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二山治雄『EOL』を語る「ハンブルク・バレエのプリンシパル二人と僕が融合して、どのような調和が生まれるのか、楽しみにしてください」

ワールドレポート/東京

香月 圭 text by Kei Kazuki

2014年、日本人として、3人目となるローザンヌ国際バレエコンクール第1位を受賞して以来、その卓越した才能で多くのバレエファンを魅了している二山治雄。今年1月には、谷桃子バレエ団の『ラ・バヤデール』でニキヤへの思慕の念を抱く苦行僧マグダヴェヤという難役を見事に演じ、新境地を拓いた。
5月23日から、彩の国さいたま芸術劇場小ホールで上演される『EOL』(イー・オー・エル)で、二山はシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコと共演する。ハンブルク・バレエ団のプリンシパルとして世界の舞台で喝采を浴びる二人が初めて創り上げた、自らを映し出すような、愛をテーマとするストーリーバレエ『Echoes of Life』はイタリアやドイツで好評をもって迎えられた。そのオリジナル・バージョンから『EOL』とタイトルも一新された、日本の観客のための特別版では、二山のソロ、そして3人のパ・ド・トロワが世界初演される。ハンブルクに赴いてアッツォーニ、リアブコとクリエーションを行った二山に、抱負と今後の展望を語ってもらった。

――『EOL』はクリエイティヴディレクションを写真家の井上ユミコさんが担当しています。出演オファーが届いたときは、どんなお気持ちでしたか。

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© Yumiko Inoue

二山 ユミコさんとは、2022年の「BALLET TheNewClassic」のときからご一緒させていただいております。この3年間の中でユミコさんと一緒にやってきたものはとても濃い内容で、毎回違うジャンルのものですが、得られるものが多いです。彼女と知り合ってからそれほど長くはないのですが、今回のお話は、やはりこの3年間の積み重ねがあってこそのお話だったので、自分にとってはまた新たな挑戦ができる、いい機会をいただけたと思いました。

――シルヴィア・アッツォーニさん、アレクサンドル・リアブコさんと共演するというお話を聞いてどう思いましたか。

二山 お二人はハンブルク・バレエ団のスターダンサーで、キャリアや踊りの面でも僕とは別格なので、お話をいただいたときは「まさか、僕が彼らのプロジェクトに携われるなんて...!」と衝撃を受けるとともに、とても光栄なことと受け止めました。メールでやり取りしていくうちに、このプロジェクトへの参加が決まったのですが、実際にハンブルクにリハーサルに行ったことで「僕は彼らと一緒に踊るんだ...!」という実感が初めて湧いてきました。

――ハンブルクでリハーサルが行われましたが、どんな感想を持ちましたか。

二山 最初のうちは、とても緊張していました。早朝にハンブルクに着いたのですが、シルビアが空港まで迎えに来てくれました。その時から、優しい方だなということが分かって、不安な気持ちが少しずつ小さくなっていきました。その後、一緒にバレエ・クラスとリハーサルを行いましたが、終始穏やかに進行しました。1週間程度でしたが、中身の濃い、充実したリハーサルでした。

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ハンブルクでのリハーサルにて
© Silvano Ballone

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ハンブルクでのリハーサルにて、二山治雄、シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ
© Silvano Ballone

――リアブコさんについての印象はいかがでしたか。

二山 実は、シルヴィアがずっと喋っているんですよ(笑)。彼女の意志や考えが通ることが多いのですが、リアブコはいろいろと的確にアドバイスをくれました。彼が彼女を支えているのだな、ということがはっきり分かりました。 今回の振付の中でも、シルビアと僕が組む場面があるのですが「こうした方がいいんじゃないかな」と、彼がいろいろ提案してくれました。また、僕のソロの部分でも「体の使い方はこうしたらいいよ」と教えてくれました。シルヴィアとはまた違う意味で、すごく優しい方だなと思います。お二人とも、とても温かい方々でした。

――二山さんが演じる役について教えてください。

二山 お二人には娘さんがいらっしゃって、実生活ではパパとママでもあります。リハーサルやそれ以外の時間も一緒に過ごして、彼らから家族愛のような雰囲気を感じました。踊りには、自然とその人の性格がにじみ出るというのは本当だと思います。お二人の姿に触発されて、僕自身もそのような表現ができるのではないかと思います。ハンブルクのリハーサルでは振り写しを完成させましたので、今後は役に対しての思い入れや表現などを深めていけたらと思います。

――作品の中で、特に注目してほしいのはどのようなところでしょうか。

二山 僕が踊る部分は、ハンブルクのリハーサルで作ったものなので、すべて初演ということになります。ですから、全てが見どころと言っていいかもしれませんね。彼らのデュエットも、もちろんありますし、僕のソロ・パートも二つあります。それから、三人で一緒に踊るシーンでは、複雑なリフトもあります。僕は普段、ソロで踊ることが多いのですが、ハンブルク・バレエ団のプリンシパルである彼らと僕が融合することによって、どのような調和が新たに生まれるのか、僕自身にもまだわからないですが、お客様にもその辺りを楽しみながら見ていただきたいと思います。

