舞踏やバレエで特攻隊兵が見た幻影を描く、K-BALLET Opto『踊る。遠野物語』リハーサル・レポート
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香月 圭 text by Kei Kazuki
ダンスを通して社会と心の深層に迫る作品を発信しているBunkamuraとK-BALLET TOKYOによるプロジェクトK-BALLET Opto。第4弾は、森山開次の演出・振付・構成による『踊る。遠野物語』。12月末の東京公演を皮切りに、来年1月には山形、秋田、青森、岩手、北海道と巡演する。8月末にK-BALLET TOKYOスタジオで公開リハーサルが行われた。
石橋奨也、大久保沙耶 ©渡邉肇
中村明一 ©渡邉肇
1945年、ある特攻隊兵の出撃を前に書かれた遺書には、愛する許嫁に「会いたい、話したい、無性に。」という言葉が残されていた。出撃した彼の乗る戦闘機は、現世とあの世が交差する「遠野」に墜落する。青年は神隠しにあった「少年K」に導かれながら、山人、雪女、オシラサマなどと遭遇し、許嫁の面影を求めて遠野の地をさまよう。柳田國男が筆記・編纂した説話集『遠野物語』に登場する妖怪たちが次々と登場し、物語を豊かに彩る。青年は許嫁に再会できるのか――。
リハーサルは、音楽監督・作曲も務める中村明一の尺八の生演奏から始まった。森山開次による舞台演出の指示出しの声も時折入る。特攻隊兵役のK-BALLET TOKYOプリンシパルの石橋奨也。両手を広げ、出撃。戦闘機の轟音とともに、K-BALLETの他のダンサーたちも両手を広げ、戦地に向かっていく。石橋の乗った飛行機は撃墜され、彼は群舞に抱えられながら崩れ落ちていく。
やがて轟音は波の音に変わり、石橋は海辺に倒れている。そこに「少年K」(尾上眞秀)が現れ、石橋をそっと起こし、遠野の世界へと誘う。稽古開始前の眞秀は、K-BALLET TOKYOの団員たちと共にリラックスした風情だったが、出番になると、歌舞伎やTV・映画などで鍛えられた舞台人としての存在感を放っていた。
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石橋奨也(中央)©渡邉肇
奥山ばらば、小田直哉、小川莉伯、村松卓矢、松田篤史 ©渡邉肇
大駱駝艦の村松卓矢、松田篤史、小田直哉と奥山ばらば、小川莉伯が「山人」として登場。大きな地響きを立て、両手を獣のように上げて、ウォーとうなりながら、石橋に襲いかかる。猛々しい表情など全身で役を演じる彼らの迫力が凄まじい。民謡歌手の菊池マセが赤子に見立てた赤紐を胸に抱きながら子守唄を歌い、遠野の里山に暮らしていた人々の息づかいを伝える。また、大駱駝艦の創設期のメンバーだった田中陸奥子が山姥として登場し、石橋としばし対峙。正気を失って怯えている田中の様子には鬼気迫るものがあった。
吹雪のような効果音に切り替わると、筝曲の激しい調子に合わせて、大久保沙耶がポワントの爪先を床に強く突き刺しながら登場した。表情も冷たく、雪女の冷涼感や冬の厳しさが表現されていた。「オシラサマ」のシーンでは、大久保扮する遠野郷の娘が、馬の被り物をまとったK-BALLET TOKYOの男性ダンサーたちにまたがって登場。彼女と馬が共に踊り、互いに心を通わせる和やかな場面でも馬が本物のように見えた。ボールを持ったK-BALLET TOKYOのダンサーたちが麿赤児を囲んで動くシーンは、ボールの連なりが数珠を表しているようだ。大駱駝艦を牽引してきた麿の引き締まった身体は実に若々しく、複雑な感情が入り混じった表情やゆっくりとした動きのなかにも、観る者を引き付ける圧倒的な存在感があった。赤い津波のシーンでは、K-BALLET TOKYOダンサーたちによるダイナミックなジャンプと、声と体で大きいうねりを表現する舞踏家たちの動きが合わさって、荒れ狂う海の世界が現れた。
石橋奨也、大久保沙耶 ©渡邉肇
石橋奨也、田中陸奥子 ©渡邉肇
リハーサル終了後の囲み取材で、森山は「シーンの数が多いですね。2年前から構想してきた『遠野物語』自分の頭の中のイメージを皆に投げかけて、創作を進めています。稽古場では、皆が振付を自分のものにしようという気概を感じています。一人ひとりの個性を引き出していきたいです」と語った。
舞踏とバレエという、身体性の違う舞踊家たちをいかにひとつにまとめるのか。「難しさより面白さのほうが勝っています。高く飛びたいという思いでクラシック・バレエの稽古もしましたし、下へ向かう舞踏の表現もやってきたので、両ジャンルの舞踊家の方々と一緒に創作できてうれしいです」。録音音源に加えて森山自ら、風の音や唸り声などを立て、撥(ばち)を鳴らして効果音を演出していたリハーサルだったが「中村さんと音楽チームには7割方、形を作ってきていただいて、稽古場で生の音を入れて、さらに創り込んでいます。舞踏では自分自身の音を出し、僕も稽古場で自分の音を立てています。生で生じる掛け合いを大切にしたいです。遠野にも行かせていただきましたが、そこで感じた音の感覚も要素に活かしたいと思います」と説明。また、今回共演するK-BALLET TOKYOメンバーについて「リスペクトする熊川哲也さんのもとから、新しい才能が芽吹いてきたと感じています。誠実で真面目でひたむきで、これからを背負って立つ人たちです」とコメントした。
菊池マセ ©渡邉肇
右より、麿赤兒、尾上眞秀 ©渡邉肇
大久保沙耶(右)©渡邉肇
麿赤兒(中央)©渡邉肇
K-BALLET Opto『踊る。遠野物語』
演出・振付・構成:森山開次
企画:高野泰樹
舞台美術・衣裳:眞田岳彦、音楽監督・作曲・尺八演奏:中村明一、作曲:吉田 潔、アーヴィッド・オルソン、振付助手:梶田留以、箏演奏:磯貝真紀、歌:菊池マセ
出演<K-BALLET TOKYO>
石橋奨也、大久保沙耶、塚田真夕、辻梨花、金瑛揮、武井隼人、中井皓己、梅木那央、大坪明日香、堀貴文、向井裕一朗、森雅臣、高橋怜衣*、山田夏生* *K-BALLET Optoダンサー
<ゲスト出演>
麿 赤兒、尾上眞秀、田中陸奥子、森山開次、村松卓矢(大駱駝艦)、松田篤史(大駱駝艦)、小田直哉(大駱駝艦)、奥山ばらば、水島晃太郎、小川莉伯
公式特集ページ:https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/25_opto_tohnomonogatari/
【東京公演】
日時:2025年12月26日(金)15:00開演、27日(土)12:30開演/17:00開演、28日(日)12:30開演/17:00開演
会場:東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
◆東北ツアー
【山形公演】
026年1月9日(金)18:30開演。荘銀タクト鶴岡 (鶴岡市文化会館)大ホール
【秋田公演】
2026年1月12日(月・祝)15:00開演。あきた芸術劇場ミルハス 大ホール
【青森公演】
2026年1月15日(木)18:30開演。SG GROUPホールはちのへ(八戸市公会堂) 大ホール
【岩手公演】
2026年1月18日(日)15:00開演。北上市文化交流センターさくらホールfeat.ツガワ 大ホール
【北海道公演】
2026年1月20日(火)18:30開演。札幌市教育文化会館大ホール
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