英国ロイヤル・バレエ団日本公演2026 高田茜インタビュー「『ジゼル』『リーズの結婚』を楽しんでいただけたら幸いです」
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香月 圭 text by Kei Kazuki
7月に開催される英国ロイヤル・バレエ団日本公演2026では、ロマンティック・バレエの金字塔『ジゼル』と、英国を代表するフレデリック・アシュトン振付による、ユーモアあふれる牧歌的な喜劇『リーズの結婚』が上演される。プリンシパルとして11年目を迎えた高田茜が、それぞれの作品の見どころや、今回の日本公演で出演が予定されるダンサーの魅力について語ってくれた。
――英国ロイヤル・バレエ団日本公演2026の『ジゼル』で、アルブレヒト役をセザール・コラレスさんが務めます。

Photo: Andrej Uspenski / RBO
高田 彼は本当に素晴らしいテクニシャンですし、素敵なパートナーでもあり、アーティストとしても優れているので、今回はどんなアルブレヒトになるのか楽しみです。彼がイングリッシュ・ナショナル・バレエ団に在籍中、アクラム・カーンの『ジゼル』でヒラリオンを演じた映像を見たことがありますが、ワイルドで凄みを感じさせる、その役にぴったりで、衝撃を受けたことを未だに覚えています。今回は純粋なクラシック作品ではありますが、アルブレヒトの弱さも見せられるような、人間味あふれる演技を見せてくれるダンサーだと思います。
――ヒラリオンをアクリ瑠嘉さんが演じます。
高田 彼のことは親しみを込めて「瑠嘉ちゃん」と呼んでいますが、頼りがいのあるダンサーです。 どんな役でも演じることができるんですよ。日本公演では『ジゼル』のヒラリオンと『リーズの結婚』のコーラスとアランを演じますが、コンテンポラリー作品もすごく上手で、何でもできてしまう優秀なダンサーです。ヒラリオンの演技については、年々、深みを増していっているな、と感じています。ただの乱暴なヒラリオンではなく、彼ならではの繊細さも感じられて、素晴らしい役作りができていると思います。
――『ジゼル』と『リーズの結婚』は、村娘がヒロインという点では同じですが、周囲の態度が正反対です。リーズとコーラスのカップルについて、周囲は応援していますが、ジゼルの場合はアルブレヒトが身分を偽っており、明らかによそ者だということが示され、周囲の反応が冷たいように感じられます。英国ロイヤル・バレエ団の演劇性は、主役だけでなく脇役のダンサーたちも役になりきっているところにあるのでしょうか。
高田 物語はメインキャストだけでなく、周囲の人々の生活の中で展開していきます。『ジゼル』では、アルブレヒトについて、村人たちは「これまで見たことのない人だな」という認識かもしれません。収穫を祝う祝祭の場面では「一緒に祝おうよ」と皆で話しているシーンがあるのですが、群舞のダンサーたちは意思疎通をしながら演じてくれるので、中央で踊る主役はすごく踊りやすいですね。 私たちが顔を向ける方にいるダンサーたちが温かいリアクションをしてくれるので、ありがたいと感じる部分でもあります。そのときは、彼らから冷淡な雰囲気は、私はあまり感じていません。でも、アルブレヒトは実は貴族だということが明るみに出たときに「えっ!」という驚きは確かにありますね。

英国ロイヤル・バレエ団『ジゼル』高田茜、アネット・ブヴォリ
Photo: Andrej Uspenski / RBO

英国ロイヤル・バレエ団『ジゼル』セザール・コラレス
Photo: Andrej Uspenski / RBO
――ジゼルとアルブレヒトが組んで踊るとき、アルブレヒトは最初のうち、ジゼルのステップに戸惑っているように見えます。村人はよく飛び回り、貴族は飛び跳ねないように見えるのですが、身分の違いによって踊り方が異なる様が示されているのでしょうか。

