ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2013.05.10]

多彩な現代作品で "新しき世界" を提示したマニュエル・ルグリ

≪New Universe of Manuel Legris III≫
《マニュエル・ルグリの新しき世界 III》
【Program A】“Ludwig II—The Swan King” by Patrick de Bana, “Hamlet” by John Neumeier, etc.
【Program B】“Le Parc” by Angelin Preljocaj, “Not Without My Head” by Natalia Horecna, etc.
【プログラムA】『ルートヴィヒ2世—白鳥の王』パトリック・ド・バナ:振付、『ハムレット』ジョン・ノイマイヤー:振付、ほか
【プログラムB】『ル・パルク』アンジュラン・プレルジョカージュ:振付、『ノット・ウィズアウト・マイ・ヘッド』ナタリヤ・ホレツナ:振付、ほか

《マニュエル・ルグリの新しき世界》が3回目を迎えた。パリ・オペラ座バレエ団のエトワール時代は、同団の “輝ける仲間たち” を率いてシリーズ公演を行ってきたが、装いを変えて “新しき世界” のシリーズを立ち上げたのは、秋にウィーン国立バレエ団芸術監督就任を控えた2010年2月。その時は、シルヴィ・ギエムとの15年振りの共演が話題をさらい、また当時、日本では無名に近かったパトリック・ド・バナの振付作品による公演も組んだ。2011年の第2回は、東日本大震災と福島原発事故の影響で大幅な変更を余儀なくされながらも公演を遂行した。そして第3回。注目されたのはルグリによる自作自演のソロだったが、見送られてしまい何とも残念。デヴィッド・ホールバーグが怪我で不参加になったのも残念だが、ハンブルク・バレエから初登場のシルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコのペアや、オレリー・デュポンとルグリの共演が期待された。

【プログラムA】
幕開けは『カルメン』(ダヴィデ・ボンバナ振付)より、ホセがカルメンを刺し殺すシーン。ウィーン国立バレエ団のニーナ・ポラコワとキリル・クルラーエフがドラマティックに演じた。クルラーエフは、よりを戻そうとカルメンにすがる弱気なホセというより、従わせようと迫る強気なホセを造形してみせた。『ウィンド・アンド・クラウド』はパトリック・ド・バナの自作自演。オーガンジーのスカートで上半身裸のド・バナが、イランの伝統音楽で腕をくねらせて踊ったが、動きの語彙が限られており、開放感は感じられなかった。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』(バランシン振付)を踊ったのはウィーンの若手、マリア・ヤコヴレワとデニス・チェリェヴィチコ。リフトで危ない所もあったが、二人とも跳躍や回転で瑞々しい演技を見せ、クラシカルな作品の良さをアピールした形になった。

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シルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコは東京バレエ団と共に『スプリング・アンド・フォール』(ノイマイヤー振付)を踊ったが、内から溢れる音楽性や表現力が際立ち、しっとり紡がれたパ・ド・ドゥに陶酔感を覚えた。第1部の締めは、ルグリが踊る『こうもり』(プティ振付)。夫に不満なベラを飾りたてて夜会に連れ出すウルリックの役で、おどけた顔で足さばきも軽妙に、滑稽なキャラクターを楽しそうに演じていた。ベラ役のヤコヴレワも達者な演技を見せたが、足先の表情はやや型どおりに感じた。

第2部はスペイン舞踊のヘレナ・マーティンの自作自演の『トリアーナ』で始まったが、スペインの香りは希薄で作品の意図も分からず、中途半端に終わった。『バッハ組曲第3番』(ノイマイヤー振付)では、ヤコヴレワとクルラーエフが端正に抒情を漂わせて踊った。『赤い涙』では、振付をしたド・バナとスペイン国立ダンス・カンパニーの秋山珠子とディモ・キリーロフ・ミレフが、互いの個性を主張するように踊ったが、冗長の感は否めない。ノイマイヤーの独創的な『ハムレット』からアッツォーニとリアブコが踊ったのは、ハムレットがオフェーリアに別れを告げる場面。衣裳は現代風。アッツォーニが無邪気で可愛らしく、リアブコも純真な青年になりきり、束の間の喜びや別れの悲しみ、将来への不安に乱れる心の内を、感情豊かに、濃厚に表現した。最後はルグリの『ルートヴィヒ2世—白鳥の王』(ド・バナ振付)。ルグリは精神の錯乱したルートヴィヒがもがき苦しむ様を、せわしない身振りでリアルに伝えた。総タイツのポラコワがルートヴィヒを死に追いやる〈湖の貴婦人〉の存在は効果的だったが、ヤコヴレワが演じたエリザベートとルートヴィヒの関係の描写は曖昧に映った。初めて観た時は息を呑んだが、改めて観ると、ワーグナーの音楽を持て余しているような部分も少し感じられた。
(2013年4月17日 ゆうぽうとホール)

