ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2014.08.11]

ノイマイヤーやスカーレットの現代作品で新境地を見せたコジョカル

〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト2014〉
Aプロ:『リリオム』より「ベンチのパ・ド・ドゥ」ジョン・ノイマイヤー:振付 ほか
Bプロ:『レディオとジュリエット』エドワード・クルグ:振付 ほか

抜群のテクニックと表現力で圧倒的な人気を誇るアリーナ・コジョカルがプロデュースする〈ドリーム・プロジェクト〉が、初回の2012年に続き開催された。公私にわたるパートナーのヨハン・コボーと共に演目や出演者を決めているそうだが、二人が英国ロイヤル・バレエ団に在籍していた前回は、参加者のほとんどが同団やイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)の精鋭たちで占められていた。それが、コジョカルが2013年にENBに移籍し、コボーも2014年1月にコジョカルの故国ルーマニアの国立バレエ団の芸術監督に就任したこともあり、今回は出演者の顔触れが多彩になり、ルーマニアのバレエ団やオランダ国立バレエ団からもフレッシュなダンサーが加わった。ロイヤルで長く活躍した吉田都が友情出演するのも嬉しいプレゼント。演目では、ノイマイヤーやリアム・スカーレット、エドワード・クルグによる話題作で、コジョカルがどのような境地を見せるかが期待された。東京ではAプロとBプロが上演された。

tokyo1408b_5809.jpg 日高、チェンツェミエック
撮影:長谷川清徳

【Aプロ】バックの星空に向かって座るコジョカルが音楽と共に踊り始め、ルーマニア国立バレエ団の男性ダンサーたちと“ローズ・アダージオ”ふうに踊り、デュエットを展開し、高くリフトされて終わるというオープニングが用意されていた。最初の演目は、ルーマニア国立バレエ団の日高世菜とダヴィッド・チェンツェミエックによる『エスメラルダ』。日高はしなやかな身体を活かして、頭上高く掲げたタンバリンをつま先で打ち鳴らし、バランスを長く保ち、トリプルのピルエットに続くグラン・フェッテも安定していて、今後を期待させた。
吉田都とスティーヴン・マックレーによる『ラプソディー』よりは、それぞれのソロを加えた華麗なパフォーマンスだった。身体にフィットした黄色い衣裳のマックレーが鮮やかな回転や跳躍を披露すると、対照的に吉田は音楽を奏でるようにポアントを美しく操り、典雅なパ・ド・ドゥにつなげた。それにしてもマックレーのパフォーマンスは驚異的で、マネージュではジャンプして空中で斜めに傾けた身体を回転して着地するというのを繰り返し、コマのように超高速で回転してもみせた。しかも、常に音楽と一体で、気品を保っていたのだ。吉田とも打ち解けたパートナーシップが感じられた。

tokyo1408b_6029.jpg 吉田、マックレー
撮影:長谷川清徳
tokyo1408b_5581.jpg カスバートソン、ムンダギロフ
撮影:長谷川清徳
tokyo1408b_6323.jpg コジョカル、ユング
撮影:長谷川清徳

