「BALLET TheNewClassic2026」スペシャル・トークイベントがチャコット代官山本店で開催された
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
小野寺 悦子 Text by Etsuko Onodera
"TheNewClassic=新しい定番"をコンセプトに、バレエの伝統と現代のクリエイティブを融合させた舞台シリーズ「BALLET TheNewClassic」。2020年に写真家・井上ユミコとバレエダンサー・堀内將平によって始動したプロジェクトで、意表を突く演目と演出、豪華ダンサーの顔ぶれで話題を呼び、2022年の第1弾、2024年の第2弾公演はいずれも全席完売を果たしている。
この夏の第3弾公演には、飯島望未、太田倫功(ボルドー・オペラ座バレエ団 エトワール)、佐々晴香(ベルリン国立バレエ団 プリンシパル)、ソ・ユンジョン(アメリカン・バレエ・シアター アーティスト)、中島瑞生(新国立劇場バレエ団 ファースト・アーティスト)、中村祥子(K-BALLET TOKYO 名誉プリンシパル)、南江祐生(東京バレエ団 セカンドソリスト)、三森健太朗(ウィーン国立バレエ団 プリンシパル)、日髙世菜(K-BALLET TOKYO プリンシパル)、三宅啄未(アメリカン・バレエ・シアター ソリスト)、横山瑠華(ドイツ、テューリンゲン州立バレエ プリンシパル)、吉山シャール・ルイ(スイス、チューリッヒ・バレエ プリンシパル)ら、世界各地で活躍する12名のトップダンサーが集結し、大きな注目を集めている。
チャコット代官山本店で開催されたスペシャル・トークイベントには、「BALLET TheNewClassic」ディレクターでバレエフォトグラファーの井上ユミコと、ヒューストン・バレエとK-BALLET TOKYOプリンシパルを経て現在フリーダンサーとして活躍する飯島望未、公益社団法人日本バレエ協会名誉会長の岡本佳津子が登場。「バレエのこれまでと、これから」をテーマに、異なる三者の立場からバレエにかける想いを語った。
――バレエとの出会いと、バレエにハマったきっかけについて。

岡本 バレエに出会って76年になります。親が音楽に親しむものを習わせたいと私を連れて行ったのが橘バレエ学校で、当時は新橋田村町というところにありました。バレエを通して子供たちを教育する橘秋子先生の愛情のあり方に、うちの両親が惹かれたのだと思います。だから、バレエにハマったわけではなかったんです。しかたなく行ってました(笑)。初舞台は有楽座で、子ヤギを踊っています。子ヤギは4匹いて、4人で踊らなければいけないのに、私だけ真ん中に行ってガンガン踊っちゃった(笑)。それを見た祖母が、この子は舞台に向いているかもしれないと言ったそうです。
飯島 小さい頃は猫背で、姿勢を矯正するために親に地元の教室に連れていかれました。体験レッスンを受けたのですが、私はすごく負けず嫌いだったので、周りの子たちができて自分ができないのがすごく嫌で。絶対にこの子たちより上手くなりたいと言って、教室に通い始めました。
井上 10年前、「エトワール・ガラ」のリハーサルに潜入取材をしたのがきっかけでした。それまでは全くバレエに興味がなくて、むしろ今時お姫様や王子様の踊りを観るのか、という違和感すら感じていたんです。けれど稽古場でダンサーを撮っていたら、なんて美しいのだろうと思って、目から鱗でした。いろいろなものをはぎ取った後に残る、その存在そのものが芸術なんだと感じ、そこに心を動かされて。それ以来、すっかりバレエ沼にハマっています。なので、佳津子先生や望未ちゃんのようなダンサーの存在が、私の人生を180度変えてしまったと言っても過言ではないと思っています。
――これからの日本のバレエについて、発展させていくにはどうしたらいいか。
岡本 まずは少子化が問題だと思います。それに以前は女の子が生まれればバレエやピアノを習わせて、という時代もあったけれど、今はスポーツだったり、いろいろ選択肢が増えていますよね。子供が減っている中でバレエが廃れてしまわないようにすること。あと今は劇場が少ないということでみなさん悩んでいて、自治体、国、県などいろいろなところがもっと応援してくれればいいなと思っています。