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【プログラムB】
トップバッターは秋山とキリーロフ・ミレフで、演目は『クリアチュア』(ド・バナ振付)。秋山が身体を巧みにコントロールして、しなやかさの中に強さを感じさせた。アッツォーニとリアブコは、ショパンの曲にのせた『ノクターン』(ノイマイヤー振付“Songs of the
 Night”より)を踊った。男と女が互いを触発して揺れ動く心の内を繊細に描き出して印象的だった。ヤコヴレワとクルラーエフは『アルルの女』(プティ振付)を的確に卒なく踊ったが、演技にもっと奥行がでればと思った。『ファクタム』はド・バナとスペイン舞踊のマーティンのコラボレート作品という。両者の強靭な個性は感じられたが、インパクトは今一つ。ルグリがオレリー・デュポンと踊ったのは、『ル・パルク』(プレルジョカージュ振付)より、恋愛の最終段階の作用を表す“解放”のパ・ド・ドゥ。以前に見た、マラーホフとヴィシニョーワの極めてアグレッシブな演技が生々しく記憶に残っているので、デュポンの優しく包み込むようなアプローチとルグリの静かに受け止める姿が新鮮で、官能性よりも切なさを感じた。踊り手によってこれほど違う舞台になるというのも驚きだった。

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第2部の最初は『エイムレス』。キリーロフ・ミレフの振付で、秋山と一緒に踊ったが、作品として印象に残らなかった。バランシンの『テーマとヴァリエーション』では、リュドミラ・コノヴァロワとチェリェヴィチコが古典様式を踏まえた端正な演技を見せた。共演した東京バレエ団の、均整のとれた群舞やフォメーションの美しさも楽しめた。『ノット・ウィズアウト・マイ・ヘッド』は、スロバキア出身のナタリヤ・ホレツナがアッツォーニとリアブコのために振り付けた異色作。赤いワンピースのアッツォーニと、裸の上半身に黒いジャケットをはおり黒いパンツをはいたリアブコが、時おり会話とも叫びともつかぬ声がこだまする中、野性を露わにして激しいダンスを繰り広げた。二人の表現力には感心したものの、戸惑いも覚えた。『モシュコフスキー・ワルツ』(ワイノーネン振付)では、ヤコヴレワとクルラーエフがアクロバティックなリフトを次々と鮮やかにこなし、フィシュ・ダイブもきれいに決めて爽快だった。最後はもちろんデュポンとルグリ。演じたのは、ノイマイヤーが現代的な解釈を施した『シルヴィア』より、シルヴィアとアミンタの再会と別れを描いた最後のシーンと思われる。オレンジ色のスーツを着てトランクを持つデュポンは落ち着いた雰囲気の女性で、緑のTシャツに白っぽい上着とパンツのルグリは朴訥そうな男性。最初は隔たりがあったが、音楽に突かれるように絡み合い、留めようとする男と去ろうとする女の葛藤を克明に伝え、ドラマを息づかせた。男が倒れると、女が静かにその手を取る最後が余韻を残した。

こうして第3回は幕を閉じたが、少々気になったことがある。まず、AプロもBプロも、ほとんど現代の作品で占められていたことである。“新しき世界”を新しい作品で提示しようとした意欲は理解できるし、刺激的な新しい作品もあるにはあった。けれど正直なところ、そうした作品の出来にはかなりのバラツキを感じてしまった。それゆえ、上演作品の選択には、演目によって招くダンサーが左右されることもあるので、より一層、慎重であって欲しいと思う。また、ルグリはド・バナを極めて高く評価しているが、AプロとBプロで合わせて彼の作品が5つというのは偏ってはいないだろうか。完成度にも差があった。ここに、各プロで1作品とはいえ、バランシンが上演されるとほっとしたことも書き添えておきたい。ルグリが追求する“新しき世界”のヴィジョンを今一度、明確にした上で、より魅力的なシリーズに発展させてもらいたいと思う。
(2013年4月20日、ゆうぽうとホール)

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