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東京二期会オペラ劇場『くるみ割り人形とイオランタ』(ウィーン・フォルクスオーパー&ウィーン国立バレエ団と共同制作)ゲネプロ・レポート

ワールドレポート/東京

小野寺 悦子

東京二期会オペラ劇場『くるみ割り人形とイオランタ』が、この夏、東京で幕を開ける。ウィーン・フォルクスオーパー&ウィーン国立バレエ団の共同制作作品で、2022年にウィーンで世界初演を迎えた話題作である。開幕を直前に控え、東京公演会場の東京文化会館でマスコミに向けゲネプロが公開された。

オペラ『イオランタ』とバレエ『くるみ割り人形』、チャイコフスキーの二つの名作を一つに融合したのが『くるみ割り人形とイオランタ』。発案はウィーン・フォルクスオーパー芸術監督のロッテ・デ・ベアで、彼女が同団の芸術監督になって初めて手がけた意欲作である。

舞台の軸となるのは、オペラ『イオランタ』の物語。盲目のプリンセス・イオランタは父のルネ王の庇護のもと、自身盲目であることを知ることなく、温もりに包まれ穏やかな日々を過ごしていた。ところがある日、イオランタは庭に迷い込んだヴォデモン伯爵と出会い、自身が盲目であることを知らされる。ヴォデモン伯爵は光の美しさをイオランタに語り、彼女は一つの決心を胸に抱くことになりーー。

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写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:寺司正彦

舞台はまず『くるみ割り人形』序曲で幕を開ける。そこは鮮やかな彩りで満たされた夢の世界。カラフルなキャンディにポップでシュールな人形たちが次々あらわれ、縦横無尽に舞い踊る。これらの景色はイオランタが想い描く想像世界を投影したイメージで、イオランタに扮するダンサーが夢の中に迷い込み、ヒロインのイオランタはそれを俯瞰する。
続いて『イオランタ』序曲に移ると、舞台上の景色は一変。色が失われたそこは簡素で空虚なイオランタの現実世界だ。イオランタに扮する歌手が登場し、『イオランタ』のアリオーソ「なぜ以前は知らなかったのかしら?」を切に歌う。

『イオランタ』と『くるみ割り人形』はもともと1892年にチャイコフスキーが二本立てとして発表した作品で、以来オペラとバレエ各々のジャンルで長く愛され続けてきた。ベア芸術監督は、『イオランタ』をイオランタの生きる現実世界、『くるみ割り人形』をイオランタの想い描く空想世界として、オペラとバレエの物語を一つに再構築。オペラとバレエを交互に展開することで、盲目のプリンセス・イオランタの心理をより鮮明に描写するという趣向だ。この難題に取り組んだのが、振付家のアンドレイ・カイダノフスキー。元ウィーン国立バレエ団のダンサーで、振付家に転身後はブノワ賞など数々の賞でノミネート歴を持つ気鋭のアーティストである。
『くるみ割り人形』といえば、古典の代名詞であり、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』と並ぶチャイコフスキー三大バレエの一つ。プティパ/イワノフ振付の原典が知られるが、カイダノフスキーは古典のイメージにとらわれることなく、コンテンポラリーをベースにクラシカルなパを随所に取り入れ、独自のアプローチでキャラクターに息吹を注ぐ。盲目のイオランタとヴォデモン伯爵の出会いのシーンではダンサーがパ・ド・ドゥで二人の心情を表現し、『くるみ割り人形』より「くるみ割り人形とネズミの王様の戦い」ではイオランタの葛藤をダンスで描写。ユーモアとシニカルを交えてイオランタの空想世界をどこまでも自由に広げ、同時にイオランタの閉塞感と苦悩をあらわに描き出す。

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写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦

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写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦

バレエ・シーンには、東京シティ・バレエ団と東京シティ・バレエ団付属バレエ学校のダンサーたちが出演。カイダノフスキーのもとオーディションが実施され、イオランタ役の南城未来、くるみ割り人形役の熊谷天志、2匹のねずみ役の石塚あずさ・牛飼達也、うさぎ役の佐々木葵美ら、主要キャストが選抜されている。イオランタ役の南城は伸びやかでダイナミックな踊り。振り切った動きで全身からパワーを発し、イオランタの感情を具現化していく。また身振りもキュートにうさぎに扮したした佐々木をはじめ、キャラクター勢も好演。キャストはいずれも夢の世界の住人として舞台を生き、イオランタの空想世界を強靱なものにする。
オペラ・キャストには、イオランタ役の梶田真未、ヴォデモン伯爵役の伊藤達人、ルネ役の狩野賢一と、東京二期会の実力派歌手たちが登場。梶田は少女のような面立ちから、真実を受け止め、自覚が芽生え、女性として一歩を踏み出すまで、イオランタの心の機微を繊細なソプラノで切々と伝えている。

ラストは『イオランタ』よりフィナーレ「ゴットフリート、お前を助けに来たぞ」に続き、『くるみ割り人形』より「終幕のワルツとアポテオーズ」でオペラ歌手とバレエダンサーが一堂に。空想世界で生きてきたイオランタの夢が現実世界になる瞬間で、少女は大人の扉を開く。

『くるみ割り人形とイオランタ』は7月18日の東京公演を皮切りに、愛知、大分の全国3都市で上演を予定。東京公演のオペラキャストはWキャストで、イオランタ役には梶田と川越未晴、ヴォデモン伯爵役は伊藤と岸浪愛学が、ルネ役は狩野と北川辰彦が日替わりで出演を予定している。
東京公演の指揮はヘルシンボリ交響楽団音楽監督のマキシム・パスカルで、演奏は東京フィルハーモニー交響楽団。愛知・大分公演では名古屋フィルハーモニー交響楽団音楽監督・川瀬賢太郎が指揮を担当し、名古屋フィルハーモニー交響楽団の演奏で上演を行う。

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写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦

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写真提供:公益財団法人東京二期会
撮影:寺司正彦

ウィーン・フォルクスオーパー、ウィーン国立バレエ団との共同制作
東京二期会オペラ劇場

『くるみ割り人形とイオランタ』〈新制作〉

日本語字幕付原語(ロシア語)上演
『イオランタ』

原作:ヘンリック・ヘルツ『ルネ王の娘』
台本:モデスト・チャイコフスキー
『くるみ割り人形』
原作:E.T.A.ホフマン『くるみ割り人形とねずみの王様』
作曲:ピョートル・チャイコフスキー
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<東京>2025年7月18日(金)・19日(土)・20日(日)・21日(月・祝) 東京文化会館 大ホール
<愛知>7月26日(土) 愛知県芸術劇場 大ホール
<大分>8月2日(土) iichiko総合文化センター iichikoグランシアタ

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