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ハンブルクでのリハーサルにて、シルヴィア・アッツォーニ、二山治雄、アレクサンドル・リアブコ
© Silvano Ballone

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ハンブルクでのリハーサルにて、アレクサンドル・リアブコ、シルヴィア・アッツォーニ、二山治雄
© Silvano Ballone

――『EOL』では、ピアニストのミハウ・ヤウクと共演されます。生演奏に乗せて踊る舞台ですね。

二山 はい。やはり生演奏は気持ちよく踊れますし、テンションが上がります...! 録音音源だと毎回同じですが、ダンサーはその都度コンディションが変化するので、同じ踊りは二度とできないのです。それは演奏者の方々も同様で、やはり、そのときの気分によって、演奏の仕方や気持ちの入り方も変わってくるのです。 生演奏の音楽と踊りが合わさったときに、すごくいいものになるのではないかな、と思います。観に来てくださるお客様にとっても、やはり生演奏でのパフォーマンスは、目から受ける視覚的な情報だけではなく、耳から聞こえてくる、生き生きした音楽も加わって、気持ちよく感じていただけると思います。

――『EOL』の舞台は彩の国さいたま芸術劇場小ホールです。至近距離でお客様に見られて、緊張しますか。

二山 僕は、役に入り込むと、自分の中で集中してしまうので、お客様がそばにいても、気になることはほとんどありません。今回の公演では、ダンサーがすごく近くで踊っているからこそ、お客様にとっては、見られるものがたくさんあるのではないかなと思います。僕にとっても、お客様が近いからこそ、こういう動きをしたいというアイデアが出て来ると思っています。
今回の舞台は、普通のバレエの劇場とは違い、小ホールでコの字型ですり鉢状の客席をもつ舞台になっていて、お客様は上から見下ろすようにダンスを見ることになります。
どの角度からも見やすい席になっていて、多分正面から見ても横・斜めから見ても、恐らく、異なる表現が見えるのではないのかなと思われます。もし1回目に見に来ていただいた方でも、2回目に別の席からご覧いただけたら、また違った見方ができるのではないでしょうか。

――『EOL』のプロジェクトを通して挑戦したいと思っていることは、どんなことでしょうか。

二山 シルヴィアさんとリアブコさんと出会い、そして、彼らと行ったリハーサル期間は僕の人生のキャリアにとっても、すごく貴重な時間でした。経験することは財産だと思いますので、リハーサル、本番を通してお二人のエキスをいただくようなイメージで、貪欲にいろいろなことを吸収して、今後につなげていきたいと思います。
また、今回の衣裳は、CFCLというブランドのデザインによるもので、 普段とは異なる雰囲気の衣裳になるということで、楽しみにしています。「バレエは総合芸術だ」と言われるとおり、踊り、音楽、照明、メイク、踊り、衣裳などすべての要素がそろったときに、どのようなものが生まれて来るのかが自分自身でもすごく楽しみですし、お客様にも喜んでいただけるのではないかと思います。

――今回、二山さんのパートの振付は、ハンブルク・バレエ団のダンサー出身のクリスティーナ・パウリンさんが担当されました。

二山 クリスティーナには、今回初めてお会いしたのですが、実は振付家もダンサーにとっても、お互い知らない同士の組み合わせというのは、チャレンジングなことなのです。
限られたリハーサル期間の中で目標を立てて、そこに向かってお互いに高い集中力を発揮して取り組みました。

――シルヴィア・アッツォーニさんとアレクサンドル・リアブコさん、そしてクリスティーナ・パウリンさんは皆、ハンブルク・バレエ団でジョン・ノイマイヤーの影響を強く受けていると思います。ノイマイヤー流のネオ・クラシックバレエを実際に踊って、どのように思いましたか。

二山 ハンブルク・バレエ団の若手ダンサーたちが自身の振付を披露する"Jungen Choreographen"という公演を拝見したとき、ネオ・クラシックやコンテンポラリーなど様々な作品がありましたが、表現の自由さがとても面白く「彼らはこんな風に物事を感じるのか!」と驚かされました。日本人的な考えで進めると、四角四面になりがちですが、彼らの考え方や表現の仕方、踊り方にはそれぞれ個性があり、いろいろな色が散りばめられているのがよかったです。彼らからは、大いに刺激を受けました。

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©スタッフテス

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©スタッフテス

――バレエを教えるお仕事もなさっていますね。

二山 僕はバレエを7歳から始めて、今年で21年目になります。当たり前のように続けてきたバレエの動き方については自然と頭や身体に染み付いているので、教える側になってみて初めて、あるステップがどうしてこうなるのか、手足や上半身をどうしてこのように動かさないといけないのかという動きの仕組みについて、あらためて頭で考える機会を持つことになりました。教えているのは小さい生徒さんたちではないのですが、バレエの動きを学びたい方向けには、やはり自分で理解したうえで、言葉にして説明する必要があります。ですから教えることによって、僕自身もバレエのステップについて、より深く学ぶことが多々あります。

