NHKバレエの饗宴でオデット・デビューを果した秦悠里愛、ジークフリード・デビューとなった小池京介にインタビュー、牧阿佐美バレヱ団
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インタビュー=関口紘一
――秦さんはNHKバレエの饗宴2025でオデット・デビューとなりましたが、それが決まったことは、いつ知りましたか。
秦 キャストが発表されたのは、昨年の12月の初めくらいです。
小池 事前には、個別に三谷先生からお話しがありました。
――いつもそんな感じになるのですか。
小池 そうですね、基本的には主役に抜擢されるような時には直接、1対1で伝えられます。ですから、今回もぼくと悠里愛ちゃんは別々にお聞きしました。
NHKバレエの饗宴2025『白鳥の湖』秦悠里愛、小池京介 撮影:根本浩太郎
――小池さんはジークフリード役を何らかの形でも経験されていまますか。
小池 橘バレヱ学校を卒業する時に、青山季可さんと「黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥ」を踊ったことはあります。
幕を通して踊るとなると、やはり、登場人物の気持などをしっかりと確認しなければなりません。
――一応、経験はあったのですね。
小池 3幕ですけれど、一応。2幕とはまた全然心情が違います。バレエ学校時代は、役柄の気持ちとかよく考える余裕もなく・・・舞台でグラン・パ・ド・ドゥを踊るのは初めてだったので。
バレエ学校を卒業する時でしたから19歳ですね。その後に牧阿佐美バレエ塾の第1回盛田正明スカラシップをいただきました。
――バレエ学校を卒業してバレエ塾に入った。そしてバレエ塾を2年で修了したんですね。
小池 そうです。
――秦さんは、どういう感じでオデットを踊ることを伝えられましたか。
秦 「できる?」と聞かれまして「頑張ります」と答えました。ありのままの私で踊ってほしい、と言っていただきました。
ーーほんとに大抜擢でしたね。小池さんは『くるみ割り人形』の王子を踊っていましたからね。
小池 そうですね。ぼくはバレエ団の23年の『くるみ割り人形』で主役デビューをさせていただいたりしていたので。余裕は全然ないのですが、悠里愛ちゃんに比べたら少しは。
――でも、秦さんはクララを新国立劇場バレエ団と牧阿佐美バレヱ団で踊っていましたね。
秦 はい、新国立劇場ではイーグリング版の初演で子どものクララを踊らせていただきました。
小池京介、秦悠里愛
――そうですね、NHKバレエの饗宴でもとても素直に踊っていて良かったです。
秦 ありがとうございます。変に色をつけたりしないで、素直な真っ白な踊りを目指してリハーサルに取り組みました。
――もう二度とないことなので良かったですね。TVでも放映されるし記録にも残るわけですから。
それでもうまくいかなかったところとか、自分で反省しているところとかありますか。
秦 たくさんあります! 特に基礎の大切さを痛感しました。まだ10代ですし、改めてもっとしっかりやり直したいと思っています。
――体力的にはきつかったですか。
秦 二日目は体調的にちょっと普段と違う感じでした。ふわふわしたというか。少し一日目に出し切ってしまったかもしれません。
――プレッシャーによく耐えましたよね、この若さで。デビューで2日続けて踊るというケースは少ないかもしれませんね。どうしても初日に全力投球してしますから仕方ないですね。
小池 ぼくも2日間主役というのは初めてでした。『くるみ割り人形』の時は全部で3公演あるうち、主役を踊ったのは1公演だけでした。あの時は、新潟の渡辺珠実バレエ研究所の先生方が総出で見に来てくださいました。
NHKバレエの饗宴2025『白鳥の湖』撮影:根本浩太郎
――小池さんとしてはNHKバレエの饗宴は、何か特別に注意したことはありましたか。
小池 『白鳥の湖』の2幕は初めてでしたから、主役を踊るということに対しては「もっとこうしてやるぞ」というよりは、フレッシュな気持ちで臨みました。『くるみ割り人形』を踊るなら、前回よりももっと、と思う余裕があったかもしれませんが、初の「白鳥」で大変に大きな役なので。僕としては『くるみ割り人形』の全幕の王子よりも『白鳥の湖』2幕のジークフリードの方が遥かに難しくて・・・。
『くるみ割り人形』に関してはもっと突き詰めなければならないところがあるのですけれど、『白鳥の湖』は<愛のパ・ド・ドゥ>で、今まで踊ったことがないので、その点がすごく難しかったですね。
――愛の経験が不可欠ですね。
小池 はい! そうですね。
――秦さんはこの作品でしか経験できないマイムが入っているので、大変でしたか。
秦 すごく難しかったです。ずっと鏡に向かってマイムの練習をしたりして、目線や表情も研究しました。
小池京介
