ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2015.02.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
青山バレエフェスティバルは、海外のコンクール入賞者の日本人ダンサーを中心としたガラ・コンサートで、一時は大いに盛り上がりを見せたのだが、1月29日、30日には「ラストショー」を上演して終了した。このフェスティバルが青山劇場で最初に開催されたのは1986年だった。
私はダンスマガジンという雑誌を1984年に創刊し、91年まで編集長を務めたのでこのコンクールとは、しばし肩を並べて仕事をした。雑誌は当初、読者層を配慮して海外バレエ団の記事を中心に編集しており、まだ外国の雑誌や出版社からインタビューなどの記事を購入していた。
しかしバレエ、ダンスの専門誌を編集していくうちに、青山バレエフェスティバルを中心に、日本のバレエ界に若いエネルギーが潮流のようになって迸りつつあるのを実感させられた。ちなみに第1回青山バレエフェスティバルの記事が掲載されたダンスマガジンNo.11を開いてみると、斎藤友佳理『ラ・シルフィード』、中村かおり『海賊』、秋山珠子『眠れる森の美女』、高部尚子『リゼット』ほかの舞台写真が掲載されていており懐かしかった。
そして1989年には、ローザンヌ国際バレエコンクールがこのフェスティバルの拠点となっていた青山劇場で開催され、熊川哲也がゴールドメダルを受賞した。これは日本のバレエ界にとってじつに画期的なできごとだったし、青山劇場を拠点として開催されてきた「日本のバレエの青春」とも呼べる時代のひとつのクライマックスだったといえるだろう。私も熊川哲也を表紙としたダンスマガジンの別冊を編集した。
詳細は詳らかではないが、所轄の官庁の違いなど種々の事情があってこの劇場は閉鎖になるという。しかし、この場所にバレエ、ダンス、演劇を上演する劇場を創った、ということはこのエリアの文化的環境とマッチしており、私の経験に照らしてみても成功だったと思う。江戸時代は幕府が劇場の場所を決めた。今日では観客が劇場の場所を選び、種々の計画に参加する、そうなって欲しいものである。

見応えがあった『くるみ割り人形』『白鳥の湖』『ライモンダ』3作品の名場面集

Mikhailovsky Theatre ミハイロフスキー劇場バレエ〜旧レニングラード国立バレエ〜
新春スペシャル・ガラ『くるみ割り人形』第2幕より、『白鳥の湖』第2幕より、『ライモンダ』第3幕より

ミハイロフスキー劇場バレエ(旧レニングラード国立バレエ)の「新春スペシャル・ガラ」を観た。恒例となっているロシアのバレエ団のお正月公演だ。このカンパニーは、かつてレニングラード国立バレエ団という名称で何回も来日公演を行い、日本のバレエ・ファンにお馴染みなのは周知の通り。かつてはニコライ・ボヤルチコフというなかなかバレエを良く知る芸術監督が長く在任して、カンパニーを蘇生させた。その後、一時はファルフ・ルジマトフが芸術監督となったのち、スペインからナチョ・ドゥアトが移って芸術監督となった。そうした監督交代の時期も、現在首席バレエ・マスターを務めるミハイル・メッセレルが中心となって、カンパニーの伝統を継続発展させてきた。メッセレルはロシアの芸術家を輩出している家系の出身で、マイヤ・プリセツカヤの親戚にあたる。叔父のアサフや母のスラミフィにバレエを学び、旧ソ連時代に日本経由でアメリカに母とともに亡命。その後多くのバレエ団で教師を務めている。私は彼がマリインスキー・バレエ団で教えている時に会ったが、素晴らしい教えをしており、ダンサーたちの信頼も篤かった。

新春スペシャル・ガラは『くるみ割り人形』より第2幕「お伽の国」、『白鳥の湖』より第2幕「オデットと王子、湖畔の出会い」、『ライモンダ』より第3幕「ライモンダの結婚」を上演した。どれも名場面の上演で充分に見応えがあった。
『くるみ割り人形』はアンナ・クリギナとアンドレイ・ヤフニュークがマーシャと王子役を踊った。『くるみ割り人形』の第2幕だが、第1幕からも多くのキャラクターを次々と登場さて踊らせ、物語を面白く見せる演出の手際の良さが際だった。しっかりと踊りを展開して、バレエ的な楽しさを見せる場面を快適なテンポで転換し、観客が自ずとストーリーを辿って行くことができるように構成されていたからだ。バレエに精通していなければ、こうした舞台を創ることは出来ないだろう。

tokyo1502a_0068.jpg 「くるみ割り人形」撮影/瀬戸秀美 tokyo1502a_0171.jpg 「くるみ割り人形」撮影/瀬戸秀美

『白鳥の湖』第2幕のオデットと王子ジークフリートの出会いのシーンは、ファルフ・ルジマトフの王子とアナスタシア・ソボレワのオデット。ソボレワは一心に良く演じ踊ったが、ジークフリートと気持ちを通い合わせる部分が少し弱く感じられた。視線をほとんど交わすことはないし、特別に深い関心を抱いているとは見えなかった。動きにはもう少し流麗さが欲しいとも思った。ルジマトフは悠々と余裕のパフォーマンス。多くの男性スターダンサーが太ってしまうのを見てきたが、この人の身体のラインは鋭くシャープであり、全く変わってない。

tokyo1502a_0357.jpg 「白鳥の湖」撮影/瀬戸秀美 tokyo1502a_0318.jpg 「白鳥の湖」撮影/瀬戸秀美

『ライモンダ』第3幕のライモンダの結婚式は楽しかった。チャールダッシュを始めとする民族的色彩が豊かで華やかな踊り。群舞もダンサーはみな背が高くスタイルが良く見応え充分だった。ライモンダを吉田都、騎士ジャン・ド・ブリエンヌをデニス・マトヴィエンコが踊ったが見事に舞台を創った。若さの溢れる踊りももちろん素晴らしいのだが、ゆったりと二人で協力し合って良い雰囲気を作って踊るヴェテランのカップルもまた、じつに得難い踊りの喜びを感じさせてくれる。ステップにスピード感はあまり感じられなかったが、細やかな表現力豊かな上半身の動きが、それを補ってあまりある。吉田都のディテールの正確な動きそしてバランスの良さが、なにものにも負けない魅力を現した。マトヴィエンコの女性を称える騎士の気高いスピリットを表した踊りも印象をいっそう深めた。
(2015年1月3日 東京国際フォーラム ホールA)

tokyo1502a_0544.jpg 「ライモンダ」撮影/瀬戸秀美 tokyo1502a_0666.jpg 「ライモンダ」撮影/瀬戸秀美
tokyo1502a_0054.jpg 「くるみ割り人形」撮影/瀬戸秀美 tokyo1502a_0144.jpg 「くるみ割り人形」撮影/瀬戸秀美
tokyo1502a_0248.jpg 「くるみ割り人形」撮影/瀬戸秀美 tokyo1502a_0392.jpg 「白鳥の湖」撮影/瀬戸秀美