ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2014.04.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
Noismは設立10周年記念公演に、金森穣の演出振付による『カルメン』を製作・上演すると発表した。『カルメン』といえば、ローラン・プティ&ジジ・ジャンメール、マッツ・エク&シルヴィ・ギエムあるいはアントニオ・ガデスなど様々なダンス作品が思い浮かぶが、とりわけ、プリセツカヤが主演し、アルベルト・アロンソが振付けた舞台が私には最も印象的だった。闘牛場を舞台とした全1幕のバレエ。死を表わす踊り、運命を表わす牛、あるいは時折椅子の上に現れる観客などの象徴的表現を用いて、恋に生きる、という意味を闘牛場に仮託した「人生」という場に凝縮した傑作だった。
金森によるNoism版は、メリメの原作に依拠。旅する学者が実際に遭遇した、カルメンとホセの物語を語る。そのために俳優の奥野晃士を起用し、演劇×舞踊として創る劇的舞踊の『カルメン』となる。かつてないまったく新しいカルメン像を描き出したい、という意欲的な演出振付作品である。
映画ではビセンテ・アランダ監督によるメリメの原作を忠実に映画化した『カルメン』(2002年スペイン・イギリス・イタリア映画)があるが、ダンスでは時空を超えて物語世界と現実の語り手が交錯する、という。今夏、期待のダンスだ。

バランシン/チャイコフスキー、ラトマンスキー/ショスタコーヴィチ他、ABTの華麗なガラ

AMERICAN BALLET THEATRE アメリカン・バレエ・シアター
All Star Gala Performances A "PIANO CONCERTO#1" by Alexei Ratomansky etc.
オール・スター・ガラ 『ピアノ・コンチェルト 第1番』アレクセイ・ラトマンスキー:振付他

ABTの「オールスター・ガラ」を観た。ワシーリエフ/オーシポワの『ドン・キホーテ』のパ・ド・ドゥが演目変更となり、オーシポワの『マノン』のソロとなった。ワシーリエフの踊りが観られなかったのは少々残念だった。
開幕はバランシン振付『テーマとヴァリエーション』。チャイコフスキーの管弦楽組曲第3番の第4楽章に1947年に振付けたもの。後年、バランシンはチャイコフスキーのこの組曲第3番全体に振付け、「テーマとヴァリエーション」もそこに収めている。
チャイコフスキーの曲想を自在に表現しているが、これは本来、舞踊曲ではない。華やかなシャンデリアだけが掛けられた素の舞台で踊られる。セットとしては、チェリーらしきものを天に置いた『イン・ザ・ミドル・サムワット・エレヴェイテッド』を連想するものがあるが、もちろん動きはフォーサイスとは異なる。しかし「ロシア帝室バレエの栄華を再現しよう」(公演プログラム)としてるからといって、プティパの踊りの復元を試みているわけでは、もちろんない。
コール・ド・バレエのポワントな先端からプリンシパルの指先1本1本のポーズまで、またダンサーの全身のすべての動き緩急、美しく変幻するフォーメーションのあらゆるフォルムが、バランシンのきめ細かな美意識によってコントールされているのが分る。そしてそれらすべてがチャイコフスキーの音楽と一体となって、帝室劇場の華麗なる舞台への、バランシンのノスタルジーを歌っているのだ。
イザベル・ボイルストンとダニール・シムキンという似合いのカップルがプリンシパルを踊った。色鮮やかなチュチュを着けたゴール・ド・バレエが、背景となってプリンシパルの踊りを引き立てる。そして、豪華絢爛なロマノフの宮廷文化を彷彿させながら、バランシン独特のスピーディな動きが、それが過ぎ去った儚い夢であることを表わしていた。

続いて加治屋百合子とエルマン・コルネホの『ジゼル』の2幕のパ・ド・ドゥ。加治屋は軽やかにしかし心を込めて踊っていることが観客にも良く伝わり、大きな喝采を浴びていた。コルネホはラテン系のダンサーらしい情熱的な踊り。すべてを失った貴族の青年の絶望感よりもジゼルへの愛が優っているようにも感じられた。
次にオーシポワが、コリーン・スターンズのデグリューとロマン・ズービンのムッシュ・GMを相手に『マノン』第2幕のソロを踊った。劇中、マノンの奔放な生き方を垣間見せるシーンだ。
次は『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥ。ヒー・セオとアレクサンドル・ハムーディが踊った。ヒー・セオはほぼ完璧に近く踊ったが、印象としてはもう少し柔らかさが欲しいとも感じた。笑顔にも少し緊張感が残った。ハムーディは堂々たるプロポーションで立派に王子を踊った。
そしてジュリー・ケントとロベルト・ボッレの『椿姫』黒のパ・ド・ドゥ。さすがにキャリア充分の二人だけあって、観客を圧倒する表現力だった。二人で一緒に音楽を咀嚼してじっくりと味わっているかのような、息のあった演舞である。一見、華奢に見えるケントはじつは激しく燃え上がる情熱の持ち主で、 ボッレがそれをがっしりと 受け止めるのだが、そこには無限の愛の地獄をさまよう悲劇があったのだ。

tokyo1404a_1488.jpg (C) Hidemi Seto tokyo1404a_1493.jpg (C) Hidemi Seto tokyo1404a_1508.jpg (C) Hidemi Seto

最後はラトマンスキーの振付による、ドミトリー・ショスタコーヴィチの『ピアノ・コンチェルト第1番』。ストラヴィンスキー、プロコフィエフとともにロシアの20世紀音楽を代表する作曲家ショスタコーヴィチの曲を、ラトマンスキーは既に『明るい小川』他3曲振付けている。
プリンシパルはジリアン・マーフィーとコリーン・スターンズ、スカイラー・ブラントとゲイブ・ストーン・シェイヤー。この二組のカップルが女性が赤、男性が黒のレオタード。ゴール・ド・バレエは、前がグレー、後ろが赤紫のレオタード。この前と後ろの色違いのコール・ド・バレエのコスチュームが、ダンサーの動きが描く様々のフォーメーションに色の塊となって変化を与え、とてもおもしろい効果を果たしていた。ダンサーの身体をキャンバスのように使って、動きが織り成すフォルムに色彩を与えいた。背景には三日月や星など可愛らしい感じのオブジェを吊してあった。こうして動きだけではなく、色彩の変化や、幼児の心のような純粋な世界を映しているオブジェにより、音楽の持つちょっとシニカルな感じと、人間味のあるニュアンスを舞台を現出していた。動きそのものにはこれといった際立った特徴は感じられなかったが、ラトマンスキーらしい明るく豊穣なイメージには魅了された。
(2014年2月25日 Bunkamura オーチャードホール)

tokyo1404a_1587.jpg (C) Hidemi Seto tokyo1404a_2369.jpg (C) Hidemi Seto