――憧れのダンサーはいますか。

二山 パリ・オペラ座バレエ契約団員の頃に憧れだったマチアス・エイマンは今でも好きですが、特定の大好きな人というのは、今は決めていないです。良いダンサーも老若男女問わず、たくさんいらっしゃるし、優れた作品は世の中に数多く存在するので、最近はバレエやコンテンポラリーダンスなど、いろいろなダンスを見るようにしています。

――パリ・オペラ座バレエ契約団員の頃、印象的だった作品は何でしょうか。

二山 ほぼ全ての作品の稽古に参加していましたが、印象に残っているのは、2018年5、6月にガルニエ宮のパブリックスペースを使って上演された『Frôlons』という作品です(振付はジェームス・ティエレ。チャップリンの孫、そして劇作家ユージン・オニールの曾孫でもある)。衣裳は全身黒のタイツに金色のスパンコールが散りばめられていて、恐らく一着30万円ぐらいしたと言われています。ガルニエ宮の隅から隅まで床や階段を這いずり回り、最後は舞台に戻って終わるという、ユニークな新作でした。パリ・オペラ座では辛い思いもしましたが、得られたものはとても大きかったと思います。今、振り返ると、パリで研鑽を積んだ期間は、僕にとっては重要な時間でした。

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「Ballet TheNewClassic 2024」公演 『白鳥の湖』よりオデット

――パリから帰国されて、コンテンポラリー・ダンス作品、ファッション撮影、他ジャンルのアーティストとの共演などクラシック・バレエにとどまらない活動も展開して来られました。将来的にどのような表現者・アーティスト像を目指していますか。

二山 バレエダンサーは、お客さんがいらっしゃってこその職業なので、やはり見ていただける方に感動をお届けしつつ、喜んでいただけるようなダンサーになるのが第一の目標です。僕はこれまで、薔薇の精など、実在しないような妖精の役を踊ることが多かったのですが、最近、全幕バレエで人間の役をいただくことが増えてきて、大いに刺激になっています。今後は、もっといろいろなものに挑戦して、この役もあの役もできる、といった柔軟性のあるダンサーになりたいです。そのうえで、自分の個性を出していきたいと思います。

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――1月18日、19日に上演された谷桃子バレエ団『ラ・バヤデール』全幕公演では、ニキヤに思いを寄せる苦行僧マクダヴェヤ役を演じて、絶賛されました。

二山 海外では、全幕の公演にはよく出演させていただいてきましたが、帰国してからは、ガラへの出演の回数が、全幕公演への出演より多いなと感じていました。ガラで踊っていたのはプリンシパル・ダンサーが踊るグラン・パ・ド・ドゥが中心ですが、今回、準主役を演じたことは新鮮でした。また、リハーサルで一からこの作品を作り上げていく過程が僕にとってはとても楽しかったです。リハーサルでは、踊りについては出力レベル100パーセントで臨みますが、お芝居については、舞台と本番で一気に出したいという思いが自分の中にあるので、全開で演じないことにしています。ですから、よくも悪くも「リハーサルと本番では全然違う」とよく言われます。バレエというのは生ものなので、そのときの状況を大切にしたいと思います。『ラ・バヤデール』のマクダヴェヤ役はシングル・キャストで3回出演したのですが、僕は毎回違う表現をしていたと思います。今回の舞台で、多くの学びを得られました。やはり、バレエダンサーとしての軸は、舞台で全幕作品を踊ることだと思いますので、今後は、バレエから離れたお仕事でいろいろなことを学んだことを糧に、全幕バレエの方にも携わっていきたいです。
https://www.chacott-jp.com/news/worldreport/tokyo/detail037260.html

『EOL』(イー・オー・エル)

2025年5月23日(金)15:00、5月24日(土)13:00、5月25日(日)13:00
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール
公式サイト https://www.eol-japan.com/

出演:シルヴィア・アッツォーニ(ハンブルク・バレエ団プリンシパル)アレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ団プリンシパル)二山治雄
演奏:ミハウ・ヤウク(ピアノ)
振付:クリスティーナ・パウリン、ティアゴ、ボルディン、マーク・ジュベテ
クリエイティヴディレクション:井上ユミコ

<速報>追加公演決定! 2025.2.20
3公演のチケット予定販売枚数終了を受け、5月24日(土) 17:30 開演にて追加公演の実施を決定いたしました。
S:¥14,000
SS:¥17,000
最前列〈お花付き〉:¥30,000(カーテンコール時にステージ上の出演者にお花をお渡しいただく権利付き。)
※追加公演では、客席内にカメラを配置した映像収録を行います。
※追加公演発売時に、当初販売予定枚数を終了した3公演のうち機材用確保席より若干枚を販売する公演が出る可能性がございます。
※発売日は決定次第、当サイト・SNSにて発表いたします

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