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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.04.10]

楽しかった、復元初演されたプテイパ晩年の名作『アレルキナーダ』

プティパ振付、安達哲治、アレクサンドラ・ミシューチン復元・演出・再振付『アレルキナーダ Les Millions d'Arlequin』、アントゥール・サン=レオン振付、ナタリア・ボスクレシェンスカヤ復元・振付『まぼろしの島 The Magical Island』
NBAバレエ団

NBAバレエ団がマリウス・フティパの晩年の作品『アレルキナーダ』(音楽リカルド・ドリコ)を復元初演し、『せむしの仔馬』第2幕「まぼろしの島」(アントゥール・サン=レオン振付、ナタリア・ボスクレシェンスカヤ復元・再振付)を同時上演した。NPO法人となって10周年を記念した公演ということで、プログラムには錚々たるお歴々がお言葉を寄せている。

tokyo1204c01.jpg Photo:(C)鹿摩写真

大金持ちの道化師と注記されているバレエ『アレルキナーダ』は、1900年にサンクトペテルブルグのエルミタージュ劇場で初演された。この劇場は、現在のエルミタージュ博物館の中にあり、豪奢な円柱などを配した特別な雰囲気のある小劇場(今日では観光客用バレエの上演が多い)で、最初の2回公演はこの劇場で帝室の招待客のみを集めて行われた。
続いてマリインスキー劇場で行われた公演は、史上ふたりしかいないバレリーナアッソルータのマチルダ・クシェシンスカヤの舞台生活10周年記念恩賜(ベネフィス)公演だった。恩賜公演は通常、舞台生活20周年を迎えたダンサーにのみ与えられ、その収益金が下賜される。(マリインスキー・バレエ団は帝室に所属するから「下賜」となり、日本も帝国だったから上野公園などは下賜された)ところがニコライ二世の皇太子時代の公認の愛人だったクシェシンスカヤは通例に囚われず、マリインスキー劇場総裁を飛び越えて、宮内省の大臣のフレデリクス男爵に10周年でこの権利を得られるように直談判した。その交渉の様子はクシェシンスカヤの自伝『サンクトペテルブルグのバレリーナ』(平凡社刊)に描かれているが、フレデリクス男爵は宮内大臣なので、マリインスキー劇場の公演では常に最前列の中央に座っている。クシェシンスカヤは、その男爵の胸に光る勲章をグランフェッテを回る時の目印にさせてもらっています、と感謝の言葉を述べて交渉を始めた、などと回想していてたいへんおもしろい。
クシェシンスカは、じつは人物スケッチがなかなか上手い。自伝ではそのほかにもプティパやイワノフ、ディアギレフやパヴロワ、ダンカンなどの人間的な一面を鮮やかにそしてユーモラスにあるいは軽いアイロニーも添えてスケッチしていて、なかなか興味深いものがある。閑話休題。

tokyo1204c02.jpg Photo:(C)鹿摩写真

NBAバレエ団の『アレルキナーダ』全2幕の舞台は楽しかった。コメデア・デラルテのキャラクターを使ったバレエ。というよりもコメデア・デラルテの英国版ハーレクィンの無言劇、ジョン・ウィーバーの舞台に基づいたバレエ、と言ったほうが近いだろう。
娘のコロンビーヌを恋人のアルルカンよりも金持ちのレアンドルと結婚させたい、と思っている父親カサンドルを巡って、従僕のピエロやその妻のピオレットたちを巻き込んで右往左往する。やがて善の精の登場によって、恋人たちは無事に結婚することになる、というお決まりの物語だ。
コロンビーヌにマリインスキー・バレエのファーストソリスト、エカテリーナ・オズモルキーナを、アルルカンにはソリストのアレクセイ・テモフェーエフをゲストに迎えて上演された。
第1幕はイタリアの小さな街の屋敷の前の広場。付近ではカーニバルが開催されている中のドタバタ調の展開だが、おおらかで楽しい。月明かりに浮かび上がる館とデザインが可愛らしい衣裳、ダンサーたちの気持ちものっていて良い雰囲気だった。第2幕の公園では善の妖精も登場してこころ温まるハッピーエンドを迎え、色とりどりのキャラクターたちも収まるところに収まる。
復元・演出・再振付にはバレエ団の総芸術監督、安達哲治とモスクワ音楽劇場バレエ団やモスクワ・クレムリン・バレエ団などで踊ったアレクサンドル・ミシューチンが行った。ハーヴァード大学の保管されているセルゲイエフのノーテーションに基づいて復元を試みた、と言う。復元という時間を越えた困難な作業から、新しい創造の芽が育つことを大いに期待したい。
NBAバレエ団が2001年に復元上演した『せむしの仔馬』第2幕の「まぼろしの島」が同時に上演された。
(2012年2月26日 ゆうぽうとホール)

tokyo1204c03.jpg Photo:(C)鹿摩写真 tokyo1204c04.jpg Photo:(C)鹿摩写真
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