると思います」とシャイな一面をのぞかせる。「高校生と中学生だけど、お互い学生同士なので、学校生活の話題は共通しているので楽しいです」と末永。ダンスレッスンでは、末永が「眞秀くんは体がすごく軽いなと思います。僕もまだ若いですけど、彼より少し重たい(笑)。 体が重たく感じたりすることは、実は結構あります。 でも、眞秀くんは難しい動きも軽々とこなしていて、いろんなことをたくさんやってきたのかなと思わせる面もあり、軽やかでうらやましいです」と語ると、眞秀は「身体の使い方が上手だと感じます。ダンスの先生に言われたことを〈難しい〉と言いながら簡単そうにこなすのがすごいなと思います」と返す。末永はまだ高校生。「体が重い」どころか、軽やかに踊っているイメージだ。「中学生の頃、ダンスを始めた頃は、踊ることが純粋に楽しくて、自分の好きなように踊っていたのですが、年齢が上がっていくと、他の方と合わせないといけないので、楽しむだけの踊りでは通用しなくなってきたこともあり、考えながら踊ることが増えてきました。メンタル面で成長していったことで、体が重いと感じたのかもしれませんね」と自身の歩みを振り返る。
今回の鍵となる「人形振り」について、眞秀は「人形振りをどのようにするのかがまだわからないので、楽しみにしています」と冷静に分析してみせた。末永は「人形浄瑠璃や文楽のDVDを借りて観ました。〈人形浄瑠璃〉を見るのは初めてで新鮮でした。人形の眉毛が動くのを見て〈ここも動くんだ!〉と驚きました。〈どのようにして眉毛を動かしているんだろう?〉と、すごく不思議な感覚になりました」と初見の感想を生き生きと述べた。
中村壱太郎との共演について、眞秀は「壱太郎さんとは、今回、初めての共演となりますが、すごく楽しみです。女形をやっている方なので、勉強するところもいっぱいあると思います」と抱負を語る。
今回の音楽は、竹本連中の語りに加えて、カタルーニャの伝統歌唱を現代的に再構築してきたスペインの歌姫、マリア・アルナルが担当する。「最初に彼女の動画を見たのですが、すごく綺麗な声で〈うわぁ!〉と引き込まれました。このような一流の方と舞台で共演できるということが嬉しいです。すごい舞台になりそうな予感がします」と眞秀は語った。

尾上眞秀

末永光
この夏、二人はバルセロナに赴き、海外のダンサーとリハーサルを行うことになる。
末永は「世界各国の大人数のオーディション参加者の中から選ばれた方たちで、その中で一緒に踊るのが信じ難いです。恐らく、レベルも桁違いに高いと思いますし、すごく緊張しているのですが、そういう方たちから学べることも多々あると思います。貴重な経験だと思うので、与えられた時間を大切に過ごしていきたいと思います」と意気込みを語る。
眞秀は「『踊る。遠野物語』も新しい体験でしたが、今回の海外リハーサルでお会いする方々は世界のトップレベルのダンサーだと思うので、とても楽しみです。現地でスペイン語を話せたらいいなと思って、今、スペイン語を少し勉強しています」と、海外研修に向けて自分なりの目標をしっかり持っているようだ。すると「僕は英語もあまりしゃべれなくて。でも、マルコスさんも英語を話しますし、恐らく、ダンサーの方々のなかには英語を話す方もいらっしゃると思うので、まずは英語のブラッシュアップから取り組もうと思っています。多少なりともコミュニケーション能力をつけておくと、稽古がいい方向に進むのではと思います」と末永。
二人の心はすでにバルセロナでのリハーサルの日々を思い描いているようだ。二人がマルコス・モラウの手ほどきを受けてどのように変貌していくのかが楽しみだ。そして、「マルコス浄瑠璃『金閣寺』」がどのような作品になるのか、期待が高まる。
マルコス浄瑠璃『金閣寺』ティザー
https://www.youtube.com/shorts/DSRXFYplf50
左から 1 段目:マルコス・モラウ、吉田玉助、中村壱太郎
2 段目:末永光、尾上眞秀、マリア・アルナル
3 段目:アキーレ・デ・フルーヴェ、 エヴァン・ベスコン、 エドゥアルド・イグナシオ・フィソナ・カマルゴ、 シャケド・ヘラー、 チョ・ジョンイク、 ロレンツォ・チマレッリ
写真:渡邉肇(マルコス・モラウ、吉田玉助、中村壱太郎、末永光、尾上眞秀)
Photo by Nicola Delorme(マリア・アルナル)
Photo by Rob Becker (ロレンツォ・チマレッリ)
Bunkamura Produce 2026 マルコス浄瑠璃『金閣寺』
日程:2026年8月29日(土)~9月6日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
原作:三島由紀夫『金閣寺』
演出・振付:マルコス・モラウ
脚本:ロベルト・ファティーニ
音楽・歌:マリア・アルナル
美術:マックス・グレンツェル
衣裳:シルヴィア・ドゥラニョー
邦舞振付:吾妻徳陽(中村壱太郎)、花柳源九郎
竹本作曲:鶴澤慎治
リハーサル・ディレクター:鈴木竜
企画:高野泰樹(Bunkamura)
出演:吉田玉助、 中村壱太郎、末永光、 尾上眞秀、 マリア・アルナル
アキーレ・デ・フルーヴェ、アダム・ラッセル=ジョーンズ、エヴァン・ベスコン、イグナシオ・フィソナ、シャケド・ヘラー、チョ・ジョンイク、ロレンツォ・チマレッリ
吉田蓑紫郎、吉田玉延
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