「Jewels from MIZUKA 2025ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」について上野水香が語る「神奈川県民ホールに感謝の気持ちを込めて踊りたい」
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インタビュー=香月 圭
神奈川県民ホールは令和7年1月に開館50年を迎え、記念公演として「かながわ観光親善大使」で東京バレエ団ゲスト・プリンシパルの上野水香プロデュース・出演によるバレエ・ガラ公演「Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」を3月8日(土)に開催する。2014年、2018年に続いて第3回目となる今回の公演で、上野は『ドン・キホーテ』、ベジャール振付『ルナ』を新たに披露、ブラウリオ・アルバレス振付の新作『パリのアメリカ人』を厚地康雄と踊るほか、元宝塚雪組トップスターの柚希礼音と共に辻本知彦振付作品に挑む(辻本の「辻」は正しくは一点しんにょう)。神奈川県民ホールは3月末をもって休館するが、その前イベントとして令和7年3月に県主催で実施する「ありがとう神奈川県民ホール」のメイン公演としても実施される公演について、上野に語ってもらった。
――バレエ発祥の地、鎌倉市のお生まれですね。
© KAYOKO ASAI
上野 はい。15歳のとき、ローザンヌ国際バレエコンクールで賞をいただいて、朝日新聞の取材で七里ガ浜の海岸に撮影に行ったときに、その記者の方から「七里ガ浜のまさにこの場所にエリアナ・パヴロワさんがバレエ学校を開校されました。それが日本のバレエ発祥だったのです」というお話を初めて伺いました。ローザンヌがきっかけで自分の出身地がバレエの発祥の地であったことを知り、強く印象に残っています。バレエは成功するということが難しいものです。プロのダンサーになるためには厳しい環境が続きますし、日本ではプロになっても経済的には良くはなりづらい状況です。辞めたほうが良いのではないかと悩んだり、実際に「バレエを辞めます」と宣言したりと色々なことがありましたが、子どものときから踊る方向に運命が勝手に向いていったように思います。自分とバレエの間には、きっと運命的な何かがあるに違いないと思って、神様に感謝しております。
――神奈川県民ホールで海外のカンパニーの来日公演や日本を代表するバレエ団など数々の公演をここでご覧になったそうですが、印象に残っている公演について教えてください。
上野 一番印象に残っているのは、まだバレエを始めて間もない頃、当時のキーロフ・バレエ団、今のマリインスキー・バレエ団が来日し、母が私を神奈川県民ホールへ連れていってくれて、『ジゼル』を2列目3列目ぐらいの席で観たことです。そのときの主役が、アスィルムラートワとルジマートフだったのです。彼女が登場したときに、オーラと可愛らしさが同居していて、とても素敵だと思いました。一幕の最後にアルブレヒトに裏切られたとき、ジゼルがキラキラ輝いているほど最後が可哀想だ、と子供心にもすでに感じていました。「すごいバレエだな」と圧倒されて、次の二幕のことはほとんど覚えてないくらいです。
もう一つは、(牧阿佐美バレヱ団の)A.M.ステューデンツに通っていたとき、牧阿佐美バレヱ団の舞台のご案内をいただいてよく見ていました。小学校4年生くらいのときに神奈川県民ホールで観た『くるみ割り人形』は、クララやケーキ・ボンボン、コックさんなど子どもたちが大勢出る夢一杯のバージョンで、とても楽しめました。ちょうどその日の舞台がNHKで収録されたので、その映像を何度も見ました。時が経ち、自分が神奈川県民ホールでクララを演じることになったときも、そのビデオを見返しました。舞台裏の風景やインタビューの映像もあり、川口ゆり子先生が鏡の前で何かチェックなさっている様子が映っていて、いまでもその鏡の前を通りかかるたびに ゆり子先生を思い出します。
――プロとして踊るようになってから神奈川県民ホールの公演に出演を続けてこられました。この劇場に出演された中で、印象に残っていることや思い出深い舞台について教えてください。
上野 たくさんありますが、最近ではやはり「Jewels from MIZUKA ジュエルズ・フロム・ミズカ」と「ファンタスティック・ガラコンサート」が、神奈川県民ホールでの私の重要な舞台になっています。「ファンタスティック...」は毎年開催されるので、 今となっては、ないと年が越せないぐらいです。だから、神奈川県民ホールがなくなると寂しくなると思います。「ジュエルズ・フロム・ミズカ」は私自身の名を冠として初めて開催させていただいた舞台なので、やはりとても大事で、とても印象に残っています。
――「Jewels from MIZUKA 2025ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」は今年1月に開館50年を迎え、3月に惜しまれつつ休館する神奈川県民ホールに向けて「ありがとう神奈川県民ホール」のメイン公演に位置づけられます。長年親しんできたこのホールに対して、どのような気持ちを込めて踊りますか。
