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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2014.07.10]

鮮烈なカルメン像を構築した金森とそれを演じ切った井関による劇的舞踊

Noism 1 & Noism 2
劇的舞踊『カルメン』金森穣:演出・振付

これほど粗野で傍若無人なカルメンを見たことがあるだろうか。新潟を拠点に世界に向けて刺激的な舞踊作品を発表している金森穣が、新たに創作した劇的舞踊『カルメン』のヒロインである。“ファム・ファタール”や“魔性の女”といった域を超えた、“猛女”のようなカルメンだった。劇的舞踊としては2作目の『カルメン』は、りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館が、金森を舞踊部門芸術監督に迎え、我が国初の公共劇場専属舞踊団として立ち上げたNoismの設立10周年記念作品。なお、2009年に付属研修生カンパニーNoism2が結成されたため、本体はNoism1となった。今回は両者の合同公演である。
Noism版『カルメン』は、メリメの小説と、これに創意を得たビゼーのオペラ〈カルメン〉の台本を基に、金森が独自に創り上げたもの。音楽はビゼーの〈カルメン〉のオーケストラ版や、他の作曲家による組曲版や交響曲版を組み合わせて構成しており、旅する学者メリメがホセから聞いた話を書きとめた物語を舞踊劇として見せるという形をとっている。これまでの作品と大きく異なるのは、語り手としてメリメ役に初めて俳優を起用したことで、SPAC(静岡県舞台芸術センター)の専属俳優、奥野晃士が務めた。

tokyo1407d_01.jpg 撮影:篠山紀信

開演前から、舞台の上手脇にセットされた書斎でメリメが執筆している。謎の老婆・ドロッテ(石原悠子)が蓄音機に〈カルメン〉序曲を大音量で掛けると、メリメは操られるように旅の出来事や会った男のことを語り始め、それが舞台で白幕にシルエット劇で映し出されもし、やがてホセとカルメンを軸とするエキサイティングな舞踊劇へと移っていく。カルメンは野性の女(井関佐和子)、ホセは理性の男(中川賢)、上官スニガは権力の男(角田レオナルド仁)、闘牛士リュカスは栄誉の男(吉崎裕哉)、カルメンの夫ガルシアは極道の男(藤澤拓也)というように性格付け、これにホセの許婚者ミカエラ(真下恵)やカルメンの仇敵マヌエリータ(青木枝美)らをからめて緻密にドラマを構築していた。こうした性格付けを振りで巧みに描き分けた金森の手腕と、演じたダンサーたちの力量に感心させられた。
特筆すべきはカルメンの井関で、裸足でドシドシ歩き回り、脚を大きく振り回し、妖しく身体をしなわせ、超然と構え、何物にも束縛されない強烈な意志力をみなぎらせていた。マッツ・エック版のカルメンやジゼルよりも狂暴に見えた。中川は、まっとうさを求めながら道を踏み外してしまうホセの心の弱さや繊細さを伝え、真下は純情でひたむきなミカエラを好演。カルメンやホセ、ミカエラそれぞれのソロは場面毎に異なる心の内を滲ませていたし、またカルメンとホセ、ホセとミカエラが展開する親密な、時に凄絶なデュエットはダンスでせりふを語るような迫力があり、見応えがあった。

tokyo1407d_02.jpg 撮影:篠山紀信

闘牛場でリュカスが上から落ちてきた牛の作り物の下敷きになったのには、ドキっとしたが(メリメの原作を受けたのだろう)、それ以上に、降り注いだ黄色い粒(カルメンを象徴するアカシアの花?)が床一杯に広がった中のカルメンとホセの刹那的なデュオや、ホセに刺される瞬間、カルメンが長髪のカツラを脱ぎ捨てるシーンが鮮烈だった。また、ホセに刺されたガルシアに自身の運命を思いやる表情や死者たちの踊りに怯える姿には、カルメンの別の一面がうかがえた。けれど金森は、カルメンの死やホセの処刑で幕を閉じはしない。カルメンが老婆に扮してメリメの執筆を煽り、舞台中央のイスに座わり、客席に向かって葉巻の煙をフッと吐く終幕が用意されていた。どこまでも自由であることを貫き、誇り高く奔放に生き抜いたカルメンの存在を際立たせてみせたのである。序幕のメリメの語りの部分がやや長く感じたが、おかげで物語が分かりやすくなったし、狂言回し的な謎の老婆の存在も効いていた。前半は35分だが、後半は75分と長かったが、ダンスとドラマの密度が濃く、緊迫感が途切れることはなかった。
(2014年6月20日 KAAT神奈川芸術劇場)

tokyo1407d_03.jpg 撮影:篠山紀信