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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2013.10.10]

コジョカルとフォーゲルの卓越した演技が素晴らしい舞台を牽引した

Corpo di Ballo del Teatro alla Scala ミラノ・スカラ座バレエ団
“Romeo and Juliet” Choreography by Kenneth MacMillan
『ロミオとジュリエット』 ケネス・マクミラン振付

ミラノ・スカラ座バレエ団が6年振りに日本公演を行った。“オペラの殿堂”として揺るぎない評価を得ているスカラ座の公演に続いて行われたもので、2009年、長年マリインスキー・バレエの芸術監督を務めたマハール・ワジーエフをスカラ座バレエ団の芸術監督に迎えてからは初の来日である。レパートリーの開拓や伝統的な作品に新風を吹き込むといった改革に力を入れているそうだが、今回の公演に選ばれた演目は日本でも人気の高いケネス・マクミランの『ロミオとジュリエット』。2010年に舞台装置と衣裳を一新した、スカラ座独自のプロダクションという。さらに、主役に、これが初共演となるアリーナ・コジョカルとフリーデマン・フォーゲルと、ミハイロフスキー・バレエのナターリヤ・オシポワとイワン・ワシーリエフという二組の豪華なゲストを招いたのも話題を呼んだ。この夏、英国ロイヤル・バレエ団からイングリッシュ・ナショナル・バレエに移籍した、マクミラン作品を踊りこんでいるコジョカルと、クランコ版やディーン版のロミオも踊っているフォーゲルが共演した日を観た。

tokyo1310a02.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

フォーゲルはひときわ長身で、どこにいても目立つ存在だが、しっくりバレエ団に溶け込んでいた。ロザラインに振られても屈託なくマキューシオやベンヴォーリオとからみ合い、娼婦とも戯れた。けれどジュリエットと恋に落ちてからは、純粋で、一途に突き進んでいく情熱的な青年に変わる。コジョカルもジュリエットになりきっていた。乳母を相手に人形と戯れる姿や求婚者パリスに恥じらう様は幼いが、ロミオとの恋を通じて自分の意志を持ち、彼への愛を貫くようになる心の成長を、説得力豊かに伝えた。二人によるパ・ド・ドゥはどれも印象深いものだった。舞踏会での出会いのシーンでは、互いに惹かれるのを抑えられないという風に、戸惑いながらも心を響かせ合っていく様が初々しく映った。

バルコニーのパ・ド・ドゥでは、フォーゲルが身体をしなやかにそらせて喜びを伝えれば、コジョカルも心の高揚を表すようにジャンプしてみせ、流れるようなリフトを繰り返して二人は気持ちを確かめ合い、燃焼させていった。息の合った両者の演技により、このデュエットひとつでドラマが成り立つように思えた。寝室でのパ・ド・ドゥでは、入り乱れる感情のままにジュリエットを抱擁するフォーゲルと必死にロミオにすがるコジョカルの姿から、絶望感にとらわれた二人の悲痛な声が聞こえてくるようだった。これに続くコジョカルの演技も緻密だった。パリスとの結婚を拒み、勘当を言い渡されて放心状態でいる場面から、僧ロレンスに助けを求めること思いついて瞳を輝かせて走り出し、嫌悪感を押し殺してパリスとの結婚を承諾した後、恐怖をこらえて仮死状態になる薬を飲むまで、刻々と変化する心の内を丁寧に伝え、墓場でロミオの後を追って死ぬまで、一気に突き進んだ。

tokyo1310a01.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa

スカラ座のダンサーでは、マキューシオ役のアントニーノ・ステラが、舞踏会で切れ味の鋭いジャンプを音楽に乗せて披露。この役を持ち役としているらしく、剽軽な演技もこなれていた。ティボルトのミック・ゼーニは、シニカルで執念深い雰囲気を漂わせ、ロミオに刺されてもがき、目を剥いてロミオに斬りかかろうとする様が真に迫っていた。キャピュレット夫人のサブリナ・ブラッツォは、甥のティボルトがロミオに刺された悲しみをのたうち回って訴えたが、この大仰な演出にはやはり違和感を覚える。市場では、街の若い女たちが舞台の端の方で娼婦らをいたぶるシーンも盛り込まれており、マクミランの目配りを感じさせた。また、華麗なコステュームで着飾った男女が整然と踊る舞踏会のシーンでは、今一つ、周囲を威圧するようなパワーが欲しかった。さて、注目されたマウロ・カロージによる舞台装置とオデッテ・ニコレッティのデザインによる衣裳。開幕前の緞帳には空に浮かぶ白い雲が描かれていたが、空の色は希望や洋々たる前途を思わせる明るい色ではなく、悲劇を暗示するように暗かった。舞台にはヴェローナの野外劇場を模したような半円形のセットが設置され、煉瓦の壁と石段で囲われたステージで全てが展開された。石段は市場や舞踏会、バルコニーの場、寝室のベッド、墓場など、各シーンに応じて効果的に使い分けられ、舞台に奥行を与えていた。中世とルネサンスの流行を採り入れた衣裳には原色が大胆に用いられ、凝った個性的なデザインも見られた。これでオーケストラがミラノ・スカラ座管弦楽団だったら、申し分なかったのだが。
(2013年9月22日 東京文化会館)

tokyo1310a04.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1310a03.jpg Photo:Kiyonori Hasegawa