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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.11.11]

ロルカの詩の尽きることのない深い悲しみを踊った、石井智子スペイン舞踊団

石井智子スペイン舞踊団
『Loruca ロルカ----Romancero Gitano y Llanto ロマンセロ ヒターノ イ ジャント----』
石井智子:演出・構成・振付・脚本

石井智子スペイン舞踊団公演「ロルカーロマンセロ ヒターノ イ ジャント」。フェデリコ・ガルシア・ロルカの詩をモティーフにした舞台だ。ゲストにバイレのエル・フンコ、カンテにファン・ホセ・アマドールとヘスス・コルバチョ、作曲およびギターにエウヘニオ・イグレシアスをスペインから招いて石井智子スペイン舞踊団とともに踊った。

tokyo1311f_6638.jpg 「月よ、月よのロマンセ」

開幕前から鍛冶の音が響き、幕が開くと大きな月をじっと見つめて男の子がひとりぼっちで佇んでいる。空気は澄み渡っており、月の光か冷ややかに輝いている。やがて月の精かと見まがう踊り手が現れる。夜の冷たい空気を纏うかのように踊り始める。石井智子のソロだった。この踊りの元となったロルカの詩「月よ、月よのロマンセ」は、「子供に月を見つめさせすぎると連れていかれてしまう」というアンダルシア地方の言い伝えに基づいている。そこでは月は死を表してる。まるで月の光の糸を織りなすような柔らかな踊り。子供が月に魅入られると、空気が不吉を感じてざわめく。そしてロマたちの到来が告げられる‥‥。

死を象徴する月をアンダルシアの踊りによって表し、ロルカの故郷の言い伝えによる神話的な物語を歌った詩を舞台に描いている(マルティネーテ、アレグリアス)。美しい月の光りに映し出された透明感のある世界が、ロルカの詩を踊る舞台のオープニングに相応しい、と感じた。
「夢遊病者のロマンセ」(ソレア・ボル・ブレリア)は、山賊に襲われて瀕死の重傷を負った恋人に会うことを夢見て月の光の下で待つロマの娘。死の予感に襲われて会うことなく身投げした。その癒やすことのできない悲しみを歌った詩に、インスピレーションを得て創られた踊りだ。ロマの娘を石井智子、恋人をエル・フンコが踊った。生きるためのギリギリのせめぎ合いが、迫真の踊りによって表わされた。

tokyo1311f_3076.jpg 「月よ、月よのロマンセ」 tokyo1311f_6618.jpg 「月よ、月よのロマンセ」 tokyo1311f_3406.jpg 「夢遊病者のロマンセ」

さらにエル・フンコが踊った「イグナシ・サンチェス・メヒーアスへの哀悼歌」(シギリージャ)は渾身のシギリージャ。圧巻だった。サパティアードが音楽のように歌のように、自在に劇的表現を創る。前髪をやや長めに垂らし、一見、アントニオ・ガデスを想い浮かばせる風貌だが、さらに長身だ。その長い足を巧みに操ってリズムを時に激しく激越に、時に優しく哀しく踊った。
そしてラストの「黒い悲しみのロマンセ」(バンベーラ)は、アンダルシアの女性ソレダード・モントーヤの宿命的な悲哀を歌った詩を踊った感動的な作品だった。
雄鶏たちのつるはしが 夜明けを探して 穴を掘る、
その頃 ソレダード・モントーヤが 暗い山を降りてくる。‥‥とロルカの詩はその「黒い悲しみ」を語り始めている。
ロマンの女、ソレダード・モントーヤの尽きることなく果てしない悲しみ、それは避けることのできない戦い、身近な人の死、人間の存在の拭うことのできない悲しみだ。
石井智子がロマの女、ソレダード・モントーヤに扮して、アンダルシアの女性の苦しみ、悲しみを踊る。フラメンコの踊りのありとあらゆるテクニックを駆使して、全身で暗い情熱を舞台に表わす。それは、14歳の時に出会ったロルカの詩、死を歌った詩に魅せられた石井自身の魂をすべてを捧げているかのような踊りだった。
そのほかには「七人の乙女の歌」(タンゴ)、「夜の図式」「セビーリャ小唄」(ハレオ)が踊られた。群舞も良く踊って深い情感を表わし、味わいのある舞台を創っていた。
(2013年10月19日 銀座ブロッサムホール)

tokyo1311f_0803.jpg 「黒い悲しみのロマンセ」 tokyo1311f_6935.jpg 「黒い悲しみのロマンセ」
tokyo1311f_6711.jpg 「夜の図式」 tokyo1311f_7242.jpg 「七人の乙女の歌」