オランダ国立バレエ団のユルギータ・ドロニナとイサック・エルナンデスは同団の常任振付家ハンス・ファン・マーネンの『HETのための2つの小品』で登場。男女の濃密な関係性を描いた作品で、スピーディーでエネルギーのあるやりとりが展開される前半と、内面に踏み込み、緊張感あふれるドラマを紡いでいく後半が対照的。ドロニナの情感豊かな表現が、黒いシースルーのセクシーな衣裳を着たエルナンデスの瑞々しい演技をリードした形。
『眠れる森の美女』よりグラン・パ・ド・ドゥを踊ったのは、英国ロイヤル・バレエ団のローレン・カスバートソンとワディム・ムンタギロフ。二人とも調子に乗れなかったようで、パートナリングがもたついていたのも気になった。
日替わりの〈本日の特別プログラム〉は『アイ・ガット・リズム』。マックレーが、ガーシュウィンの曲に自ら振付けたタップダンスを披露。タップも学んだというだけに軽快で洒脱な脚さばきで、持てる芸の幅広さを印象づけた。
さて、いよいよコジョカルの登場。ハンブルク・バレエのカーステン・ユングと組み、ジョン・ノイマイヤーの『リリオム』(音楽=ミシェル・ルグラン)より「ベンチのパ・ド・ドゥ」を踊った。ミュージカル『回転木馬』の原作にあたる戯曲をバレエ化したもので、2011年の初演時もこの二人が主演した。ここでは、回転木馬の呼び込みをする無骨なリリオムと純真なジュリーが不器用に絡み合いながら互いに心を通わすまでが描かれる。ユングは、ジュリーに惹かれながらも突き放してしまう自身への苛立ちを自然体で表し、コジョカルは、何度突き放されても彼にすがり、やさしさで包み込もうとする娘のいじらしさを伝えていた。身体をこわばらせ、足先をフレックスにするなど、まるで踊りで会話を交わしているようで、濃密な心理ドラマを見る思いがした。

tokyo1408b_6369.jpg コジョカル、コボー
撮影:長谷川清徳

第2部は『白鳥の湖』第2幕より。コジョカルとコボーによるグラン・アダージオを中心に、東京バレエ団による4羽の白鳥や群舞を加えたもの。コジョカルは端正にオデットを踊り、王子のコボーは彼女を擁護するようにサポートしたが、格別な印象は残さなかった。
第3部の『海賊』ディヴェルティスマンは、贅沢なキャストによる夢のような技の競演となった。コンラッドとメドーラの寝室のパ・ド・ドゥでは、コジョカルとコボーが明るく優美に踊り、リフトされたまま大胆なポーズを取るなど、パートナーシップの良さがうかがえた。奴隷市場のパ・ド・ドゥでは、ランケデムのマックレーが超人的な技をこれでもかと披露して圧倒。ギュリナーラのドロニナは確かなテクニックで丁寧にパをこなし、グラン・フェッテではダブルを入れてきめた。日高とカスバートソン、チェンツェミエックによるヴァリエーションも挿入された。最後はメドーラ、コンラッド、アリによるパ・ド・トロワで、コジョカルは脚を思い切りよく高く振り上げ、ダイナミックな跳躍を見せた。コンラッドのムンタギロフとアリのエルナンデスは、競うように切れ味の鋭い脚さばきで燃焼度を上げていったが、ムンタギロフの大技を入れたマネージュが光った。コーダでは、コジョカルら女性4人がそろってグラン・フェッテで痛快に回り、続いて男性陣がグラン・ピルエットを展開し、大いに舞台を盛り上げた。
(2014年7月22日 ゆうぽうとホール)

tokyo1408b_6681.jpg スティーヴン・マックレー 撮影:長谷川清徳 tokyo1408b_6684.jpg 「海賊」撮影:長谷川清徳

【Bプロ】オープニングはAプロと同じ。続いて上演されたのは『パリの炎』。カスバートソンとムンタギロフは調子を取り戻したようで、カスバートソンはダブルを入れたグラン・フェッテも安定し、ムンタギロフは壮快な跳躍や回転技を見せた。コジョカルがノイマイヤー版『真夏の夜の夢』よりを踊るというので期待したが、取り上げたのは妖精世界ではなく、人間世界の「結婚式のパ・ド・ドゥ」。コジョカルは一つ一つのポーズが実にきれいで、緩急自在に踊りこなした。相手役のチェンツェミエックは、安定感が今一つ。
『白鳥の湖』より「黒鳥のパ・ド・ドゥ」でオディールを踊ったのはベルリン国立バレエ団のヤーナ・サレンコ。美しいポール・ド・ブラで、バランスを長く保ち、鮮やかな回転技も優雅にこなし、王子の反応を盗み見るなど演技も細やか。王子のマックレーは派手な超絶技巧は控えたものの、見事な跳躍ときれいな着地が気持ち良い。オディールを疑うそぶりをみせながら、誘惑にのってみようかという気持ちも感じさせて、興味深かった。

