「ルジマトフ JAPAN FINAL」日本ファイナル公演で観たカリスマのオーラ

ワールドレポート/東京

小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera

「ルジマトフ JAPAN FINAL」

ファルフ・ルジマトフの来日ラスト公演「ルジマトフ JAPAN FINAL」が、新宿文化センターで開催された。ファイナルに相応しく、充実のプログラムとキャストが集っての豪華ステージとなった。

ルジマトフは62歳(公演時)。初来日は40年前のマリインスキー・バレエ(旧キーロフ・バレエ)日本公演で、アルティナイ・アスィルムラートワとのペアで『ジゼル』に全幕主演している。彼の名を一躍高めたのが、1991年のマリインスキー・バレエ日本公演で踊った『海賊』のアリで、続いて「世界バレエフェスティバル」に登場。世界のスターダンサーたちと肩を並べたが、やはりルジマトフはスペシャルだった。技量はもちろん、野性味と色香、存在感で突出していた印象がある。
1994年には、自身の名を冠したガラ公演「ルジマトフのすべて」がスタート。『海賊』のアリ、『シェヘラザード』の金の奴隷、『バヤデルカ』のソロル、『ディアナとアクティオン』のアクティオン......、数々の名演が記憶に残っている。
ルジマトフは徹底して踊り手だった。2007年にミハイロフスキー劇場(旧レニングラード国立バレエ)の芸術監督に就任するも、2年後に「踊りに専念したい」と芸術監督を辞任。以降現役を続けてきた。

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『王は踊る』Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

初来日から40年で、来日回数は計約70回。来日公演のたび舞台に必ず足を運ぶファンも多く、本公演も長年のルジマトフ・ファンとおぼしき女性客が目立った。今回はいわばその集大成であり、ルジマトフ自身の思い入れも深い。
ルジマトフはAプログラムだけでソロを含む計4作品に出演。当初発表されていたプログラムに、彼自身の意向によりいくつかの演目が追加されている。
その一つが『王は踊る』は日本初演作。ルジマトフの盟友ニコライ・アンドロソフ振付で、ルジマトフの還暦記念作品として2023年6月にサンクトペテルブルグで初演を迎えている。ルジマトフはバレエ史に残る太陽王ルイ14世に扮し、2人の従者を引き連れてあらわれる。ブルーのマントを羽織った彼は威厳に満ち、視線ひとつで場を制す。振付はあくまでもシンプルで、大技は封印し、足の運び一つで王の苦悩と孤独を語り上げる。舞台上のルジマトフから感じられるのは鋭い集中力だ。翌日の同公演では急遽本作をキャンセルしているが、それだけ気力が要される作品ということだろう。ルジマトフの舞台へかける執念の一端を見た気がした。

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『王は踊る』
Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

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『Ne me quitte pas(いかないで)』
Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

『Ne me quitte pas(いかないで)』はルジマトフとイリーナ・ペレンのためにアンドロソフが振付けた作品で、2026年2月に初演。シャンソン歌手ジャック・ブレルの表題曲を用い、男と女のすれ違いと別れが繊細に描かれる。ルジマトフに身体を預けるペレンと、ペレンをひしと抱えるルジマトフ、2人の寄り添うようなデュエットが切ない。ペレンは19歳のときからルジマトフとペアを組んできたといい、強固なパートナーシップをみせる。上演中に地震が発生し、緊急アラームがあちこちで鳴り響くというハプニングが起こるも、2人は動じることなく互いを見つめたまま。客席のざわめきをものともせずに演技を貫いていた。静かな大人のドラマに胸を打たれた。
『ファルーカ』は2026年2月初演の新作で、アントニオ・ガデスへのオマージュとして創作されたルジマトフのソロ作品。抑制をきかせながらも、ステップを重ねると内から情熱が立ちあらわれる。フラメンコのリズムがルジマトフの愁いによく似合い、孤高の世界を屹立させる。所作は端正だが鋭敏で、一挙手一投足に目を奪われた。
『ボレロ』はアンドロソフ振付作で、2011年に日本初演。以降たびたび踊られてきたが、今回が見納めである。半裸で踊るルジマトフは圧倒的な身体の美を誇り、生ける彫像のよう。無駄のない動き、円熟の身のこなし、そしてただならぬ色香は唯一無二。この境地に至るまでどれほどの鍛錬を重ねてきたか、想像に余りあるものがある。

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Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

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Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

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Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

ロシア・バレエのスターの競演も華やかだ。キャストには、ボリショイ・バレエのエレオノーラ・セヴェナルドやデニス・ロヂキンといった人気プリンシパルのほか、ルジマトフの息子でマリインスキー・バレエのダレル・ルジマトフも出演している。

『カルメン組曲』でカルメンを踊ったのは、エレオノーラ・セヴェナルド。その美貌とスタイルが際立って、登場シーンから一枚の絵画のよう。デニス・ロヂキンとのペアで『シェヘラザード』よりアダージョにも出演し、ゾベイダと金の奴隷の踊りをなまめかしく表していた。
ミハイロフスキー劇場バレエ プリンシパルのアンジェリーナ・ヴォロンツォーワとニキータ・チェトヴェリコフは、『ドン・キホーテ』第三幕よりグラン・パ・ド・ドゥを披露。強靱な脚力で鮮やかな跳躍をみせ、キトリのフェッテは両手を腰に当てたままダブルを交え回り切る。テクニックの充実したペアで、これでもかと次々技を繰り広げ、大きな拍手をさらっていた。

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『海賊』Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

ボリショイ・バレエ リーディングソリストの千野円句、バイエルン国立バレエ プリンシパルのクセニア・シェフツォーワ、ダレル・ルジマトフは、『海賊』よりメドーラとコンラッド、アリのグラン・パ・ド・トロワに出演。目を引いたのが千野のアリで、しなる跳躍が技量の高さを感じさせた。コンラッドに扮したダレルは190㎝の長身と長い手脚に恵まれたダンサーで、ステージによく映え、健やかな踊りとはにかむような笑顔が初々しく微笑ましい。
ダレルは続いてニコライ・アンドロソフ振付『追憶』に出演。過ぎ去った幼少期の思い出を描いたソロ作品で、ルジマトフの60歳の記念にサプライズで上演され、今回ルジマトフの希望により日本初演を迎えている。薄闇のなか、ダレルは父に捧げるかのようにひたむきに踊る。まだダンサーとしてのキャリアは浅いが、臆することない舞台度胸は父譲りか。陽性の気質を持つダレルだが、ひとたび笑顔を封印すると、父・ルジマトフの面影と重なってみえた。

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『海賊』Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

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『追憶』Photo: Hidemi Seto ©KORANSHA

ラストはダンサーたちがフェッテ合戦で盛り上げ、会場の熱は最高潮に。そんななかカーテンコールでルジマトフがあらわれると、ステージは彼の独壇場と化していく。レベランス一つで視線をうばい、スタンディングオベーションを巻き起こす。ファイナルと銘打つも、一時代を築いたカリスマはいまだ健在で、その衰えぬオーラを改めて感じた。
(新宿文化センター 大ホール)

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