小池 僕も一緒にやりました。一人で練習することもあれば、二人で合わせてやってみたり・・・。
――マイムは音楽との関係が難しいですよね。
秦 音に合わせ過ぎても単調になってしまうので、ちょっと音をずらして、合わせるところは合わせて、というところが難しかったです。
――特に2幕のマイムは重要ですからね。
小池 あのヴァージョンの醍醐味といってもいいと思います。他のヴァージョンだとマイムの部分を踊ったり、カットされたりしますが、牧阿佐美バレヱ団のヴァージョンはしっかりとマイムで見せて、お客様にも理解していただかないとなりません。
――コール・ド・バレエもSNSなどで絶賛されてました。老舗の実力を見せつけた、とか。こんな素晴らしい四羽の白鳥は観たことがない、とか。やはり、そうした周りの力に支えられて主役が引き立つんですよね。
小池 本当にそうですね、実感しました。
初日の開演前にはみんなで円陣を組んで "よしっ 頑張ろう!" ってなったんです。僕もう泣きそうでした。
秦 私たちは踊るための心の準備を袖でしていたのですが、いつの間にか先輩方や先生方が集まっていて、"二人おいで"って。
小池 円陣を組んでくださって "頑張るぞ!"と。
秦 涙出そうになって・・・。
小池 ほんとに全員が一つになった舞台でした。
――そういうことがごく自然にできたのは素晴らしいですね。誰か決まった人が音頭をとった、とかいうのではなくて。
小池 みんなの心が一つになったのを感じました。
他の出演者の平野さんとか厚地さんとかレジェンドの方たちと少しお話しできる機会もありました。DVD等で観ていた人たちですから、"カーテン・コールで同じ列にいる!" と思いました。
NHKバレエの饗宴2025『白鳥の湖』撮影:根本浩太郎
――3月8日(土)と9日(日)には「ダンス・ヴァンドゥ III」公演があります。
『Tryptique~一人の青年の成長、その記憶、そして夢』(金森穣:振付)『ガーシュインズ・ドリーム』(三谷恭三:振付)『ホフマン物語』第2幕より幻想の場(ピーター・ダレル:振付)『グラン・パ・ド・フィアンセ』(ジャック・カーター:振付)の4演目が上演されますが、秦さんはどの演目を踊りますか。
秦 はい、『グラン・パ・ド・フィアンセ』の3曲目を踊ります。
――牧阿佐美バレヱ団の財産となっている作品ですね。6人の花嫁候補たちみんなが美しいところを見せるようにして踊るなんていいですね。
秦 ベテランの先輩方に挟まれて踊ります。それから『ホフマン物語』第2幕では10組のカップルのうちの1組として踊ります。
「グラン・パ・ド・フィアンセ」撮影:瀬戸秀美
――『グラン・パ・ド・フィアンセ』のような物語のないバレエはどうですか。
秦 6人の花嫁候補の一人として王子に美しさを見せる、という踊りなので、自分で想像して自分の良い部分を出せるようにしているところです。
――3番目に踊るのですから、シーンが一番、盛り上がる感じになりますね。
秦 私の前の曲が大人っぽいかっこいい曲です。私が踊る曲は明るい感じなので、そこで雰囲気を変えられたらいいな、と思っています。
金森穣 photo Shoko Matsuhashi
――のびのびと踊れますよね。
小池さんは金森穣さんが新たに振付ける『Tryptique~一人の青年の成長、その記憶、そして夢』にご出演される予定でしたが、あいにく、怪我をされてしまいましたね。(芥川也寸志作曲『トリプティーク』は、牧阿佐美が34歳の時に振付けています。金森穣は、今年、生誕100年を迎える芥川也寸志が、この曲を「青春三部作」と呼んでいたことから、自身の青春時代を過ごしたルードラ・ベジャール留学時代を思い、恩師である牧阿佐美への感謝の念を胸に振付ける、とブログに綴っている。)
小池 ええ、怪我をしてしまいまして出演できないことになってしまいました。クリエーションには参加していました。
――それは本当に残念でしたね。金森穣は、日本に帰国した時も牧阿佐美によって新国立劇場で作品を上演していますね。小池さんは金森さんとは世代がまた違いますね。金森作品はどのようにみていますか。
小池 今までぼくが牧阿佐美バレヱ団で踊ってきた舞台とはまた違った仕事に触れられたので、楽しみながらリハーサルはできましたし、最終的にまとまった形は、やはり凄くて。カウントの取り方だったり・・・普通に今までの「トリプティーク」を聴いていたら考えられないようなカウントが聴こえてきたりとか、とても興味深かったです。
――金森穣の作品は、とにかく、身体が美しく見えますね。
小池 金森さんは、ダンサーのことをよく理解してくださっています。金森さんの動きを織り込んでいますが、クラシック寄りで作ってくださっていると思います。
「ガーシュインズ・ドリーム」撮影:鹿摩隆司
「ホフマン物語」撮影:山廣康夫
――日本人の作曲家に振付ける、ということも牧阿佐美、橘秋子から継承されていて、とても楽しみですね。
