ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2013.07.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪ 先日、ナタリア・オシポワが英国ロイヤル・バレエ団にプリンシパル・ダンサーとして入団する、と発表された。最近はプリンシパルで、まだ充分に踊れるダンサーの移動が多い。特に最近のロイヤル・バレエ団はロホ、ベンジャミン、コポーほかが退団するなど大きな移動があった。
かつては、ワガノワスタイルをバレエ学校で修得すれば、マリインスキー・バレエ団か他のロシアのバレエ団に入って踊り続けるのは、しごく当然のことだった。だから、有名なシルヴィ・ギエムのオペラ座からロイヤルへの移籍や「娘の教育のため」と言った理由も挙げられていたムハメドフのボリショイからやはりロイヤルへの移籍が、大きな話題を呼んだのである。ところが、今日ではちょっと目を離していると、正確なダンサーの所属を把握することができなくなるほど頻繁に移動が繰り返されている。そしてまた、ベルリン国立バレエ団のマラーホフ監督のシーズンも今季限りとなり、ドゥアトに代わる。さらにパリ・オペラ座の芸術監督も長期に渡ったルフェーブルが交代しミルピエとなって、前任者とは異なった舞踊観の指導者が、表面上はあまり抵抗なく受け入れられているかにもみえる。
このように次々と大きな移動が起きると、ネイティブと言えば言い過ぎだが、バレエ学校時代からバレエアーティストとしての全人教育を受けて身につけたもともとのスタイルとは、異なった流儀と折り合いをつけなければならないことにもなるだろう。そこから積極的なものが生まれれば、それはそれで素晴らしいことではあるが、未だそのような声は聞くことはない。21世紀のバレエはそうした背景の基にどんな発展をみせていくのだろうか・・・・。
誠に興味深いものがあるが、それをこの目で確かめることは、もはや時間的に不可能となってしまった、のでした。

あの世もこの世も超えた愛の絶対性を訴えた熊川哲也の『ジゼル』

K-BALLET COMPANY『ジゼル』
『ジゼル』熊川哲也:演出・再振付

熊川哲也演出・再振付による『ジゼル』。2001年、K-BALLET COMPANYの最初の全幕プロダクションとして、熊川が演出・再振付、主演した『ジゼル』。4年ぶりの再演に当たり、美術や振付を再度見直して上演した、という。

tokyo1307a01.jpg 撮影/小川峻毅

一幕冒頭で、アルブレヒトがドアをノックしてジゼルを呼び出す。いたずらっぽく物陰に隠れたアルブレヒトにジゼルが気が付くシーン。初演では後ずさりしてくるジゼルと背中合わせにぶつかってジゼルが気が付くという、ほかでも見られる「戯れる」演出だった。しかしその後の再演では、1人立っているアルブレヒトが振り向いたジゼルの視野に映画の場面転換のように入ってくる、と変更になった。空想の中で思い描いていた恋人の姿が、突然、現実に見えてくる、というジゼルの心のドラマを表わす表現となった。そしてまた、村人たちが踊るスペースを確保するために、プリンシパルがベンチを片付けたりすることはない。アルブレヒトは常にジゼルに寄り添い心を込めて愛と思いやりを十分に示しているので、母親が娘の体調を気遣ってダンスを中止させられやむなく別れると、観客もジークフリートと共に喪失感に襲われ、がっかりする。また、ジゼルは踊っていて突然、体の不調を訴えるが、その時、アルブレヒトが大丈夫か、と何度も念を押す。そこの表現もはっきりしているので、観客はジゼルの体にいつ不調があらわれるのか、不安をかかえながら見ることになる。ここは案外お座なりに扱われがちなシーンなのだが、はっきりと表現されていて分かり易かった。
それからヒラリオンの企みもあって、許嫁のバチルドと鉢合わせするシーンやジゼルがバチルドのネックレスをしていたので驚く表現も明快だった。ネックレスや剣などもドラマチックに、かつ象徴的に使用されている。ジゼルがネックレスのお礼に手に口づけしようとするとバチルド姫は激しく拒否する。ここにも断絶された階級を超えた愛の虚しさが表れた。
ジゼルが狂乱死したシーンも、初演の際に評価された、自身に裏切られて逝ってしまったジゼルのもとから、ウィルフリードに促されて一度は立ち去るが堪え難くもう一度とって返す、という演出を踏襲しなかった。そうした見ようによってはあざとく見えかねない演出ではなく、そこに至るまでのプロセスを念入りに表現することに務め、かえって今回の舞台に得難い意味を付与しようとしたのだろう。結局第1幕は、社会的階級を越えようと試みて断絶された愛を呪うかのように、ヒラリオンが剣を突き上げ、幕を下ろすエンディングになっていた。
第2幕は、アルブレヒトが圧巻だった。個々の振付や演出を言う前に、愛は絶対であって、前世も生まれ変わりも、地獄も極楽もない、と、終始一貫、この『ジゼル』はうったえ続けていた。だからジゼルはミルタに屈服することなく、彼女を(世俗的に)裏切ったアルブレヒトを庇い続ける。
ラストの夜明けを告げる鐘が、二人の愛を祝福する音色に聞えたのは、私だけではあるまい。
シンデレラに続いてタイトルロールのジゼルを踊った佐々部佳代は、第1幕ではシャイな気持ちを初々しく表わし、第2幕では繊細な演技と踊り。ジゼルに相応しい踊り手だと思った。これからもディティールにいっそう配慮して、熊川の抜擢に応えて欲しい。
(2013年6月6日 東京文化会館大ホール)

tokyo1307a02.jpg
撮影/小川峻毅