上野 このイベント名のとおり、神奈川県民ホールには本当に感謝しております。地元にこんな素敵な劇場があったと改めて認識し、いつも神奈川県民ホールに見守っていただいているような、そんな感覚がありました。だから自分が関わっていないときでも神奈川県民ホールの近くを通ると必ずこのホールについて思いを馳せます。
このように、神奈川県民ホールは、私の中で大きな存在なので、神奈川県のみなさまへの感謝を込めて、昨年末は「ファンタスティック・ガラコンサート」をお届けしました。さらに、2月8日の『白鳥の湖』(マラーホフ版)、そして休館前のラストの出演となる3月8日の「Jewels from MIZUKA 2025ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」をお届けします。
© 平舘平
――ゲストとして国内外のガラ公演に出演する機会も多かったと思いますが、そういった体験から「こういうガラ公演にしたい」というご自身のアイデアが生まれていったのでしょうか。
上野 「ルグリと輝ける仲間たち」「マラーホフ・アンド・フレンズ」「シルヴィ・ギエム オン・ステージ」などに仲間として出演してきたので、それらを見て憧れていました。確かに「自分がやるのだったら、こうしたい」という思いもあったかもしれないですね。
――一緒に出演してくださるダンサーのなかで新しいスターを育てるという意味合いもありますか。
上野 永遠に私が踊り続けられるわけではありません。次なるスターがいたら、私はその人にぜひ色々なものを差し出してあげたいと思っています。今回の舞台に関しては、一回の舞台なので、その人を育てるところまではいかないのですが、前回、前々回のガラでも出演者の方々をコーチする機会もあり、今回もある程度コーチしていくと思います。彼らが自分らしい表現で、よりのびのびと踊ることで新たに自分自身のダンサーとしての良さを発見してもらえるような指南ができればと思います。
――元宝塚歌劇団星組トップスターの柚希礼音さんも出演されるのですね。
上野 はい。NHKの「スイッチインタビュー」という対談番組で共演したのがきっかけで、彼女のコンサートに呼んでいただいて、一緒に舞台に立たせていただいたこともあります。その中のレパートリーを「ぜひ舞台でやりたいね」という話を二人でしていたので、その企画が実現して、とても嬉しいです。辻本知彦さんの振付で、デュエットを踊ります。彼女は男役なので、私が女役みたいな役回りで、 普段のバレエとは違う世界をお見せできると思います。
――水香さんは憧れのシルヴィ・ギエムが踊ったモーリス・ベジャール振付『ルナ』を踊るそうですが、彼女が踊ったものとは異なる振付のビデオをモーリス・ベジャール・バレエ団元芸術監督ジル・ロマンさんから渡されたそうですね。
上野 はい。私が憧れたギエムが踊ったのと少し違うので、頭を切り替えて踊る必要がありますが、いただいたバージョンも深い味が出せるように感じますので、今の自分には合っているかなと思います。
――ジル・ロマンさんは『ルナ』の指導のほかに、吉岡美佳さんとパ・ド・ドゥ作品を踊る予定とのことですが、どんな作品でしょうか。
上野 はい。ジルの振付で、それほど長くはないですが、詩情あふれる作品です。その前に吉岡美佳さんが『ジュエルズ・フロム・ミズカ II』でも踊ったベジャールの小さなソロ『マヌーラ・ムー』を踊ります。その後、ジルが登場して自作のパ・ド・ドゥを踊ります。この二作は繋がりが感じられるような雰囲気をもっていたので、美しい詩を読んだときのような、ポエジーを感じる仕上がりになるのでは、と期待しております。
――元東京バレエ団のブラウリオ・アルバレスさんには『パリのアメリカ人』を振付けてもらうそうですが、どのような作品ですか。
上野 ニューヨークのブロードウェイで見たミュージカルがお気に入りで、ガーシュウィンの音楽も大好きなのです。子どもの頃、アダージオやブルースを用いた5分ぐらいの曲で恩師の小倉佐知子先生に作っていただいた『パリのアメリカ人』も大好きで思い出に残っています。大人の女性になった目線から、パリの街の洒脱な雰囲気をガーシュウィンの音楽であらためて表現できたらと思っています。
ブラウ(ブラウリオ・アルバレス)には作品をいろいろ作ってもらっていますが、私が彼の創作に参加すると、普段と違ったテイストになるのです(笑)。恐らく、彼にとって私の存在はインスピレーションになっているのではないかと思われます。ですから、彼との創作は毎回楽しいです。ブラウ自身も、いつもと異なる新鮮な展開を楽しんでくれるのだと思います。今回の『パリのアメリカ人』でも、そのようないい意味での化学反応が起こせるといいなと思っています。お相手は厚地康雄さんになりますが、新たな発見があるのではと、今から楽しみにしております。
