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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.04.10]

日本の民話「鶴の恩返し」を首藤康之が見事なヴィジュアルの中で踊った

ウィル・タケット演出・振付「日本民話 ”鶴の恩返し”」、首藤康之ほか出演
KAAT 神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場はオープン1周年記念にあたって、NIPPON文学シリーズとして太宰治『トカトントンと』『お伽草紙』などを上演してきた。その第2弾はウィル・タケットの演出・振付によるダンス作品『鶴』を日英共同制作して上演した。これはKAATのクリエイテブパートナーをである首藤康之が積極的に参加しているもので、首藤と後藤和雄ほかの外国人ダンサー6名が出演した。

tokyo1204e01.jpg 撮影/阿部章仁

演出・振付のウィル・タケットは、振付家で英国ロイヤル・バレエ団のゲスト・プリンシパル・キャラクター・アーティスト。2009年に日本公演が行われたアダム・クーパー、ウィル・ケンプ、ゼナイダ・ヤノウスキー出演のストラヴィンスキー『兵士の物語』(2004年初演)を演出している。
タケットは演出にあたって「言葉に対して音楽性溢れる向き合い方ができる」オペラの専門家アラスデア・ミドルトンに脚本を依頼し、「言葉を音楽と渾然一体の表現へと昇華」することを目指した、という。そのために舞台には終始ナレター(ユアン・ワードロップ)が、”詩”的な言葉を英語で語り、観客は日本語字幕でそれを読む、という上演形式だった。これは『兵士の物語』の時と同工だが、要するに文楽や歌舞伎などのように歌詞を聞ききながら、情動を高めて芝居を見る、という日本の芸能のスタイルと同様の演出ともいえるだろう。
しかし、言葉はその国の固有の伝統文化と分ち難く結びついているから、英語の音の響きによって、日本民話を題材にしたダンスを観ると大きな違和感が感じられた。さながら「鶴の恩返し」の英語劇を見ているような気分だった。もちろん、歌舞伎や文楽の歌詞は観客と共感するように様式化されているので、舞台上の所作と融合して音楽的な感覚も満たしてくれるのだが、英語のナレーションとなるといかに詩的表現であっても、日本人がそこに音楽性を感じるのは至難ではないだろうか、そうした意味で逆にインターナショナルな舞台にはなっていない。

舞台のヴィジュアルはなかなか良かった。全体を日本的な横長な空間にデザインし、紙とおもわれるスクリーンを通した光りなどを使って、寓話の完結した世界を光の構成によって作った照明、和田エミのデザインした鶴が身を削りながら織った掛け替えのない布は、今織りあがったばかりの温もりさえ伝わってくる感触を感じさせる素晴らしいものだった。藤原道三の尺八も余韻嫋々として見事だったが、聴き入っているとあっさり切り捨てられてしまうところもあった。
白い障子を思わせる何枚かの移動式のパネルをスクリーンに使った、モノクロームの映像も美しかった。織り糸を想起させる舞台上に縦横に張っただけの装置はこの上なく効果的だった。このようにヴィジュアルは極めて象徴的に創られているのに、具体的な鶴の人形を文楽のように動かすのには、いささか驚いたが、平気で観ている観客も多かったので、そういうものなのかもしれない。ただ、こうした人形自体の動きと黒子として人形を動かすダンサーたちの動き、そして物語の登場人物としての動きは、どうしても一体感をもって見られず、バラバラに感じられてしまった。首藤の動きに特別な見せ場がないのは致しかたないとしても、もう少し鶴イメージさせるような象徴的な動きがあってもいいのではないだろうか。
バレエの『白鳥の湖』にも匹敵するくらいの日本の幻想美のイメージと出会えるのではないか、と期待していたのでいささか残念だった。
(2012年3月17日 KAAT 神奈川芸術劇場 ホール)

tokyo1204e02.jpg 撮影/阿部章仁 tokyo1204e03.jpg 撮影/阿部章仁