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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2016.03.10]

スペインの風土にコミットしカルメンの野性に迫った、金森穣の劇的舞踊『カルメン』

Noism1 × Noism2
『CARMEN』劇的舞踊『カルメン』金森穣:演出振付

ノイズム1とノイズム2の合同公演、劇的舞踊『カルメン』が再演された。音楽はジョルジュ・ビゼー作曲『カルメン』のオペラ、組曲、交響曲からピックアップして使用されている。

tokyo1603d_0610.jpg カルメン/野性の女(井関佐和子)
Photo:Kishin Shinoyama

劇的舞踊と言うことで、象徴的な装置、シルエット映像、語り手のセリフなどで、それぞれのシーンを構成し、舞踊表現によりストーリーを展開していく。マッツ・エック(シルヴィ・ギエムの主演の『カルメン』を振付けた)などの表現手法と通底するところがあるのではないか、と感じられた。
『カルメン』は、オペラや映画はもとより、舞踊としてもクラシック・バレエをベースとしたもの、あるいはコンテンポラリー・ダンスでも題材とされている。そのそれぞれの振付家、演出家が工夫を凝らしているのだが、金森穣は、原作小説に立ち返り、ジプシーの研究のためにスペインを訪れた考古学者(奥野晃士)が、死刑前日の受刑者ホセ(中川賢)が語った回想を聞く、という手法に忠実に舞踊化している。もちろん、原作を尊重しているが、一度、解体して自身の目により再構築して描いている。登場人物もあまり重要とも思われない役にも性格付けを行い、舞踊表現に生かし、状況と絡ませている。
また、スペインのジプシーたちの物語という原典に深くコミットして、表現に生かしている。音楽の選択はかなり自在だが的確に感じられた。また、その場にある小道具を叩いたりする音、カスタネットやタンバリンの音も巧みに組み入れるフラメンコの流儀に従い、息づく臨場感のあるリズムを味わわせてくれた。重要な小道具の銃は、当時のスペイン竜騎兵たちの遊び道具(銃の形に似ている)を使うなど、ドラマの背景にも様々の工夫をしてスペインの風土と情念の造形を試みている。
人物の配置もドラマとのバランスがよい。多くはエスカミリオとして登場する闘牛士は、原作の通りリュカス(吉﨑裕哉)とし、あまり出番は多くはない。しかし、登場シーンは鳴り物入りの派手なもので、ベジャールの輝かしい男性ダンサーの登場シーンを彷彿させるものがあった。また、リュカスが天に吊した巨大な牛の落下によりおしつぶされるシーンは、ピカドール(闘牛士)の心に宿る恐怖を劇的に表現して迫真力があった。

tokyo1603d_0971.jpg Photo:Kishin Shinoyama tokyo1603d_1135.jpg ホセ/理性の男(中川賢)
Photo:Kishin Shinoyama

カルメン(井関佐和子)の対照的存在であるホセの婚約者のミカエラ(石原悠子)は原作小説には登場しないが、かなり比重を置いて描き、カルメンの生き方を際立たせている。また、カルメンの乳母ともいう謎の老婆ドロッテ(池ケ谷奏)をしばしば登場させる。彼女はカルメンとホセの「運命」を暗示する存在でのようだ。そのほかホセの上官スニガ(佐藤琢哉)同郷の男ロンガ(チェン・リンイ)異父姉メルセデス(梶田留以)異父妹フラスキータ(田中須和子)などホセを巡る人物、カルメンの前の夫ガルシア(山田勇気)仇敵の女マヌエリータ(飯田利奈子)といったカルメンを位置づける登場人物も配されている。
「野性の女」と定義づけられている井関佐和子のカルメンは、登場人物全員を支配するかのようにエネルギッシュに踊り、強い印象を残した。ただ、ここで表現された野生とはどういうものなのだろうか。
公演パンフレットには「近代化以前の失われた身体感覚に関心が向かっていて、生の血肉を感じさせる野性性のある表現に惹かれています」という金森のコメントも引用されていた。それがカルメンという舞踊の中の登場人物としてに立ち現れてきて、今日生きているわれわれの存在とどうかかわるのだろうか。
現代人の意識下に蠢くもの、それは神か野性か、次作の『ラ・バヤデール』に期待したい。
(2016年2月19日 KAAT 神奈川芸術劇場)

tokyo1603d_1285.jpg ミカエラ/許嫁の女(石原悠子)
Photo:Kishin Shinoyama
tokyo1603d_2843.jpg 学者/博識の老人(奥野晃士)
Photo:Kishin Shinoyama
tokyo1603d_1425.jpg Photo:Kishin Shinoyama tokyo1603d_2795.jpg Photo:Kishin Shinoyama