ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.05.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
最近の舞台で印象に残った踊りがふたつある。そのひとつは東京バレエ団の斎藤友佳理芸術監督が指導した『ラ・シルフィード』の群舞。まことに見事なバレエ・ブランに相応しい群舞だった。私は比較的多くのバレエの舞台を観てきたが、ボリショイ・バレエの『ジゼル』2幕でも味わったことはない希有の体験を得た。ただ単にヴィジュアルとして観た、というのとは異なった、一人の観客として全身で『ラ・シルフィード』の群舞を体験したのだ。音楽に伴われてふわっとした白い雲に包まれ、別世界へと運ばれた。群舞の繊細なフェザータッチに酔ったのだ思う。舞台の詳しい紹介は佐々木三重子さんが書いてくださっているので、読んでいただきたい。
もうひとつは、松山バレエ団の『ロミオとジュリエット』で踊った森下洋子のジュリエット。パリスとの結婚を両親から迫られて追いつめられ、神父の計らいで窮地を脱したはずだった。にもかかわらず仮死に陥る秘薬から目覚めた時には最愛の人の死体と抱き合っていた・・・。小柄な森下ジュリエットは、全世界と1歩も引かず立派に闘い抜いたという凄絶な存在感を表わしていた。
日本のバレエにはまだまだ多くの宝物が埋まっている。もっと広く良く観て深く体験し、洞察していかなければならない、と改めて思った。

米沢唯、木村優里、池田理沙子のバレエ・プリンセスが踊り、バレエの美しさと楽しさを表わした

「Ballet Princess 〜バレエの世界のお姫様たち〜」
伊藤範子:演出・振付、チャコット株式会社:主催・企画制作

3人の王女さまを主人公にしたバレエ「Ballet Princess」が、バレエ鑑賞普及啓発公演として上演された。
最近は、クラシック・バレエを分かり易く子供向きにアレンジして上演する舞台が多くなってきている。バレエで描かれるほとんどの物語は、特別難しいものではなく、一般に良く知られているものが多い。しかし、言葉を使わずに身体の動きで表現を作るバレエは、言葉で理解する習慣に馴れていると、最初は少々戸惑ってしまう。そのために開幕前の時間を有効に使って、バレエのマイムが表わす意味を経験豊かなバレエダンサーが解説する、といった試みもしばしば行われている。それも確かにひとつの方法であり、バレエ鑑賞の一助になるだろう。しかし、本来バレエのマイムは音楽と一体となって表現されるものだから、それを言葉に還元して理解しただけでは、バレエを完全に理解したことにはならないとも言える。
「Ballet Princess 〜バレエの世界のお姫様たち〜」は、バレエを美しく楽しいと感じる心に寄り添い、さらに発展させていく舞台を創る、という企画である。最初の啓発公演である今回は、バレエの世界で輝く大きな星「バレエ・プリンセス」を代表する3人の姫君を、ひとつの物語として構成し上演した。演出・振付は、谷桃子バレエ団のシニアプリンシパルで、近年、気鋭の振付家として注目を集めている伊藤範子。

tokyo1605a_01.jpg 米沢唯、木村優里、池田理沙子 撮影/瀬戸秀美(すべて)

3人の「バレエ・プリンセス」は、上演順に白雪姫が木村優里、シンデレラが池田理沙子、「眠れる森の美女」のオーロラ姫を米沢唯が踊った。そして3人のプリンセスと対立する悪役(ヴィラン、「白雪姫」は王妃、「シンデレラ」では義母、「眠れる森の美女」はカラボス)は、高岸直樹が通して演じた。王子役は「白雪姫」には登場しないが、「シンデレラ」の王子は橋本直樹、「眠れる森の美女」の王子は浅田良和が踊り、リラの精は長田佳世が踊った。三つのバレエ物語を通して「経験」する夢見る少女アンは大谷莉々、青い鳥のパ・ド・ドゥは五十嵐愛梨とニ山治雄が踊った。そしてバレエの美しさと楽しさを分かり易く凝縮したことが功を奏したのか、会場は満員となっていた。

tokyo1605a_02.jpg 木村優里

まず、満員の観客が沸いたのは、木村優里の白雪姫の若さに溢れ、身体のすべてを使ったのびのびとしたおおらかな踊りだった。七人の小人たちが長身の木村と踊って微笑ましい雰囲気も醸した。木村は新国立劇場の研修所を2015年に修了するとすぐにソリストとしてバレエ団に入団。『白鳥の湖』のルースカヤ役で華やかな踊りを見せて注目を集め、『くるみ割り人形』で金平糖の精を踊って主役デビュー。5月7日には『ドン・キホーテ』のキトリを踊り大きな喝采を浴びている。
シンデレラを踊った池田理沙子は、無理なく自然にシンデレラを演じることができる佇まいのダンサー。清楚な少女らしい容姿で、橋本直樹の王子と踊り、爽やかな一幅の絵になった。池田はユース・アメリカ・グランプリのニューヨーク・ファイナルで銅メダルを獲得した他、多くのコンクールで入賞を果たしている。

tokyo1605a_08.jpg 米沢唯、浅田良和

米沢唯が踊ったオーロラ姫は、大輪の花のように堂々としていた。王子役のパートナー、浅田良和との息も合って物語の大団円を踊るのに相応しい演舞だった。米沢はヴァルナ国際バレエコンクールのジュニアの部で1位に入賞したキャリアを持つ。言うまでもないが、新国立劇場バレエ団のプリンシパル・ダンサーとしてファースト・キャストを務める機会も多い。そのほか、やはりフロリナ姫の五十嵐の明快な表現とブルーバードの二山の安定感のある踊りが印象に残った。
音楽は「シンデレラ」はプロコフィエフ、「眠れる森の美女」はチャイコフスキーの曲を使い、代表的な曲がない「白雪姫」は、初期のバレエ・リュスで活躍したニコライ・チェレプニンの『アルミードの館』を中心にして構成しているが、全体の流れは良かったと思う。
(2016年3月31日 新宿文化センター 大ホール)

tokyo1605a_03.jpg 池田理沙子 tokyo1605a_04.jpg 池田理沙子、橋本直樹
tokyo1605a_05.jpg 大谷莉々、長田佳世、高岸直樹 tokyo1605a_06.jpg ニ山治雄
tokyo1605a_07.jpg 米沢唯、浅田良和  撮影/瀬戸秀美(すべて)※クリックで拡大します