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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2015.03.10]

「夜の女王」を核に据えて読み直した衝撃的なマイヨーの『白鳥の湖』、モンテカルロ・バレエ団

モナコ公国モンテカルロ・バレエ団
『LAC〜白鳥の湖〜』ジャン=クリストフ・マイヨー:振付

来演のたびに衝撃的な作品を披露してきた鬼才ジャン=クリストフ・マイヨー率いるモンテカルロ・バレエ団。3年振り7度目の来日となった今回の演目は、古典名作『白鳥の湖』を基に、マイヨーが2011年に振付けた『LAC〜白鳥の湖〜』である。これまで上演された『シンデレラ』や『ラ・ベル(眠れる森の美女)』からもうかがえるように、マイヨーは古典作品を読み直して大胆な解釈を加え、斬新な演出を施し、新たな生命を吹き込んできた。『LAC〜白鳥の湖〜』もその例にもれず、衝撃的だった。これまでと異なるのは、ドラマトゥルギーをフランスのゴンクール賞受賞作家ジャン・ルオーに委ねたことで、共同作業の形で進められたという。
王子が白鳥の姿に変えられた娘に永遠の愛を誓って救おうとするが、悪魔ロットバルトが自分の娘を黒鳥に仕立てて邪魔するという大まかなストーリーラインは受け継ぎながら、悪魔の代わりに「夜の女王」を登場させ、物語を牽引するほどの役割を与えているのが大きな特色だろう。従来ない王子の父である王も登場するが、主体性に乏しく、存在感は薄い。第1幕の後に休憩を入れ、第2幕と3幕を続けて上演する構成で、前半50分、後半50分という、スピーディーな凝縮された展開だった。

tokyo1503b01.jpg 撮影:長谷川清徳

プロローグとして、王と王妃と幼い王子の楽しげなピクニックや、王子と純粋な少女の仲睦まじい様子が投影される。そこに夜の女王が入り込み、自分の娘を王子と遊ばせようとするが、王子が拒むのに腹を立て、純粋な少女をさらって去る。幕が開くと、王が成人した王子を熱心に教育している。シンプルだがカラフルな衣裳の狩人たちによるパワフルな群舞や、王子との結婚を望む「虚栄心の強い女」や「貪欲な女」たちの個性的なダンスに続き、夜の女王が娘の黒鳥を伴って乱入すると舞踏会の雰囲気は一変。黒鳥は王子と踊り、夜の女王はこれみよがしに王と組んで踊り、王妃は自分の地位が脅かされていると心穏やかでない。王子は昔の純粋な少女を思い出し、全ての人を遠ざけて、第1幕が終わる。

第2幕は夜の森。王子は白鳥の姿から人間に戻ったかつての少女と再会し、愛を確かめる。白鳥の時は羽の付いた手袋をはめ、人間の姿に戻った時と描き分けているが、手袋の先端の羽の動きも表情豊かだった。驚異的なパワーを放つ夜の女王や、不気味でアグレッシブな群舞をみせる白鳥の姿のキマイラ(怪物)たちは、愛し合う二人と対照的に描かれる。第3幕の前半は王子が花嫁を選ぶ舞踏会だが、各国の花嫁候補は登場せず、華やかな民族舞踊もない。王と王妃のデュエットの後、夜の女王が白鳥を伴って現れる。王子が羽の仮面を付けた白鳥を夜の女王の娘と気付かずに花嫁に決めると、本物の白鳥が登場。嘆く白鳥を追って王子は去り、王妃は黒鳥に襲いかかる。幕前で夜の女王が踊る強靭なソロが森のシーンへ場をつなぐ。夜の女王は王子たちをいたぶるが、王と王妃によって運びこまれた黒鳥の亡骸を見ると、逆上して王子と白鳥に襲いかかる。黒い布が下りてきて舞台をのみ込み、再び上がると、すべては消え去っている。救いようのなさが残る幕切れだった。

tokyo1503b04.jpg 撮影:長谷川清徳

マイヨーの『LAC〜白鳥の湖〜』は、伝統的な『白鳥の湖』に特有なロマンティックな美しさや幻想性を排している。王子の成長や白鳥との無垢な愛を描いてはいるが、ロットバルトの代わりに設定した夜の女王に陰の主人公のような役割を与え、物語を複層的にした。夜の女王は娘の黒鳥を使って王子の心をとらえ、自身は王を王妃から奪おうともくろむが、すべての発端はかつてピクニックで自分や娘が拒否されたことにあり、その時の恨みや憎しみが積もり積もって最終的に悲劇を生むことなる。それを助長するのが、王妃が夜の女王に対して募らせる嫉妬や憎しみという構図である。この強い二人の女性に比べて、夜の女王に容易になびきもする王はなんと不甲斐ない存在か。全体を通じて、生々しい人間関係の縮図のようにもみえてくる。憎しみの連鎖が報復へと転じる怖さは、組織や国家の間での闘争が激化している今日、より一層リアルに感じられた。

夜の女王のモード・サボランは、身体のすみずみまで神経を尖らせ、鋭く逞しい踊りと演技で心の内を雄弁に伝え、対する王妃役の小池ミモザは激しく揺れる心を表面は抑えながら、王と激しいデュオを展開したりもした。ステファン・ボルゴンは心も身体もしなやかに、ナイーブな王子を好演。白鳥のアニヤ・ベーレントは、頼りなげな一面をみせながら、脚さばきはどこまでも力強い。黒鳥のエイプリル・バールは、つま先にまで意志をこめ、挑発的で野性味のある踊りで終始した。マイヨー版では王子の相談役でもある友人が登場するが、これを務めたのが若手の加藤三希央。やや小柄だが小回りが利く存在で、力強いジャンプをみせた。それにしても、マイヨーのダンサーたちは女性も男性もシャープで、実によく踊る。オペラにおける楽劇のように、踊りを途切らせることなくドラマを綴っていくマイヨーの手法に応えるように、躍動感溢れる踊りをエネルギッシュにこなしていた。
(2015年2月27日 東京文化会館)

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tokyo1503b05.jpg 『LAC〜白鳥の湖〜』撮影:長谷川清徳(すべて)