新国立劇場バレエ団の2025/2026 シーズンのラインアップが発表された
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関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
吉田都 舞踊芸術監督 撮影:阿部章仁
2月13日、新国立劇場バレエ団の吉田都 舞踊芸術監督により2025/2026シーズンのラインアップ説明会が新国立劇場のリハーサル室で行われた。
まず、新シーズンのバレエ&ダンスのラインアップは9演目、73公演と発表された。
全幕ものはフレデリック・アシュトン:振付の『シンデレラ』、新制作のウィル・タケット:振付『くるみ割り人形』、ケネス・マクミラン:振付『マノン』、牧阿佐美版『ライモンダ』、ピーター・ライト版『白鳥の湖』の5演目。ネオクラシックのバレエ作品は、伊藤郁女:演出・振付『ロボット、私の永遠の愛』日本初演。バレエ・コフレとして『A Million Kiss to my Skin』(デヴィッド・ドウソン:振付)、『ファイヴ・タンゴ』(ハンス・ファン・マーネン:振付、新制作)、『テーマとヴァリエーション』(ジョージ・バランシン:振付)。「フレンズ・オブ・フォーサイス」(ウィリアム・フォーサイス:振付ほか)日本初演。ダンスは、ダブルビルとして新作『ストリング・サーガ(仮)』(宝満直也:振付)『暗闇から解き放たれて』(ジェシカ・ラング:振付)という4演目となっている。
シーズン・プログラムの骨子となる全幕ものでは、『くるみ割り人形』がウィル・タケットにより新たに振付けられて上演されることが注目点だろう。新国立劇場バレエ団は、2017年にウエイン・イーグリング振付の『くるみ割り人形』を世界初演し、たびたび再演してきた。
バレエは言語を使わない芸術であるから、世界中で同じ舞台を共有することができる。そして『くるみ割り人形』などの古典名作バレエの多くは、19世紀に製作されて今日まで上演されてきており、当然、時代に応じた改訂が必要とされることもあるし、多くの観客の共感を得るために表現を作り替えていく必要が生じることもあるだろう。今回の新国立劇場バレエ団の新制作もそうした"時代の要請"に基づいたものであろう。特に、2幕のディヴェルティスマンについてさまざまな声も聞くことがある。
そうしたことは理解できるのだが、私にはウィル・タケットのこれまでの仕事とチャイコフスキーの『くるみ割り人形』を結びつけることが難しかった。ウィル・タケットは2023年に、新国立劇場バレエ団のダンサーにより、シェイクスピアの『マクベス』を振付けて世界初演した。また、2004年にはアダム・クーパー主演により、ストラヴィンスキーの『兵士の物語』を演出・振付けてコヴェントガーデンで上演し、2009年と15年に日本公演を行っている。『マクベス』は周知のように、王権を簒奪するために王を殺す、という暗鬱なドラマだし、『兵士の物語』もやや混み入った寓意のある「大人」の物語だ。そのほかにもKAATなど日本で初演された作品はあるが、どれも演劇的手法を使った舞台であった。もちろん、私が知るのはウィル・タケットのごく一部であるのだが、チャイコフスキーの素晴らしいメロディをどのように活かした<スイートな>舞台を作るのか、私にはちょっと想像を巡らすことはできない。
そのほかには『私は音葉を信じないので踊る』や『綾の鼓』など、自身で踊って独特の表現を創る伊藤郁女の『ロボット、私の永遠の愛』が日本初演され、ピアソラの曲に振付けられたハンス・ファン・マーネンの『ファイヴ・タンゴ』が新制作されて上演される。また、フォーサイスとラフ・"ラバーレッグズ"・ヤシットが企画したダンスの実験的ショーケース「フレンズ・オブ・フォーサイス」が招聘されて日本初演される。そしてダンスのセクションでは、新国立劇場バレエ団のダンサーだった宝満直也が委嘱を受け、新作『ストリング・サーガ(仮)』を上演する。
また、新シーズンのプログラムではないが、昨年発表された吉田都:演出による『ジゼル』の英国ロイヤル・オペラハウス公演が、7月24日から27日まで5公演開催される。新国立劇場バレエ団には、初めての海外主催公演としてロイヤル・オペラハウス・デビューとなる意義深い舞台である。果たして英国のバレエ・ファンがどのような反応を示すのか、誠に興味深いし、大いに期待するところだ。
『くるみ割り人形』コリン・リッチモンドによる美術模型
伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』©Laurent Paillier
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_028710.html
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/giselle_london25/
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