ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.04.12]

スペインの伝統楽器チャラパルタ、伝承されたアイヌの唄、ルーツの異なるダンスが渾然と融合した舞台

『HYBRID Rhythm & Dance』新国立劇場バレエ
平山素子:演出・振付・出演、小尻健太、OBA、鈴木竜、皆川まゆむ、西山友貴:出演

平山素子の演出・振付による新国立劇場の『HYBRID Rhythm & Dance』を観た。音楽はスペイン、バスク地方の伝統的打楽器チャラパルタを操るオレカTX(4人のグループ)とアイヌに伝承される唄を唄い続けている床絵美。ダンスは平山自身とともに「ルーツが異なる」5人のダンサーたちが踊った。まさに異種混合、今日流行の「コラボレーション」とはまた趣の異なった舞台だった。

tokyo1604d_0049.jpg 撮影:鹿摩隆司(すべて)

舞台は、1メートル余の高さの正方形の黒いテーブルをいくつかぴったりとくっつけられていて、ちょうど桟橋が客席の中央にに向かって伸びてきているようなダイナミックな装置が組まれていた。一見したところでは、それが組み合わされたもので、それぞれのピースに可動性があるとは見えない。
正方形のスポットライトが点滅する中、桟橋状のテーブルの上を一人のダンサーが客席に向かって走り出てきて跳び下り、ダンスが始まった。
ダンサー自身とスタッフがテーブルを自在に移動し、一つのテーブルを1コマとしたり、あるいは随時組み合わせて、舞台上に様々な空間を次々に作って踊る。楽器も奏者とともに、しばしば場所を変えるし変えながら演奏する。床絵美も唄いながら移動する。
ダンスはいくつか集められたテーブルの上あるいは下でも、フロアでもソロ、デュオ、トリオ、男性ダンサー同士3人、女性ダンサー同士3人など自由に組み合わせられて 繰り広げられる。音楽もそれぞれに重なったり、独立して唄われたり演奏されたり様々。自由自在の展開の中で、それぞれの空間を縫い合わせるように要所要所で平山が踊って、全体の流れが作られていく。その様子がたいへん興味を惹いた。

オレカTXの演奏もまた多様だ。メインの楽器チャラパルタはマリンバに似た木琴だが、一見したところ大きめの木炭ような素朴で剥き出しの材質感のある鍵盤が印象的。もう一種類の木琴があり、こちらは表面をきれいに整え、ニスを塗ったようだった。これをマリンバのようにマレットで打つのではなく、2本のすりこ木のような木の棒で縦に突いて音を出す。すりこ木同士も打ち合わせてリズムをとる。楽器を間に置き、二人で向き合って立ち同時に演奏する。そしてこの楽器にはキャスターが付いていて移動する。劇中で平山がこの鍵盤の上に立って踊り移動しつつ演奏する、という離れ技も披露していた(写真参照)。音質はやや高目で洞窟の中で水滴が落ちる音のような清らかなもの。
そして伝統的な縦笛、時折サキソフォン、ギターのような弦楽器も参加する。そのほかにも世界各地で演奏会をするたびに、様々な民族楽器を取り込んで使っているのだそうだ。今回は、それを床絵美が使ったりして独特のサウンドを織り込んでいた。
床絵美の唄もまた良かった。声を張り上げることなく、語るように繰り返し、その繰り返しが自ずと、太陽が出て沈み月が出て沈む、といった自然のリズムと共鳴していた。
ダンスではルーツの異なる男性ダンサー3人の踊りが、次第にイノセントな子どもの遊びのようになって行くところなどもおもしろかった。中でも最も美しかったのは、舞台奥に横一列に並べたテーブルの上を、平山が床絵美と共に移動しながら踊るシーン。床絵美の唄とオレカの演奏と平山の動きが絡み合い、ひとつの生き物のような生命力を表わして神々しく、すこぶる美しかった。そして最後は、舞台は始まりの時と同じ桟橋状となって、前面中央でオレカが演奏し床絵美が唄い、桟橋状のテーブル上にダンサー全員が縦に並んで踊って、エンディングを迎えた。それは見事な構図でバランスもまた、素晴らしかった。
こうした初めて耳にするサウンドと唄とダンスが描く動きが渾然として、自然と共鳴していた幼い日々の温もりに包まれたような、心に響く不思議な体験をさせてもらった。このような異種の多様なファクターを混淆させつつ、巧みにひとつの舞台へと表す能力には、驚き感心した。
(2016年3月25日 新国立劇場 中劇場)

tokyo1604d_0072.jpg tokyo1604d_0194.jpg
tokyo1604d_0619.jpg 『Hybrid- Rhythm & Dance』撮影:鹿摩隆司