「Jewels from MIZUKA 2014」より『ドン・キホーテ』
©Kiyonori Hasegawa
――岡崎隼也さんの振付作品はどのようなものでしょうか。
上野 一つは『春の祭典』の曲に合わせて、たくさんのダンサーが出る作品で、もう一作は『ロミオとジュリエット』の楽曲で2人の男女が踊ります。照明など舞台の演出についても彼は明確なプランを持っているようなので、楽しみにしています。
――中村祥子さんと厚地康雄さんによる『Andante』は、「NHKバレエの饗宴2022」で初演された金森穣さん振付のデュエット作品です。
上野 祥子さんといえば、やはり私の中ではずっと「大人のダンサー」なのです。私より年下ですが、ずっと大人なのです(笑)。そのような彼女の円熟味が、この作品にはすごく出ていたと思います。厚地康雄さんも美しいダンサーで、お二人が作る大人の世界をもう一度見たいという思いで出演をお願いしました。
――『コッペリア』より(サン=レオン振付)についても教えてください。
上野 『コッペリア』は東京バレエ団にないレパートリーなので、沖香菜子さんと秋元康臣さんの違った面が見せられるのではないでしょうか。沖さんが踊るスワニルダも、きっと可愛くて彼女に似合うのではないかと思います。
――リハーサルの映像も好評ですね。
上野 第2回のときは、色々なゲストがいらっしゃったので、キャストのリハーサルに訪ねていって私のiPhoneで撮影した映像を高橋竜太さんに送って、動画を作っていただきました。 上体だけにフォーカスして撮影をしたものです。 舞台上では皆さんの全身はよく見えますが、彼らの表情は実ははっきり見えにくいものです。「この作品の中では、ダンサーの方たちはこんな表情をしていますよ」といった、彼らの普段の表情を練習風景から切り取って、皆様にお見せしたいと思います。
――この公演を楽しみにしている方々へメッセージをお願いします。
上野 温かい公演にしたいです。アットホームで和むような、ダンサーの皆さんが伸びやかに踊り、お客様も終わったときにハッピーになれるような舞台にしたいと思っていますので、ぜひ楽しみにいらしてください。
〈ありがとう神奈川県民ホール〉
「Jewels from MIZUKA 2025ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」
2025/3/8(土) 15:00 開演 (14:15 開場)
神奈川県民ホール 大ホール
https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/jewels2025
問い合わせ:神奈川県民ホール 045-662-5901(代表)
残席僅少(当日券が出るかなどは、現状未定です)
■プログラム(順不同)
『ドン・キホーテ』より(マリウス・プティパ 振付)上野水香 東京バレエ団 ほか
『ルナ』(モーリス・ベジャール 振付)上野水香
『マヌーラ・ムー』(モーリス・ベジャール 振付)吉岡美佳
『瀕死の白鳥』(ミハイル・フォーキン 振付)中村祥子
『コッペリア』より(サン=レオン 振付)沖香菜子、秋元康臣
『グラン・パ・クラシック』(ヴィクトル・グゾフスキー 振付)涌田美紀、宮川新太
『ニヴァゲーション』よりパ・ド・ドゥ 〈日本初演〉(ジル・ロマン 振付)吉岡美佳、ジル・ロマン
『アンダンテ』(金森穣 振付)中村祥子、厚地康雄
『逢いたくていま』(辻本知彦 振付)上野水香、柚希礼音
『パリのアメリカ人』 〈新作初演〉(ブラウリオ・アルバレス 振付)上野水香、厚地康雄
『黒い瞳』(ブラウリオ・アルバレス 振付)政本絵美 ブラウリオ・アルバレス
『春の祭典』より第一部 大地の礼賛〈新作初演〉(岡崎隼也 振付)伝田陽美、三雲友里加、政本絵美、平木菜子、工桃子、安西くるみ、富田翔子
柄本弾、井福俊太郎、鳥海創、山仁尚、宮村啓斗、昴師吏功
タイトル未定(新作初演)(岡崎隼也 振付)金子仁美、池本祥真
*音楽は録音音源を使用します。
*2024年12月現在の情報です。やむを得ない事情により、演目、出演者等が変更になる場合があります。
■出演
上野水香(プロデュース・出演)、ジル・ロマン(ダンサー、振付家、ベジャール・バレエ・ローザンヌ元芸術監督)、柚希礼音(女優、歌手、元宝塚歌劇団星組トップスター)、中村祥子(元ベルリン国立バレエ団プリンシパル、Kバレエカンパニー名誉プリンシパル)、吉岡美佳(元東京バレエ団プリンシパル)、厚地康雄(元バーミンガムロイヤルバレエ団プリンシパル)、秋元康臣(元東京バレエ団プリンシパル)
[東京バレエ団]
沖香菜子、柄本弾、宮川新大、池本祥真(プリンシパル)
伝田陽美、金子仁美、三雲友里加、政本絵美、涌田美紀、平木菜子、工桃子、安西くるみ、富田翔子、井福俊太郎、鳥海創、山仁尚、宮村啓斗
ブラウリオ・アルバレス(ダンサー、振付家、元東京バレエ団)
昴師吏功(谷桃子バレエ団)
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