飯島 やはり教育の問題になってくるのかもしれないですね。例えば、ヒューストン・バレエは、『くるみ割り人形』シーズンには何日間か学生を招いてパフォーマンスをする日が毎年あって、そういう機会がもっと日本にもあればいいなと思います。あとアメリカのように、日本も各バレエ団に寄付してくださる企業が増えたらいいなと思っていて。帰国したときは一種のカルチャーショックがありました。お給料の面だったり、カンパニーのシステム自体が全然違うので。バレエにだけ集中して踊れる環境は、現状日本では難しい。ダンサーのためにも、大きな企業がバレエに興味を持ってくれればいいなという願いがあります。
井上 なぜアメリカの企業が寄付ができるのかというと、それが節税になるそうです。けれど日本の場合は寄付をしても税金対策にはならない。制度が変わると、もしかしたら積極的にみんなが寄付してくれるかもしれないですね。
岡本 バレエをやっていても、いろいろな事情で途中で辞めてしまうことも多いですよね。今バレエをやっている子供たちが、大人になってもバレエを続けられるように、好きなことで生きていけるようにしたい。途中で辞めずに生きていける工夫はないかなって、今少しずつ考えていて。バレエだけでなく、好きなことで生きていけるのが1番幸せだと思っています。
――バレエの未来に繋げるために、インフルエンサーやモデル活動、公演のプロデュース活動を通して何ができるか。
飯島 最初はただただファッションが好きで、ファッションをInstagramで発信していただけでした。それを編集者の方が見て、雑誌に呼んでくださったのがきっかけです。でもそこで、ファッションの方々の中には全然バレエを観たことがない、知らない方がすごく多いのを知り、ショックを受けて。歴史をたどると、シャネルがパリ・オペラ座の衣裳をデザインしたり、バレエとファッションは切っても切れない縁で繋がってる。でも、日本のファッションの方々はバレエを観たことのない方が多かった。ファッションを通して、私がバレエを広めていけるのならと思って......。実際にInstagramを見て公演に来た方がK-BALLET TOKYOの箱推しになったり、そこから派生していろいろなバレエダンサーを観に行くことも多くなったので、すごくうれしいですね。

井上 私はバレエ自体にとてつもないポテンシャルがあると感じていて。音楽、照明、衣裳、踊り、振付をとっても、たくさんこだわれるポイントがある。いろいろな人が関わるほど豊かになる器の広い芸術で、他にはないのではないかというくらい、潜在能力を感じています。いい未来しか私には描けてなくて、そのビジョンを1個1個形にしようと思って活動しています。
――これまでもこれからも変わらないバレエが持つ力とは。
岡本 クラシックバレエのクラスはどこの国に行っても同じ。だから言葉がなくても通じます。それからどんな踊りをするにしてもクラシックバレエをしていれば大丈夫。人生においても学ぶことがいっぱいあります。なのでバレエに携わってよかったと、私は思っています。
飯島 他のジャンルのダンスの方とお話すると、ダンス界でバレエが頂点だとみんな言うんですよね。それってすごいことだと思っていて。バレエの厳しさや世界観は唯一無二だし、今まで培ってきた何百年の歴史がある。佳津子先生たちが作ってきた歴史があって、それを私たちが変えないためにも、変えていかなければいけない部分もある。バレエの力ってなんぞやと明確には言えないけれど、踊る人たちから生み出される、この身体から生まれるパワーはすごいものだと思うので、それを素直に感じてくださったらうれしいです。
井上 ダンサーは感動を届けるために、お酒や遊びを控え、パフォーマンスのために毎日朝のクラスを頑張っている。一流のダンサーになるためにはものすごく時間と積み重ねが必要で、ダンサーには時間が足りなすぎる。私自身は、そんなダンサーたちのかっこよさを伝えていく役目ができたらいいなって思っていて。バレエに魅了された者として、これから頑張っていこうと思います。
――「BALLET TheNewClassic」上演に向けて。
飯島 「BALLET TheNewClassic」はすごくこだわっているけれど、全部ミニマルなんですよね。衣裳もそうだし、セットも、照明もそう。だからダンサーは全て剥ぎ取られ、裸になった気分になる。そういう意味でもすごく緊張感があるし、今の等身大の自分を全てをさらけ出す感じがしています。私が今挑んでいる作品は、自分の身体からボキャブラリーやクリエイティビティを出さなければいけなくて。どうやって自分の踊りに自分のクリエイティビティを消化していけばいいか、今模索中です。
岡本 あまり考えようとしない方がいいかもしれないですね。
飯島 感じる、ということですよね。
井上 考えなくてもいい。でも考えちゃいますよね、新たなものを作っていると、考えることがいっぱいあって、それは自分を成長させてくれるなって感じています。私は喜んで向き合っているけど、そこに巻き込まれる望未ちゃんたちは大変かも(笑)。
飯島 私は自由な感じに思われがちなんですけど、舞台の上では結構考えながら踊っていて。演技の部分でも、この角度でこのスピードで振り向くとか、目線の使い方とか、全て決めてやっています。ただ今回は真逆のことをしているので大変ですね。
岡本 いいですね。今回の経験を経て、また次のクラシックがもっと良くなると思います。
飯島 殻を破るじゃないけれど、内側から出るものを、自分の何かを信じたいと思います。
岡本 振付けをする方によっても自分が変わりますよね。それは経験だから、違った面が出てくれば、また自分も踊ることが楽しくなるかもしれない。
井上 望未ちゃんも、他のバレエダンサーもみんなそうだけど、私たちがこれは面白いと思って立ち上げた企画に、こうやって横に並んで走ってくれる、こうやって真剣に向き合ってくれることに、私はいつも感動しています。一緒に仕事ができる仲間に出会えたことが、幸せだなって思います。
POLA presents BALLET TheNewClassic 2026
2026年7月30日(木)~8月2日(日)全6公演
新国立劇場・中劇場
https://www.balletthenewclassic.tokyo/
記事の文章および具体的内容を無断で使用することを禁じます。