ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.07.10]

果敢に現代の事象に挑戦するダンスを創作した金森穣の最新作

Noism
『ZAZAー祈りと欲望の間に』金森穣:演出振付・照明

最新作『ZAZAー祈りと欲望の間に』は、金森穣にとって『black ice』(2005年)、『ZONE』(2009年)に続く三回目の三部作であり、今回は独立した三作品で構成されている。三作品共通のモティーフは「間<はざま>」である。
『ZAZAー祈りと欲望の間に』の第一部〈A・N・D・A・N・T・E〉は、時間をとりあげている。バッハの「ヴァイオリン協奏曲第一番イ短調BWV1401第二楽章 Andante」をデジタル操作により引き伸ばして使用している。およそ5分の曲を20分程度に伸ばし、基本の音楽としている。音楽の実際の時間は演奏者により微妙に異なり、Andanteが意味する歩くような速さという感覚もまた、時代によっても異なってくる、といった考えに基づいて振り付けられている。(『ZAZA』についての詳細は金森穣インタビュー参照
舞台には大きな白い円が描かれ、その回りを時計の針のように他の出来事には無関心にゆっくりと歩いて回る人がいる。中央では数人が踊り、時に、バン!  という衝撃音が入ると、その衝撃に促されたようにテンポが変わる(おそらく、この曲をデジタル操作により一秒間に縮めた時の音)。中央の白い円の中には雪片のように細かく刻まれた白い紙が、雪面のように敷き詰められている。それらが白鳥の羽毛のように、ダンサーが動くと緩やかに舞い上がる。白いボディスーツを着けたダンサーの身体にも細かい白い紙がランダムに付けられている。大きな円という抽象的な造形に、具象的で重さはないが質感を感じさせる白い紙片が不思議な効果を与えている。やがて天からも白い紙片が舞い降りてくる。時間という機械的な営みの間に白い花が咲いたかのような、メタフィジックな感覚に囚われ、めまいを感じた時のような状態に陥ったのを記憶していた。衣装(衣裳デザイン、堂本教子)がとても良く感覚を伝え効果的だった。

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第1部『A・N・D・A・N・T・E』 撮影:篠山紀信

第二部は「性」がとりあげられている。フィンランド語の同名の詩に基づいて作曲されたシベリウスの「囚われの女王 The Captive Queen, OP.48」を題材としている。その物語をスクリーン上に流し、井関佐和子が舞台前に登場。その詩の登場人物である女王、番人、若い男、英雄をイメージしてデザインされた衣装を脱ぎ捨てる。スクリーンが揚がると、中央に黄色い小さなボックス型の椅子。背後に真っ赤なボード、フロアはグリーンという信号原色カラーで構成されている。舞台中央に設えられた最小限の素朴なセットだが、まるでマレーヴッチの絵のような人間のまだ何色にも染まっていない原初の感覚を思い起こさせた(家具デザイン、須長檀)。ここで井関佐和子が踊るソロは、前述の女王、番人、若い男、英雄という4つの人格を表したものだという。様々な性を超えた人格のイメージに変貌する鋭い動きが舞台全体を揺るがす。人類全体へのメッセージが込められているかのような伸びやかな、井関佐和子ならではの躍動感が漲る表現だった。そして<囚われの女王>は解放されれた。

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第2部『囚われの女王』 撮影:篠山紀信

三部は、この作品の制作途上にインターネットを通して出会った「THE THE」という英国のロックバンドのサウンドトラック『MOONBUG』『TONY』の抜粋を使用。三部作それぞれ異なったスタイルの音楽とコラボレーションを試みている。
冒頭に井関佐和子がアダムのリンゴを持って登場。三部は「欲望」を題材としたパートである。際限のなく膨張を続ける欲望が猥雑に氾濫していく様がアイロニーをもって描かれ、踊られる。そして突然、「リンゴの唄」が歌われるが、これは戦争というとてつもない欲望の集成によって徹底的に破壊された東京の街からうまれて歌われた、一種の祈りのようなものであったのだろう、と私は解釈したが、もしかすると世界大戦と関わりなく「リンゴ」の唄として捉えられているのだろうか・・・。欲望の「間」で我を忘れて揉み合う人々の中から、一輪の白い花が手品のように現れて、いつしか次第に数を増して、一輪ずつの花が白い大きな円を描いていく。
ポスターから衣装、小道具(家具)まで、ビジュアルはすべてよく考えられ、さらにはプログラム冊子の編集方法にも、金森のイメージが徹底して行き届き、あらゆる局面から作品を創り上げていこうという姿勢に貫かれていて、たいへん感心させられた。
(2013年6月2日 KAAT 神奈川芸術劇場)

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第3部『ZAZA』 撮影:篠山紀信