秦さんはどういうバレエがお好きなんですか。
秦 昨年入団してからバレヱ団の本公演は今回で4回目になりますが、『白鳥の湖』等の白いバレエが好きです。『ジゼル』も好きだし『ラ・シルフィード』も好きだし・・・でも1番は、牧阿佐美先生の振付作品の『飛鳥 ASUKA』が好きです。
――すがる乙女ですね。
秦 私が初めて子役で出させていただいたのも『飛鳥 ASUKA』の初演で、牧阿佐美先生が直接、団員の方たちにご指導されているところなんかも見ているので、思い入れのある作品です。いつかもっと成長したらぜひ、踊ってみたいなと思っています。
――バレエと融合した日本の美しさにも関心を持たれているのですね。牧阿佐美バレヱ団の王道を行っている感じですね。
小池 ぼくも『飛鳥 ASUKA』はすごく好きです。映像を使った演出もすごかったです。
――秦さんはもうずっとバレエを習うつもりでしたか。
秦 いえ、運動不足というか運動が苦手で、母が何か運動をしなくては・・・と思って。近くにあったデパートのカルチャーセンターにバレエ教室と空手教室があったんですけど、私がバレエを選びました。
――どの辺からバレエにはまりましたか。
秦 悠里愛
秦 お教室のお姉さんが一人、牧阿佐美先生のA.M.ステューデンツに合格したと聞いて、私も入ろうと思って頑張りました。その時は、どっちかというとバレエを頑張ることが好きだったのですけど、牧先生に習い始めてから目覚めて、素敵に踊れるように、もっと上を目指すようになりました。牧先生にみていただくために一生懸命頑張りました。そしてちょっと教えていただけると嬉しくて、もっと上を目指しました。
――小池さんはどうしてバレエを始めたのですか。
小池 僕はバレエを始めたのは少し遅くて、小学校の5年生です。母が元々、宝塚を目指していて渡辺珠実先生の教室に通っていました。
ぼくは新潟で初めてバレエを観た時、『眠れる森の美女』だったのですが、「バレエ すげえー」って思いました。小学校の3年生か4年生の頃でしたが、装置とか非現実的すぎる世界だ、と感じました。
それでバレエを始めるのだったら、母が珠実先生のところに行きなさい、と。ぼくはまだその頃、ぽちゃぽちゃしていたんですけど。珠実先生は稽古場では厳しいけれど、すごく愛のある先生です。
――『角兵衛獅子』をまた、上演してほしいですね。
小池 僕も小さい時に『角兵衛獅子』踊りました。赤いサラシを振る踊りは、すごく綺麗ですけど腕が辛いんです。
――そうすると牧阿佐美バレヱ団には親近感を感じていましたね。
小池 そうですね、牧先生と珠実先生が古くからのご友人でしたから、自然と日本ジュニアバレヱやA.M.ステューデンツに入ってみようという気になりました。
――牧先生にはどんな思い出がありますか。
小池 牧先生がいろいろと推薦してくださったり、面倒を見てくださったことがたくさんあるので、感謝しても仕切れないです。牧先生が気にかけてくださっていなければ、多分・・・もしかしたらバレエを辞めていたかもしれません。
「どこにいても常に舞台人でいなさい」という教えは、忘れられない言葉です。ずっと心がけています。例えば、電車に乗っているときでも、気を抜いたらだらけてしまいます。
阿佐美先生は、日常生活の癖が全部舞台に出ている、とおっしゃっていて、普段の姿勢が自然と舞台に現れるから、立ち姿なんかもそうですが、例えば、ゴミをポイ捨てしている人とかたまにいますね。そういうことはいつも人に見られていると思いなさいとか、珠実先生からも言われていました。常に気にしていました。自然と滲み出てくるものがありますから。
――秦さんは阿佐美先生の思い出はどんなことですか。
秦 私は阿佐美先生に最後にお会いしたのが、亡くなられる1ヶ月くらい前のA.M.ステューデンツ公演でした。たまたま廊下でお会いしたのですが、私はその舞台にすごく緊張していました。その時に「心から楽しんで踊ったら、その時には自然と魅力が出るから。華やかに踊って、これからも」と言われました。それが本当に心に残っています。その言葉を胸にして、次の舞台を頑張ろうって思っていたのですが、亡くなられてしまいました・・・。今でも本番直前は、心から踊ることを自分に言い聞かせてから舞台に臨んでいます。
ーー本日はお忙しいところお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。これからの舞台をとても楽しみにしております。
ダンス・ヴァンドゥⅢ
日時:2025年3月8日(土)15:00開演 17:20終演
9日(日)15:00開演 17:20終演
会場:文京シビックホール 大ホール
https://www.ambt.jp/pf-danse-vingt-deux3/
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