次はコジョカルとコボーによる『ノー・マンズ・ランド』よりパ・ド・ドゥ。気鋭の振付家リアム・スカーレットが、ENBの委嘱で第一次世界大戦開戦百年を記念する公演のため振付けたもので、今年4月に初演されたばかり。タイトルは無人地帯、すなわち敵対する両軍の最前線の占拠されていない地域の意味で、最前線に赴く男と残される女たちの想いを描いた作品という。リストの「詩的で宗教的な調べ」のピアノ演奏にのせて、男が女をしっとり抱きかかえ、女を後ろから抱き付かせたまま回るなど濃密なデュエットが展開され、別れを前に乱れる心の内を伝えた。コボーが漂わせた絶望感とコジョカルが滲ませた哀しみが相まって、感銘深い舞台となった。
『ドン・キホーテ』より結婚式のパ・ド・ドゥを踊ったのはドロニナとエルナンデス。ドロニナは長いバランスを保ち、手にした扇を開いたり閉じたりしてもぶれず、ダブルを入れたグラン・フェッテをこなし、エルナンデスもスケールの大きなジャンプで応じていた。〈本日の特別プログラム〉は『眠れる森の美女』より「ローズ・アダージオ」で、コジョカルがコボーらルーマニア国立バレエ団の男性相手に踊った。コジョカルは正確にステップを踏み、長くバランスを保ち、可愛らしく演じていたが、何としても威厳が備わっている。求婚者たちがカジュアルな服装なのでチグハグに映ったが、コジョカルの存在を引き立て、際立たせてはいた。

tokyo1408b_7158.jpg サレンコ、マックレー
撮影:長谷川清徳
tokyo1408b_7320.jpg コジョカル、コボー
撮影:長谷川清徳
tokyo1408b_7405.jpg ドロニナ、エルナンデス
撮影:長谷川清徳

第2部は『レディオとジュリエット』。ルーマニアの振付家エドワード・クルグが、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』を題材に、ロミオの死後、もしジュリエットが命を絶たなかったらという仮定のもとに創作したという。イギリスのロックバンド、レディオヘッドの音楽を用いた約1時間の作品で、2005年の初演。女性はコジョカルだけでルーマニア国立バレエ団の男性ダンサー6人が共演した。モノクロ映像で始まったが、建物や横たわる女の身体のクローズアップ、窓辺に寄る姿、出入りする男など、結構長いが、意味がつながらない。昏睡状態から目覚めたジュリエットとしてコジョカルが舞台に現れ、それまでに起こったことを回想する形で進行した。ビュスチェにショートパンツのコジョカルは肘や手首をとがらせるようにするなど、滑らかさとは真逆の切り込むような鋭さでソロを踊った。男性ダンサーは黒いジャケットとズボンで、ジャケットの下は裸。6人とも同じ服装なのは役を固定しないためか。中盤、彼らが白いマスク(鼻と口を覆うもの)をつけて現れたのには驚いたが、ジュリエットがロミオのマスクを外し、バルコニー・シーンを思わせるデュエットに続いたので、仮面の代わりと納得。マキューシオとティボルトの戦いなど、それと悟れるシーンはほかにもあったが、全体に抽象的。終盤の映像も結構長かったが、少々、意味不明。最後、コジョカルはロミオの遺体のそばでレモンをかじり、それを彼の上着のポケットに入れたが、これはジュリエットは生きることを選ぶということなのか。原作をなぞった舞台でないのは分かるが、クルグの意図が今一つ、つかめない。ロボットを思わせるような素早くシャープな振りに現代的センスを感じたが、色々な意味でもどかしさが残った。とはいえ、Aプロ、Bプロともにクラシックに刺激的な現代作品を織り込んだ構成は多彩で、見応えある〈ドリーム・プロジェクト〉だった。特にコジョカルが現代作品で表現力を深めていることが再確認できたのが大きな収穫。次回はさらにどう進化するか、楽しみになった。
(2014年7月25日 ゆうぽうとホール)

tokyo1408b_7128.jpg 撮影:長谷川清徳