ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.08.10]
♪バレエ昔も今も♪BALLET OLD AND NEW♪
横浜ベイサイドバレエは横浜港が暮れなずんでいく時刻に幕を開ける、という洒脱な趣向だった。その借景となった黄昏の港を見ていると、パリのグランパレで上演されたベジャールの革命祝典劇『1789‥‥そして私たち』のことが思い出されてきた。グランパレの特設舞台は野外ではないが、巨大なガラスのドームなのでやはり黄昏れる自然の光を使ってバレエが始まったからだ。当時(フランス革命200年あたる1989年)のベジャール・バレエ団には、ジョルジュ・ドンが健在で、現在の芸術監督ジル・ロマンや最近はルグリと仕事をすることの多いパトリック・ド・バナも踊っていた。そのほかセルジュ・コンパルドン、ルーベン・バックなどの20世紀バレエ団でも活躍したダンサーも異彩を放っていた‥‥。
ベイサイドバレエの舞台では懐かしいテオドラキスのメロディが流れて『ギリシャの踊り』。これはミッシェル・ガスカールの持ち役だった。長い手足を使って独特のギリシャのリズムを表し、神々の時代から今日まで変わらず打ち寄せる波の永遠を謳う音楽を身体で見せてくれた。 そしてまた『ボレロ』。ピンスポットで闇の中に浮かび上がったジョルジュ・ドンの手。神に捧げられたドンの身体が奏でるメロディと真っ赤なテーブルを囲むリズムたちの動きにドキドキしながら、心をおののかせていたこともあった、などと久々に観たベジャール全盛時のダンスの雰囲気に酔って、思わず感慨に耽った。

アナニアシヴィリがマトヴィエンコと日本最後の『白鳥の湖』全幕を踊った

State Ballet Georgai Artistic Director Nina Ananiashviri
グルジア国立バレエ団 芸術監督ニーナ・アナニアシヴィリ
Choreography by Marius Petipa Lev Ivanov, Staging New Libretto and New Choreography by Alexei Fadeyechev 『SWAN LAKE』
マリウス・プティパ、レフ・イワノフ原振付、アレクセイ・ファジェーチェフ演出・台本改訂・振付改訂『白鳥の湖』

ニーナ・アナニアシヴィリが日本では最後となる『白鳥の湖』全幕を踊る。とうとう、ニーナが華々しく踊っていた時には思いもしなかったその時がきたのだ。

tokyo1208a01.jpg 撮影/瀬戸秀美

会場で販売されているプログラムには、かつてペアを組んでジークフリートを踊った著名なダンサーと愛娘の写真が掲載されていたが、プリマ・バレリーナとしてグルジア国立バレエ団の芸術監督として、ニーナはなお活発に舞台に活躍している。少々ふっくらとして母の優しさを漂わし貫禄がついたようにも見えた。しかし、その技のスピードと切れは相変わらず卓越して素晴らしい。黒鳥のパ・ド・ドゥを踊るニーナのオディールは、あのメロディを聴いただけでいつも自ずと瞼に浮かんでくる。もう脳裡に焼き付いて離れないのだ。
ジークフリートを踊ったデニス・マトヴィエンコはキエフ・バレエ団の芸術監督も兼ねるマリインスキー・バレエ団のプリンシパルだが、動きはきれいだし優雅で演劇的な表現力も備えている。ニーナの日本最後の『白鳥の湖』のパートナーとしては申し分のないダンサーだった。
ヴァージョンは元ボリショイ・バレエ団のプリンシパルで現在はこのカンパニーの芸術顧問を務めるアレクセイ・ファジェーチェフが演出.改訂したもの。ジークフリート王子役の男性ダンサーが、なかなか上手くいかないリハーサルに熱中しているうちに疲れ果ててスタジオのフロワで寝てしまい、『白鳥の湖』の2幕以後の全ストーリーを夢に見る、という物語構成になっている。そしてスタジオで目覚めて現実に戻ると、夢でみた白鳥のバレリーナが現実のスタジオを、ふと横切ったかのように感じたというもの。ラストシーンと言うかエピローグは幻想のリアリティを巧みに表している。ただカタルシスがなく、ちょっと拍子抜けの感じ無きにしもあらずだった。
3幕の民族舞踊はナポリターナ、チャールダッシュ、スパニッシュ、マズルカで構成されており華やかで闊達。十分楽しめたが、ルースカヤがなかったのはロシアへの反発からだろうか、などと余計なことを考えてしまった。
(2012年6月27日 東京文化会館)

tokyo1208a02.jpg 撮影/瀬戸秀美 tokyo1208a03.jpg 撮影/瀬戸秀美
tokyo1208a04.jpg 撮影/N.Razina

※写真は記事当日のものではありません