英国ロイヤル・バレエ団『ジゼル』高田茜
Photo: Andrej Uspenski / RBO
高田 面白い観点ですね。『ジゼル』の時代背景は、恐らく、中世やルネサンスの時代ではないかと思っています。当時、貴族は床を滑るように踊っていたのではないかと推測しています。でも、村人は様式にとらわれず、楽しいときには自由に踊っていたのではないでしょうか。ジゼルがアルブレヒトに「一緒に踊りましょう」と伝えるとアルブレヒトが「どうやって踊るの?」と問い返す、マイムのシーンがあります。ジゼルにしてみれば、踊り方がわからないのはすごく不思議なことなので、アルブレヒトの手を引っ張って踊るのですが、二人の身分の違いがその場面でよく表れていますね。
――2幕で、ウィリとなって登場するジゼルを演じる上で、気を配っている点はどんなところでしょうか。
高田 ウィリとなったジゼルは魂だけの存在になるので、重力や体重が感じられない、空気のような動きで、腕が後からついてくる、といった感じをイメージしています。ナタリア・マカロワやゲルシー・カークグランドなどの偉大なバレリーナの映像を拝見したとき、彼女たちの踊りは。1幕ももちろん素晴らしいのですが、2幕の腕の運びや走り方、歩き方が絶品で、足の裏をきめ細やかに使っているなとじっくり観ていました。自分が踊った映像を後で観返したところ、まだまだだと感じたので、さらに研究していきたいなと思っています。
――『リーズの結婚』でコーラスを演じるのは、カルヴィン・リチャードソンさんです。
高田 コーラスは愛情深い人物ですが、カルヴィンにも似た部分があるように思います。相手の気持ちを汲んで踊ってくれるダンサーなので、パ・ド・ドゥを一緒に踊ると、陽気な雰囲気のみに終始するのではなく、真心が感じられるのも、彼のおかげではないかと思います。彼はコミュニケーションを大事にするので「この部分はどうだったか」という感想を言いやすい雰囲気づくりをしてくれるダンサーです。一方で、ドラマティックな役柄もよく似合います。ケネス・マクミラン振付の『うたかたの恋-マイヤリング-』でルドルフ皇太子役として最近デビューしたのですが、急に決まったため、準備期間が短かったのです。この作品にはパ・ド・ドゥがたくさんありますが、すべてを完璧にこなし、頼りになるパートナーに育ってきているなと感じます。

英国ロイヤル・バレエ団『リーズの結婚』高田茜、カルヴィン・リチャードソン
Photo: Andrej Uspenski / RBO
――『リーズの結婚』では、ヒロインのリーズと母親シモーヌとのコミカルな掛け合いも楽しいですね。
高田 娘のリーズにきちんとした生活を送ってほしいという気持ちが母親にあるのは、リーズも分かっているんですよね。でも、幼なじみのコーラスと一緒になりたいリーズが自分の意志を貫くところは、シモーヌそっくりで、二人は似た者同士だと思います。リーズにはお父さんがおらず、母親のシモーヌは女手一つで村人にいろいろ指示して働かせていますが、タフなお母さんだと思います。私の母もすごいタフなので、シモーヌとすごく似ている部分があるかな。私自身、母と言い合うこともあるので、リーズとシモーヌの母娘関係とすごく似てるなと思います。
――リボンや糸車を持ちながらアシュトンのステップを踊るというのはとても難しそうですね。コーラスとの踊り、村娘たちのリボンを束ねてアラベスクで回りながらバランスを取るところなどもすごいと思いました。軽やかに楽し気に見えるために、どんな工夫をしていますか。
高田 小道具を使うときは、結構ドキドキするんですよ。 このシークエンスがうまくいかなかったらどうしようとあせったり、手が震えてリボンを結べなかったらどうしようと緊張したりすることがあるので、落ち着いて何も考えないで結べるようになるまで練習を重ねるしかないですね。リボンをバーにくくり付けて練習することもあります。トウシューズに松ヤニを使うので、手がベトベトになりがちで、リボンがうまく飛ばなかったりするときもあります。そういったケースも想定しておく必要があります。地道に陰練(習)をするのが大事だと思います。
――シモーヌ役はフィリップ・モーズリーさんです。英国ロイヤル・バレエ団のダンサーとして40年以上のキャリアがあり、今回は、キャラクター・アーティストとして『リーズの結婚』のシモーヌ役で茜さんと共演されます。モーズリーさんはアーティスティック・スケジューリング・マネージャーとしての顔もあります。茜さんにとって、彼はどのような存在ですか。
高田 何百人もいるバレエ団のダンサーのスケジューリングを一人で担当するのは尋常なことではないので、大変そうだなと思いながら彼のことを見ています。いつも忙しそうにです。シモーヌ役は彼の大好きな役柄だと思います。演技にかける情熱もすごいです。多忙な業務のため、バレエを毎日できる状況ではなかったと思いますが、ダイエットして体型を整え、リハーサルも頑張っていました。彼が演じるシモーヌについては、早口でまくし立ててその場を去っていく、といったイメージを私は抱いています。実は、その様がまさに彼自身が醸し出す雰囲気にそっくりなのです。「このスケジュールは変わったから、よろしくね」と告げるや否や、嵐のようにその場を去っていきます(笑)。そのような彼の慌ただしい様子がシモーヌの役柄にも反映されていて、彼との共演はいつも楽しいです。

英国ロイヤル・バレエ団『リーズの結婚』高田茜
Photo: Andrej Uspenski / RBO
――後半、リーズが糸巻きを持ちながら踊るシーンでは、眠りかけたシモーヌの首が糸で絞まりそうになるといったコミカルな場面もあります。うまく笑いを取るために工夫しているところはどんな点でしょうか。
高田 相手との掛け合いなので、やはりタイミングを合わせるのが大事ではないでしょうか。こちらがお客様を笑わせようという気はさほどないのですが、共演者同士のタイミングが噛み合ったときに全体として見ると、お客様が思わず、くすっと笑ってしまうのではないかと思います。音楽と振付がマッチしている点もすごく面白いところで、アシュトンのユニークな個性が出ている作品だと思います。
――アラン役はマルコ・マシャーリさんです。
高田 マルコは身体能力が並外れているので、コンテンポラリーも素晴らしいです。ただ、入団して以来、怪我のため出演がかなわない時期があり、浮き沈みを経験したダンサーです。彼は温かい人柄で、イタリア人らしい明るさもあります。アランのように、どこか抜けた若者の役を愛らしく演じてくれると思います。
――プリンシパルとなって11年目のシーズンを迎え、新進の若手ダンサーと組む機会が増えてきました。
高田 自分がプリンシパルになったばかりの頃は、経験豊富なベテランのプリンシパルの方と踊らせていただく機会が多く、様々なことを学び、安心して踊ることができました。パートナーを組むダンサーとは、若いからという特別扱いはしていないと思います。 ただ、パートナーリングに慣れてない方と踊るときは、やはり、こちらがリードしていく必要はあると思います。お互いに話し合いができる関係がベストだと思っているので、自分が踊ったことがある作品については。「こうしてほしい」というよりは「こういうこともできるよ」とか「こうした方が簡単ではないかな」というふうに相手に伝えています。若いダンサーたちが私と踊ることによって、何か得るものがあるなら、すごく嬉しいことですし、共に築き上げていけるものがあれば、なお良いと思います。
――ロイヤル・オペラ・ハウスの緞帳が、エリザベス2世女王陛下のイニシャルが刺繍されたものから、チャールズ3世国王のイニシャルのものに代わったばかりです。去る5月14日、国王陛下臨席のもと開催されたスプリング・ガラで新しい幕が披露され、バレエ・ダンサーではマリアネラ・ヌニェスさんが出演しました。ロイヤル・オペラ・ハウスのレパートリーを上演する通常公演で初めて使用されたのは5月16日、茜さんとムンタギロフさん主演による『うたかたの恋 -マイヤリング-』だったそうです。イギリスの新時代を象徴する幕がかかった舞台に立った感想をお聞かせください。
高田 イギリス国民に愛されている王室の方々が、ずっとバレエを支えてくださっていることに感謝するとともに、王室の方々に守られた環境で私たちが舞台に立てるということは、とてもありがたいことだと思っています。
――英国ロイヤル・バレエ団2026日本公演を楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いします。
高田 英国ロイヤル・バレエ団らしいレパートリーというと、マクミランの作品も当てはまりますが、私自身はアシュトンの『リーズの結婚』が先に思い浮かぶ方なので、この作品を皆様にお目にかけることができて、とても嬉しく思います。英国ロイヤル・バレエ団のメンバーは皆、日本が大好きで日本公演を楽しみにしています。たくさんの方に見ていただいて、純粋に楽しんでいただけたら幸いです。
(このインタビューは5月下旬、オンラインで行われた)
英国ロイヤル・バレエ団2026年日本公演
『リーズの結婚』
2026年7月3日(金) ~7月5日(日)
川口総合文化センター・リリア フカガワみらいホール(メインホール)
『ジゼル』
2026年7月10日(金) ~7月12日(日)
NHKホール
公式サイト https://www.nbs.or.jp/stages/2026/royalballet/
※当初の発表より出演者に変更が生じております。詳しくはNBS公式サイトをご確認ください。
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